王様のガレット02@Sébastien Dégardin Paris フランスの週間フードニュース 2022.01.13
今週のひとこと
中に、アーモンドクリームとカスタードを合わせたクリーム、フランジパーヌを焼き入れたパイ菓子「王様のガレット」を今週もご紹介します。信頼する某日本人女性から、今年のガレットの中で3本の指に入ると聞いて早速購入。泣く子も黙る3つ星レストラン「トロワグロ」のシェフ・パティシエを若くして務めたことのある精鋭で、現在は、パリで街角で愛されるパティスリーを構えていらっしゃるSébastien Dégardinさんのガレットです。ふんわりと炊き上がったフランジパーヌ、さっくりとしたフイユタージュ生地のコンビネーションは、あっという間に食べ進めてれてしまうくらいに軽やかで味わい深く、絶品でした。
お店は、パリ5区のSainte-Genevièveの丘にそびえ立つパンテオンのそばにあります。パンテオンは、18世紀後半の建造物で、フランスの偉人たちを祀る霊廟として有名です。
フランスは今年の春、大統領選を控えているのですが、候補者である2人の女性が、あるコメディー・フランセーズ出身の俳優の進言に賛同し、今年生誕400年を迎える、モリエールをパンテオンに埋葬することを願い入れました。モリエールは、17世紀のフランスの古典主義3大劇作家の1人で、喜劇作家です。しかし、大統領府は拒否。2人の女性とはパリ市長で左派の社会党候補として出馬するアンヌ・イダルゴ氏と中道右派LR共和党のヴァレリー・ペクレス氏。パンテオンに祀ることができるのは、共和国を守った、啓蒙の世紀、あるいは革命以降の偉人のみだそうで、「フランス語の父」とも言われるモリエールでさえ、異例は許されないということ。「モリエールは演技に革命起こした、時代に固定される存在ではない」とのモリエール・パンテオン入りの支持者たちの声は、残念ながら届きませんでした。
フランスでは、英語のことをシェークスピアの言葉といったり、イタリア語のことをダンテの言葉というように、フランス語のことを「モリエールの言葉」といいます。「ドン・ジュアン」や「タルチュフ」などの作品で、権力者に向けた風刺たっぷりのシーンを描きながらも、上手に時代をすり抜けてきた、言葉の手腕というのも大きかった、モリエールにフランス語を操る精神の原点を見ることができると思います。
以前、翻訳させていただいた、ブリア・サヴァランに影響を与えたという美食家グリモ・ドゥ・ラ・レヌエールの1808年の著作「招客必携」の原名は「Manuel des Amphytoryons」。この 「Amphytoryon」は実は、モリエールの作品名から。ギリシャ神話になぞらえて、アンフィトリオンの妻に惚れたジュピターが、留守中のアンフィトリオンに変身して寝とってしまう、ヘラクレス誕生にまつわる物語を喜劇仕立てにしたものです。本物のアンフィトリオンは、惜しみないサービスをしてくれる人だ、ということで従事が見破る。その逸話から、革命後に台頭した権力者、本物のサービスを知らない人に向け、古き良き、次世代に伝えるべき食卓儀礼をまとめたマニュアルが本書でした。
ところでペクレス氏は、1月頭の、大統領選立候補としての声明の中で「Kärcher(ドイツ生まれの強力な洗浄機メーカー)を地下室からもう一度出して、街をきれいにし、通りに秩序を取り戻したい」と過激な発言をして物議を醸しています。この同じ言葉は国土整備大臣時代のニコラ・サルコジ氏が2005年に発しており、極論だと非難が集まったことで知られていましたが、敢えて、サルコジ氏の薫陶を受けたペクレス氏が、この言葉をもう一度引っ張り出して、注目を集めようとした行為のようでした。それに対してKärcherは、政治的に名前を利用された、不適切な発言だとペクレス氏を非難しています。そんなペクレス氏が言葉をインテリジェントに操るモリエールをパンテオンにと声高に求めているのも、奇妙に感じます。候補者たちの発言が過激な右寄りに動いているのも感じ、心がざわつきます。時代が変化しつつある今、「王様のガレット」の中に入ったフェーヴが、間違った人に当たって、王冠を被ることがないことを祈るばかりです。
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美食大国フランスから。週刊食関連ニュース
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