庖丁研ぎアトリエ@パリのレストラン「アストランス」 フランスの週刊フードニュース 2023.06.18
今週のひとこと
だいぶ投稿まで時間が経ってしまいました! いつも読んでいただいてくださっていらっしゃる方々、大変申し訳ございません。
パリの3つ星を長年有して、昨年ようやく移転オープンを果たしたばかりの、パスカル・バルボ氏オーナーシェフ「アストランス」にて、弊社マリナ・メニニが庖丁研ぎのイニシエーションを開催してきました。
移転は、同じ16区ですが、より凱旋門近く、昔の故ジョエル・ロブションさんが3つ星を獲得した伝説的な場所として知られる「ジャマン」跡に。16区のお店は日本人の料理人さんの齊藤照允さんが引き継いで「オルタンシア」として改装オープン。今年のミシュランガイドで「アストランス」も揃って1つ星を獲得しています。齊藤さんの店も余談ですが、季節ごとに通いたい素晴らしい店です。
パスカルがバルザック通りに店をオープンしたばかりの頃、2000年にその評判を聞いて食事をしに行ったのが、初めての経験だったので、星もない頃からの知己でした。アルページュの伝説的な料理人アラン・パッサールの愛弟子で、アルページュが3つ星を獲得したときに厨房にいたという精鋭。そんなパスカルが独立オープンするというので、ガストロノミー界は沸きかえっていたのを思い出します。
アラン・パッサールの料理も独自の道をいくものですが、パスカルは、それを次世代として、違う形で表現していると思います。例えばメニューには素材の名前しか書かないという姿勢。そうしたメニューは、あちこちのレストランで散見するようになり、いまでは珍しくなくなったのですが、パスカルは先駆者でした。
また、ガストロノミーレストランですと、例えば「鳩」の料理を出すとする。そのメインとなる鳩を、ブイヨン、部位違いを調理を変えて出すなど、料理人して保持する技術を余すことなく1つのシーンで披露したものでしたが、パスカルは基本的に一品勝負。スペシャリテは、マッシュルームをミルフィーユのパイ生地に見立て、中にフォアグラと青リンゴとで重ねて出していた前菜でしたが、一品勝負の、その繊細な香りと味わいとテクスチュアには驚かされたものでした。パスカルは時代の流れを作った料理人の一人だなと思います。
旧「アストランス」のキッチンはだいぶ小さく、手狭でした。「温度もすぐに上がってしまったので、大好きな貝を扱えなかったのは残念だった」とパスカル。現アストランスでは、季節の貝の一皿を突き出しとしてサービスしています。春の貝の一皿は以下のよう。センシュアルな貝の味わいを生かす香り立つような、素晴らしい突き出しです。
ハマグリ 柑橘の果汁とコリアンダー風味のソース、ピリ辛ソース
牡蠣のヘーゼルナッツオイル風味、トリュフ入りヴィネグレットソース
巻き貝、ワカメのマヨネーズ、昆布添え
ところで、齊藤さんは旧「アストランス」を全面改装したので、「オルタンシア」のキッチンも変身。狭さを感じない整備されて働きやすい空間になっていました。
パスカルは日本料理アカデミーからの招聘などで日本に何度も訪れたことがあり、日本の料理はもちろんへの関心が高く、和の素材を見事に取り入れています。テーブルセットには、ナイフ、フォークだけでなく、お箸も添え、料理の付け合せに、炊いたコシヒカリの白米まで(なんとパリで精米までお願いされています)。日本人が愛でる侘助の美しさを心から理解できる、稀有なフランス人料理人だと思います。
そんな彼が現アストランスで力を注ぎたいのは、若いスタッフを育てることだといいます。そんな声を聞き、弊社は庖丁研ぎのレッスンをお届けすることにしました。サービスの合間の短いアトリエでしたが、若い料理人さんたちが次々に質問を投げかけて、庖丁研ぎの大切さに目覚めたのは、嬉しいひとときでした。#atelierdomaparis
「マリナの知識は本当に素晴らしく、料理人に説明する方法も非常に建設的で面白い。よい仕事をするためには、よい包丁が必要であり、庖丁のメンテナンスを理解して学ぶことは非常に重要だと思いました。研ぎのアトリエは、厨房にいるすべての若者にとって、とても良い効果をもたらすと思います」とコメントをしてくれたパスカルに感謝。
どんな庖丁でもサビないことはなく、表面にサビが出てきてしまうことがよくあります。ついてしまったサビはほっておくと、どんどん奥に侵攻してしまう。サビが小さなうちに磨き落とすことの大切さも伝えました。小さなゴムで磨き落とすと、料理人さんにとっては、はじめて知ったメンテナンス方法だったらしく、乗り出すように見て驚きの声を上げていたのが印象的でした。
サビをゴムでとるというのは、私たちにとっては当たり前と思っていたのですが、フランスのキッチンでは当たり前ではなかった。外のキッチンに行って、実地の料理人さんと接するからこそ見えてくることはたくさんあると教えてもらえるひとときでした。
マリナはエコール・アラン・デュカス でも教えていますが、これからは、弊社12区のアトリエだけでなく、果敢に外のキッチンへ出向いていくのが、我々のためになるのではないかと感じています。
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