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※和訳まとめの前回記事はこちら ※
※当記事は考察や個人の見解を含みます。ご了承下さい。※
LOVE YOURSELFシリーズ以降にBTSが発表した5つのアルバムに、特典として封入されたmini版の花様年華 THE NOTES を和訳していきます。 mini版のNOTESの詳細は【資料①和訳まとめ-1】 の記事の冒頭を参照してください。
第一弾に引き続き、第二弾の当記事では037(year22.04.11)~061(year22.05.22)のNOTESを整理 します。
前回とは異なり、第二弾からはタイムリープの起点であるyear22.04.11以降のため、世界線が入り乱れ、同じ日付に違う出来事が起きる(≒ 違う日付で同じ出来事が起きる)という現象が発生 します。
そして、ややこしいですが、あくまでタイムリープをしているのはソクジン一人だけなので、ソクジン以外の6人のNOTESはどの世界線のものであっても、本人にとっては一度目の現実の出来事である という認識を改めて念頭に置いて読み進めてください。
また、下線部は全て該当作品等へのリンクになっています。
目次は読み飛ばしていただいて大丈夫です。今後考察をされるときに、見返すタイミングがあれば索引代わりに使ってください。
037【LYS承’Her’:LOVE-E】ソクジン year22.04.11 year22.04.11 ソクジン 一人で海に来た。ファインダーの中の海は、いつものように広く青く拓けてていた。水面に反射して揺らめく日差しも、松の森から吹いてくる風も、いつも通りだった。変わったことがあるとしたら一人であるという事実だけだった。シャッターを押すと目の前の風景が過ぎ去って、2年10ヶ月前のあの日が一瞬現れて消えた。あの日、僕らは並んで海の前に座っていた。疲れ果て、何も持ってなく、途方に暮れていたが、一緒だった。 アクセルを踏んでハンドルを回した。トンネルを抜け、休憩所を通り過ぎた。みんなで一緒に通った学校の近くに到着し、車の窓を開けた。春の夜だった。空気は暖かく、学校の塀に沿って広がる木から桜が舞い散っていた。学校を後にし、いくつかの交差点を過ぎ、何度かの左折や右折を繰り返した。少し離れた所に、ナムジュンが働くガソリンスタンドの灯りが見え始めた。
⇒ タイムリープ前、本当の現実で迎えた一度目のyear22.04.11。この日ソクジンはガソリンスタンドで働くナムジュンを見かけますが、立ち寄らずにそのまま通り過ぎます。そして、year22.05.22に再びガソリンスタンドを訪れるまでの間に'I NEED U' Official MV で描かれた5つの不幸な出来事 が起こりました。 短いですが、「一人/海/写真(ファインダー、シャッター)/森/一緒/トンネル/学校/交差点/繰り返し」などの【花様年華】頻出ワードが目白押しの重要なNOTESです。「2年10ヶ月前のあの日」は'I NEED U' Official MV で描かれている学生時代に7人が歩いて海へ行った日。映像としてはトンネルは'RUN' Official MV 、休憩所は화양연화 on stage : prologue に登場しているので、その辺りを見直すとソクジンが海から市内までの道中で目にした景色をイメージしやすいかなと思います。
【花様年華】においてyear22.04.11はタイムリープの起点となる非常に重要な日付 であり、最も多くのNOTESが存在します。year22.04.11の状況はタイムリープを繰り返す度にどんどん変化 していきます。
038【LYS承’Her’:LOVE】ジョングク year22.04.11 year22.04.11 ジョングク 結局、僕の思い通りになった。道端にいた不良たちにわざとぶつかって、思いっきり殴られた。殴られながら笑ったら、「狂った奴だ」とさらに殴られた。シャッターにもたれて空を眺めた。もう夜だった。真っ黒な空には何も浮かんでなかった。少し離れたところに雑草が生えているのが見えた。風が吹くと倒れた。僕みたいだった。涙が出そうになって、またわざと笑った。 目を閉じると義父がわざとらしく咳払いをする姿が見えた。義理の兄が脚を引っ掛けて笑った。父の親戚たちは知らんぷりをして、関係のない話をしていた。まるで僕がそこにいないかのような、僕の存在は何でもないような行動だった。彼らの前で母親だけが慌てていた。地面から立ち上がると埃が舞い上がって咳が出た。みぞおちの周りがナイフで刺されたように痛かった。工事現場の屋上に登った。夜の街が不気味な色で覆われていた。手すりの上に登って両手を広げて歩いた。一瞬、ふらっとバランスを失いかけた。あと一歩で死んでしまうだろうという思いがよぎった。死んだら全てが終わりなのに。誰も、僕がいなくなったとしても悲しまないのに。
⇒ 'I NEED U' Official MV で描かれた本当の現実での出来事。事故か自殺かは定かではありませんが、この後ジョングクは足を踏み外して転落死します。
039【LYS結’Answer’:SELF】ナムジュン year22.04.11 year22.04.11 ナムジュン 給油を終えて振り返ると、何かが顔をかすめ落ちた。思わず後退って見下ろすと足元に丸まった紙幣が落ちていた。反射的に体を折って手を伸ばした。車内に座った人たちが騒ぐように笑った。瞬間的に止まった。少し離れたところでソクジン兄さんが見ていた。顔を上げることが出来なかった。高い車に乗って、寄って集って他人を無視して嘲笑う奴と目が合えば、どうするべきか。対抗する。彼らの行動が不当であれば立ち向かうべきだった。俺の器の問題でも、プライドの問題でも、平等であるかどうかの問題でもない。当然そうするべきだった。 しかし、ここはガソリンスタンドで、俺はアルバイトの給油係だった。お客様がゴミを投げたら片付けて、お客様に文句を言われたら聞いて、お客様が紙幣を投げたら拾わなければならなかった。軽蔑されたようで身体が震えた。拳を握り締めた。爪が皮膚に食い込んだ。 その時、誰かの手が紙幣を拾った。それから俺に手渡した。車に乗った人たちは気が変わったように白けてガソリンスタンドから出ていった。彼らが去った後も、俺は顔を上げることが出来なかった。ソクジン兄さんと真っ直ぐに目を合わせる自信がなかった。俺は卑怯で、貧乏で、俺の境遇を兄さんが知らないわけではなかったが、それでもこんなところを見られたくはなかった。兄さんは俺の視界の端から動かなかった。近付いて来ることも、喋りかけて来ることもなかった。
⇒ ウェブ漫画 で描かれている、ソクジンが数回のタイムリープを経て「本当の現実の出来事を変えすぎてはいけない」のだと理解した後の世界線であると思われます。
040【LYS轉’Tear’:YOUR-R】ソクジン year22.04.11 year22.04.11 ソクジン ギィっという摩擦音と共に辛うじて車が停止した。考え込んでいて信号が変わっていたことに気が付かなかった。車窓の向こうで、見慣れた制服を着た学生たちが横断歩道を渡りながら僕を見た。後ろ指を指す人もいた。苦笑いをして頭を下げた。 何をすべきかは分かっていた。怖くないわけではなかった。果たして僕は、全ての不幸と過ちを正すことが出来るのだろうか。度重なる失敗は、絶対に成し得ないという意味ではないだろうか。諦めろという意味ではないだろうか。僕たちにとって幸せとは、願うことすら無駄な希望にすぎないのだろうか。多くの考えが頭の中を行き来した。 いつの間にかガソリンスタンドのある交差点に着き、少し離れた所でナムジュンが給油をしている姿が目に入った。息を大きく吸って、ゆっくりと吐いた。ユンギ、ホソク、ジミン、テヒョン、ジョングクの顔を一人ひとり思い出していった。それから車線を変えてガソリンスタンドに入った。諦めることは出来なかった。例え1パーセントの可能性だとしても諦めない。車窓の向こうからナムジュンが近付いてくるのが見えた。
⇒ ウェブ漫画 で描かれている、度重なる失敗により一度は諦めかけたソクジンが、再び自分を鼓舞して行動を起こした場面から続く車中での出来事。
041【LYS結’Answer’:SELF-F】ソクジン year22.04.11 year22.04.11 ソクジン 目を開けるとまた4月11日だった。開いているカーテンの間から光が溢れるように入ってきた。身体を起こすと、目眩がしてまた目を閉じた。辺りの風景が赤い残像に変わり、テヒョンの姿が浮かんだ。海岸の展望台の上に一人で立っていた。5月22日のことだった。過去であり、未来、すでに起こったことであり、これから起こることでもあった。全てが解決されたと思った瞬間の出来事だった。 テヒョンが展望台に上がるのを見たのは日没し始めた頃だった。空はまだ青く優しかったが、次第に赤黒いオーラで満たされ始めていた。僕は首を回し、テヒョンが展望台に上がるのを見た。テヒョンはてっぺんに到着すると僕らをしばらく眺めていた。それから飛び降りた。まるで鳥のように、翼を持ったかのように跳躍した。一瞬空に停止したかと思うと、鏡が割れたように、カーテンが開かれて冷たい風が押し寄せるような気がした。 そして目を覚ましたとき、今日、4月11日だった。
⇒ 화양연화 on stage : prologue で描かれている、テヒョンが展望台から飛び降りた場面の直後に起こったタイムリープから目覚めた日のNOTES。ソクジンがやっとの思いで辿り着いたあの海での出来事を回想する、Euphoria へと繋がる世界線の始まりの日です。
042【LYS結’Answer’:SELF-L】ジョングク year22.04.11 year22.04.11 ジョングク 屋上の手すりの上を歩いた。工事が中断されて捨てられた建物。空中に足を伸ばすと、つま先に闇が広がった。手すりの下で夜の街が目まぐるしく広がっていた。ネオンサインと車のクラクション、煙たい土埃が闇の中で渦巻いた。瞬間的に目眩いがして、身体がグラついて躓いた。重心を捉えようと腕を広げた。その時に思った。ちょうどあと一歩だった。あと一歩だけ踏み出せば、全てが終わりだった。闇に向かって少し身体を傾けてみた。つま先から始まった闇が、いつの間にか全身を飲み込むように広がってきた。目を瞑ると、街の喧騒も、雑踏も、恐怖も消えた。息を止めた。それからゆっくりと身体を傾けた。何も考えていなかった。誰のことも思い出さなかった。何も残したいとは思わなかった。何も覚えていたくなかった。ただ、このまま終わりだと思った。 着信音が鳴ったのはその時だった。遠い夢から覚めるように我に返った。ぼんやりとした感覚も、一瞬で元の位置まで戻ってきた。携帯電話を取り出した。ユンギ兄さんだった。
⇒ 本当の現実ではそのまま転落死をしていたタイミングで、ユンギからの着信に気が付くEuphoria へと繋がる世界線。041のNOTES と同じ日です。着信は、ホソクからコンテナで集まるという話を聞いたユンギが、7人で過ごした日々を懐かしがっていたジョングクを思い出して誘う電話でした。
043【LYS結’Answer’:SELF】ユンギ year22.04.11 year22.04.11 ユンギ 少し離れて付いてくるジョングクの気配を気にしながら歩いた。長く伸びた線路に沿って、コンテナがずらっと並んでいた。「後ろから4番目のコンテナです」ホソクは「ナムジュン、テヒョンと会うから兄さんも来るように」と言っていた。返事はしたが、本当に行くつもりはなかった。人と関わり合うことが苦手で、それはホソクも知ってる事だった。俺が本当に来るとは思わなかっただろう。 ドアを開けると、すぐにホソクが驚いた顔をしていた。そしてジョングクを見つけて、全身で大げさな素振りをして喜ぶような表情を浮かべて近付いてきた。俺は二人を通り過ぎてコンテナの奥の方へ向かった。「久しぶりだな!」抱き締めようとするホソクと、照れるジョングクが揉めている声が聞こえた。 それからすぐにナムジュンがテヒョンを連れて入って来た。テヒョンのTシャツが破れていた。何があったんだという話に、ナムジュンはテヒョンを殴るフリをした。「こいつがグラフィティをして警察に捕まったのを連れ返していたら遅れました」テヒョンは大げさに申し訳ないフリをしながら、警察から逃げてTシャツが破れたと冗談を言った。 隅っこに座り込んだまま見つめていた。ナムジュンがテヒョンに着替えのTシャツを与え、ホソクはハンバーガーと飲み物のようなもの取り出していた。ジョングクはその中でどこにいて何をすべきか分からないみたいに、ぎこちなく立っていた。思い返してみると、高校の時もそうだった。アジトの教室のどこかでナムジュンがテヒョンに説教したり冗談を言ったり、ホソクはいつも何か忙しそうに動いて、ジョングクは自分の席がどこか分からないみたいにソワソワしていた。 あの時、こんな風に集まったことがどれくらいあっただろう。よく覚えていなかった。ソクジン兄さんとジミンはどうしているだろうか。自分らしくないと思った。初めて来る場所なのに、不思議と心が楽だった。
⇒ 042のNOTES でジョングクを誘い、連れ立ってコンテナに行った場面のNOTES。学校で最後に集まった日から約2年の時が経っていましたが、コンテナで再会した5人はすぐにあの【花様年華】の時代に戻ったかのように心を通わせます。
044【LYS承’Her’:LOVE-V】ナムジュン year22.04.11 year22.04.11 ナムジュン 買ったばかりのTシャツを探していたが、テヒョンが後ろの方から手を伸ばして適当なTシャツ1枚を掴んでいった。今、俺が着ているのと全く同じ文字がプリントされたTシャツだった。テヒョンは照れ臭そうに笑いながら、破れたTシャツを脱いだ。コンテナの中に引っ掛けてある薄暗い照明の下で、一瞬、痣の出来た背中が見えた。ホソクがびっくりした目で俺の方を見た。テヒョンは俺のTシャツを着て、薄汚い鏡に自分の姿を映した。そして笑っていた。 「こいつがグラフィティか何かやって揉めてて、警察に捕まりそうになったのを引っ張ってきて遅れたんだ」俺はテヒョンを小突くフリをして、テヒョンも大袈裟に申し訳ない素振りをした。コンテナの隅に座っていたユンギ兄さんがゆっくり近付くと、テヒョンの肩をポンと叩いた。
⇒ 043のNOTES と同じ場面。ナムジュンはテヒョンの家庭に問題があることを分かっていながら「テヒョンが自分から何か相談してくるまでは、」と自分に言い訳をして、見てみぬふりをしています。
045【MOS:7】ソクジン year22.04.11 year22.04.11 ソクジン 再び降り注ぐ日差しの中で目を覚ました。瞼の向こうには、まだコンテナから燃え上がる炎と死んでくナムジュンの姿が残っていた。今回も失敗だった。腕を上げて目隠しをしながら考えた。ナムジュンを救うためには、どんな方法が残っているのか。9月30日の状況をじっくりと振り返った。他に感情はなかった。焦りや、恐怖もなかった。 初めてコンテナ街で事故が起きて以来、数多くのタイムリープが起きた。しかし、僕はどうしてタイムリープが起こるのか、どうすれば解決できるのかがまだわからなかった。いや、それよりも、この全てを終わらせる手掛かりだという”魂の地図”が何かすらもわからなかった。”魂の地図”。その言葉を初めて聞いたのは何度も失敗を繰り返した後だった。「”魂の地図”を探せば、全てを終わらせることが出来るだろう」「”魂の地図”?それは一体何?」問い詰めたが返事はなかった。代わりにこんな言葉が残された。「ヒントには代償が伴うだろう」 遠くにナムジュンのガソリンスタンドが目に入った。ゆっくりとウインカーを出し、車線を変えた。ただ一つのことだけを考えた。9月30日の事故を防いでタイムリープを終える。ただその目標だけに向かって進む。その過程で何か問題が生じたとしても、誰かが怪我をしたり孤立したりしても仕方がないことだ。そんなことで立ち止まっていたら目的を果たすことは出来ない。みんなを救うことよりももっと重要なことは、僕だけでも生き残ってこのタイムリープから抜け出すことだ。それが、数え切れないほど繰り返したタイムリープが僕に与えた教訓だった。
⇒ 【花様年華】の記憶を失って”魂の地図”を探しながら、更に何度もタイムリープを繰り返した世界線。 世界線の異なる同じ日付の040のNOTES で、あんなにも切実に6人の幸せを願っていたソクジンの姿はなくなり、タイムリープを終わらせるために犠牲は付き物だという考えの元、ただ淡々と起こる出来事を処理していきます。「9月30日の状況」はBTS Universe Trailer の冒頭で描かれています。
046【MOS:PERSONA】テヒョン year22.04.11 year22.04.11 テヒョン 黒のスプレー缶で線を描いていた。冷めた顔、言葉を失ったような口元、乾いてパサついた髪の毛。夢で見た顔がモヤモヤとした線で灰色の壁の上に姿を現し始めた。あとは瞳を描くだけだった。俺は手を伸ばすのを止めて一歩後ろに退いた。 頭の中で顔は鮮明だった。瞳も鳥肌が立つほどはっきりとしていた。それなのに、どう表現すればいいのかが分からなかった。喜びや悲しみのような感情を全て失った、無関心と冷たさだけが残った瞳。それは数多くの色であり、ただ一つの強く混ざった色であり、何も物を言わないのがかえってより多くを語るような瞳だった。俺は何度もスプレー缶を持ち直したが、結局瞳を描くことは出来なかった。 ソクジン兄さんを最後に見てから2年が過ぎた。アメリカに行ったという話は聞いたが、その他に知っていることはなかった。兄さんが夢に出てきたのも初めてだった。時々どのように過ごしているか考えたことはあった。俺たちの教室であったこと、兄さんが校長と電話をしていた瞬間を思い出したりもした。兄さんに対しては、良い思い出も理解出来ないこともあった。だけど、どんな瞬間であっても夢の中で見たような冷たく乾いた姿ではなかった。 壁に描かれた顔をまた見上げてみた。明らかにソクジン兄さんだった。だけど、俺が知っている兄さんの姿ではなかった。どうして突然あんな夢を見たのか。その夢は不吉でゾッとする場面の連続だった。兄さんは、その全ての不幸を感情ない顔で眺めていた。俺はスプレー缶を握っていた手を降ろした。夢で感じたその冷たさに、首の後ろを掴まれて引かれるような感じがした。遠くからパトカーのサイレンの音が聞こえてきた。
⇒ ソクジンが”魂の地図”というヒントの代償に【花様年華】の記憶を失った後の世界線。夢で見たソクジンの冷たい表情をグラフィティに描いたテヒョンは、その足でナムジュンの元を訪ね、ソクジンが帰国していることを知らされます。
047【LYS結’Answer’:SELF-S】ナムジュン year22.04.28 year22.04.28 ナムジュン テヒョンに何かがあったことは随分前から気が付いていた。平静を装っていても、咄嗟の行動や表情、言葉遣いに、自分自身ではどうしようもない不安が滲み出ていた。警察署に出入りすることが多く、身体に傷もあった。そして悪夢を見ていた。 何があったのかと、全部打ち明けてみろと聞けなかったのは、テヒョンが自分から話すのを待っていたから。その一方で、俺にそんな悩みを聞く資格があるのだろうかと考えたりもした。兄さんのフリ、大人びたフリをしていたが、いざ友人が苦しんでいるとき俺はそばにいてやることが出来なかった。みんなが大人っぽいと褒め称えるが、本当に大人なわけではなかった。目の前の現実すら直視できないまま、躊躇ってばかりいた。 「ユンギ兄さんが死にました」今日もテヒョンは悪夢に魘されていた。肩を持って揺さぶると、驚いたように目を覚ましてしばらく呆然と座っていた。目に溜まった涙を拭う様子もなく、取り留めのない言葉を呟いた。ユンギ兄さんが死に、ジョングクが事故に遭い、俺が喧嘩に巻き込まれたのだと言った。「こんな夢ばかり見る」と、「生々しくて、まるでその夢が現実で、今が夢の中みたいだ」と言った。「兄さんはどこにも行かないでください」テヒョンの声が不安に震えていた。
⇒ ソクジンが変えた本当の現実 の出来事の夢に魘され、不安な夜を過ごすテヒョンがナムジュンのコンテナに入り浸っている描写はウェブ漫画 にも登場します。 ナムジュンに起こる不幸が「コンテナ火災」ではなく「喧嘩」であることから、7人がyear22.05.22を乗り越えるEuphoria 以前の世界線であることがわかります。
048【MOS:PERSONA】テヒョン year22.04.30 year22.04.30 テヒョン ショックでしばらく動けなかった。少し先に停まっている車の中にソクジン兄さんが座っていた。兄さんが帰国したことはナムジュン兄さんから聞いていたが、直接顔を見るのは初めてだった。兄さんは携帯電話で何かを見ていて顔をしかめた。ただそれだけで、何も変わったことはなかった。顔のどこかが以前と大きく変わっていたわけでもなかった。俺がショックを受けた理由は自分でも上手く説明出来ない。冷たい。乾き切っている。虚しい。どの単語も兄さんの顔を表すのに十分ではなかった。いや、ちっとも相応しくなかった。春の日だったが、急に寒気がして思わず身震いした。兄さんは俺が夢の中で見た、まさにその顔をしていた。 振り向いたのはジョングクが角を曲がって現れたからだ。ジョングクは切羽詰まった顔でキョロキョロしながら、路地を横切って走って行ってしまった。その時、ソクジン兄さんがイライラした素振りで車のドアを開けて出てきた。遠くて聞こえなかったが、口の形が「面倒なことになった」と呟いたようだった。ソクジン兄さんは少し離れたモーテルの方まで行き、入り口に何かを置いてジョングクが向かった方向を眺めていた。
⇒ 「夢の中でみたその顔」は045のNOTES でテヒョンがグラフィティに描いた、【花様年華】の記憶を失ったソクジンの顔。ソクジンはジョングクがユンギをモーテルから救済するように仕向けていましたが、ジョングクが作業室を飛び出していったユンギを見失ったことで計画に些細な狂いが生じていました。 テヒョンがソクジンに声を掛ける描写がないことから、花様年華 THE NOTES 2 で描かれる展開とは異なる世界線であるとわかります。
049【LYS結’Answer’:SELF-L】ユンギ year22.05.02 year22.05.02 ユンギ 火のついたシーツはたちまち燃え上がった。耐え難い熱気の中で、むさ苦しい感情は全て存在しなくなった。酸っぱいカビの臭い、正体の分らない湿気、曇った薄明りのようなものはもう感じられなかった。代わりに残ったのは苦痛だった。熱気という物理的な苦痛。手先が、肌が熱すぎて、今にも水膨れが出来て溶けてしまいそうだった。その時になって、無表情な父の顔が音楽を搔き乱した。 父と俺とは多くのことが違っていた。父は俺を理解出来なかったし、俺は父を理解出来なかった。努力していたら説得出来ただろうか。恐らく出来なかっただろう。俺に出来ることは、隠れて、反抗して、逃げることだけだった。そのうち俺が抜け出したいと思っているのは父からだけではないと思うようになった。断崖のような恐怖が押し寄せてきた。俺は一体何から逃げるのだろう。どうすれば自分自身から抜け出すことが出来るだろうか。全てが不可能に感じた。 誰かが呼ぶ声が聞こえたが、頭を上げることはなかった。熱気のせいか苦痛のせいか、息が出来なかった。動く力がなかったが、それでもわかった。ジョングクだった。怒ってるはずだ。多分俺のために悲しむだろう。そのまま座り込んでしまいたかった。熱気と苦痛と恐怖を全てここで終わらせたかった。ジョングクがまた何かを叫んだが相変わらず聞こえない。そのまま崩れ落ちた。最後に目を開けた。この世界で最後に見る景色、それはむさ苦しく人里離れた部屋、真っ赤な炎と沸き立つ熱気、そしてジョングクの顔だった。
⇒ ユンギがモーテルで焼身自殺を図る場面。ソクジンではなくジョングクが助けに来ることから、Euphoria へと繋がる世界線のNOTESであると分かります。
050【LYS轉’Tear’:YOUR-U】ジョングク year22.05.02 year22.05.02 ジョングク 顔を上げると、ナムジュン兄さんのコンテナの前だった。ドアを開けて入った。周囲に散らばっている服をぐちゃぐちゃに集めて身体を丸めて眠った。悪寒がした。全身がぶるぶる震えて泣きたかった。だけど泣けなかった。ドアを開けて入った時、ユンギ兄さんはベッドの上に立っていた。シーツの裾に火柱が立ち昇っていた。その瞬間、我慢できない怒りと恐怖が全身を襲ってきた。僕は話をよくする方ではなかった。自分の感情を表現することも、誰かを説得するのも下手だった。涙が溢れて、咳が出て、とてもじゃないけど言葉が出なかった。その炎の中に飛び込んで、僕がやっと吐き出したのは「僕たち、またみんなで海に行くと言ったじゃないですか!」という言葉だけだった。 「どうした?悪い夢でも見たか?」誰かが肩を揺さぶったおかけで目を覚ました。ナムジュン兄さんだった。どうしてか分からないけど安心した。兄さんが僕の頭を触って、「熱があるね」と言った。本当にそんな感じがした。口の中がぐらぐら沸騰したようで、我慢できないくらい寒かった。頭がズキズキして首も痛かった。兄さんが買ってきた薬をどうにか飲み込んだ。 「そのまま寝てろ。話は後でしようか」僕は頷いた。そして言った。「僕も兄さんみたいな大人になれますか」ナムジュン兄さんが顔を逸らした。
⇒ 049のNOTES で「ジョングクがまた何かを叫んだが相変わらず聞こえない」とある何かとは、このNOTESに登場する「僕たち、またみんなで海に行くと言ったじゃないですか!」という叫びでした。 のちのyear22.05.22の'血、汗、涙 -Japanese Ver.-' Official MV に登場するモーテルでの喧嘩の直前に、ナムジュンがこの「僕も兄さんみたいな大人になれますか」というジョングクの台詞を回想する場面があることや、049のユンギのNOTESと同じ日付であることから、Euphoria からHighlight Reel '起承轉結' へと繋がる世界線であると分かります。
051【MOS:PERSONA】ユンギ year22.05.02 year22.05.02 ユンギ 長引く傷痕だと言われた。 時間をかけてゆっくり回復して行こうと。それでも範囲が広くなくて、きちんと治療を受ければ今よりははるかに良くなるとも言った。入院3日目、医者がガーゼを引き剥がすとすぐに傷痕が姿を現した。赤いというよりも黒く変色した左腕の皮膚。俺の身体なのに、俺の身体ではなかった。見慣れなかった。ライターを落とした瞬間には、これ以上の事を受け入れる準備が出来ていた。ところがこの程度の傷痕で終わった。 自らが矛盾的に感じられた。 「少し痛みますよ」ドレッシングを始めてすぐに傷から吹き出て白いガーゼを濡らした血は、あの時の火と同じだった。 あの日、俺を飲み込むように揺らめいた真っ赤な火。堪えようとしたが呻き声が出た。医者が「出血してくるのは良いサインだ」と言った。死んだ肉の下に新しい肉がある証拠なんだと。痛いながらも虚しい笑いが込み上げた。新しいものは、どうして死んでから現れるのだろうか。もしあの時死んでいたらどうだっただろうか。もしかしたら、あらゆる事を新しく始められる唯一の方法だったのではないか。 腕を見降ろした。新しく抑えたガーゼの上に血が浅く染み出た。俺はその血痕を火と言って、医師は再生と言った。 誰の言葉が正しいのだろうか。
⇒ Euphoria へと繋がる049,050のNOTES ではyear22.05.02に焼身自殺を図っているユンギ。このNOTESでは同日のyear22.05.02の時点ですでに「入院3日目」とあるため自殺を図ったのはyear22.04.30。テヒョンの048のNOTES と一致するため、ソクジンが【花様年華】の記憶を失って以降の世界線であると分かります。
052【MOS:PERSONA】ホソク year22.05.10 year22.05.10 ホソク 気が付くと橋の上を歩いていた。陽の光が眩しくて、まともに目を開けるのが難しかった。「僕、なんでここに来たんだ?」そう思った時、目眩がして視界ががくんと落ちた。膝が折れて、橋を行き来する車のクラクションの音が耳を打った。視界の片隅に真っ黒なヤンジ川が見えた。 養護施設の先生は、僕が母を失ってから初めて頼れるようになった人だった。熱が出て眠れなかった夜明け、養子縁組に行く友人を見送った後のがらんとしたベッド、病院でナムコレプシーの発作から目を覚ました時、小学校の入学式から高校の卒業式まで、僕のそばにいてくれた人だった。 そんな先生が病気になった。掛かってきた電話は養護施設の弟からだった。どうやって先生の家まで行ったのかはよく思い出せない。思い出せるのは、先生の家の開いた窓越しに見えた顔だけだった。先生は誰かと話をして、笑っていた。「痛む」という言葉が、「手術を受けなければいけない」「希望は少ない」という言葉が全て噓のようだった。一瞬目が合いそうになって、身を隠した。顔を見ると涙が出そうだった。あなたまで僕を捨てるのかと、恨みの言葉を吐き出しそうだった。歩き出した。誰かが僕を呼んでいるようだったが、振り向かなかった。 大きなバスが風を巻き起こしながら僕のそばを通り過ぎた。「お母さん」遠ざかるバスを見ながら呟いた。母と別れた日、あの日もあんなバスに乗っていた。先生も母と同じように僕から離れていくのだろうか。僕はまた、大切な人を失うのだろうか。頭を上げると日差しが降り注いだ。そして、世界が崩れた。タイヤがアスファルトを踏んで通る摩擦音と、川に沿って吹いてくる風、先生と一緒に過ごした多くの記憶がその日差しの中で崩れた。僕は倒れてしまった。
⇒ 'I NEED U' Official MV で描かれている、ホソクが橋の上で意識を失う場面。その後、搬送された病院で偶然ジミンと再会します。「養護施設の弟」は実の弟ではなく、年下の友人を指す言い回し。
053【LYS結’Answer’:SELF-E】ホソク year22.05.12 year22.05.12 ホソク 非常口のドアを開けて階段を駆け降りた。心臓が今にも爆発しそうなくらい走った。病院の廊下ですれ違った顔は、明らかにお母さんだった。振り返った瞬間、エレベーターのドアが開いて人々が押し寄せてきた。必死に人々を押しのけて進むと、ちょっと離れたところでお母さんが非常口に入る姿が見えた。焦る気持ちで階段を二段ずつ飛ばして降りた。止まらずにいくつかの階を降りて行った。 「お母さん!」お母さんが立ち止まった。僕は一歩踏み出した。お母さんが身体を向けた。僕は階段をさらにもう一段降りた。お母さんの顔が見え始めた。その時だった。かかとが階段の角で滑り、重心が傾いた。すぐに倒れてしまうと思い、目を思いっきり閉じた。誰かが僕の腕を掴んだ。そのおかげで辛うじて重心を捉えることが出来た。振り返ると、驚いた顔をしたジミンが立っていた。ありがとうと言う暇もなく、また振り返った。 一人の女性が見えた。驚いた顔をしていた。横にいた小さな男の子が大きな目をパチパチして僕を見た。お母さんではなかった。僕は女性の顔をじっと見つめたまま何も言えず、階段に立っていた。 どんな言い訳をしてその場をやり過ごしたのかはよく覚えていなかった。ジミンがなんでそこにいたのかも尋ねなかった。細かいことを気にするには、あまりにも混乱していた。女性はお母さんではなかった。もしかしたら、僕はその事実を最初から知っていたのかもしれない。遊園地に一人で残された日から10年以上が経った。お母さんも歳を重ねていて、僕の記憶とは違うはず。僕はきっとお母さんに会ってもわからないだろう。僕はもう、お母さんの顔をほとんど覚えていなかった。 後ろを振り返ってみた。ジミンが何も言わずに付いてきていた。高校の時、あの救急室で離れ離れになってから、ジミンはずっとこの病院で過ごしていた。出て行きたくないのかと尋ねたときの、どうすればいいのか分からないとうろたえる姿を思い出した。ジミンも僕と同じように自分自身を縛る記憶に捕らわれたまま、逃げることも、向き合うことも出来ずに閉じ込められているのではないか。僕はジミンに向かって一歩近づいた。 「ジミン。ここを出よう」
⇒ Euphoria で描かれている、非常階段でジミンがホソクの手を引く場面。「高校の時、あの救急室で離れ離れになってから」の詳細は、025のNOTES に記載があります。
054【LYS結’Answer’:SELF-E】ジミン year22.05.15 year22.05.15 ジミン 目を覚ますと、ホソク兄さんが立っていた。見慣れた天井、見慣れた暗闇の中で僕を見降ろしていた。驚いて身体を起こすと、すぐに人差し指を口に当てた。みんな眠りについていて、周りは静かだった。兄さんはすぐにTシャツを手渡した。それからあごで病室の外を示した。 みんなが一緒に来ていた。ナムジュン兄さんが見張りをして、ユンギ兄さんは看護師を捕まえて時間を稼いでいた。ジョングクとテヒョンはあとからエレベーターで合流するらしかった。最初は何の話をしているのか理解が出来なかった。意識が朦朧とする僕に兄さんが手を差し出した。 病院を出る日。その日を夢見たことがあった。僕が病院から出て、友人たちと会って、昔のように一緒に笑って騒ぐ時間を過ごしたかった。だけど、今は分からない。果たしてここを出て行くのが良いことなのか。僕をここに隠したまま、まるでいないかのように振舞う両親。僕が精神疾患者であるという噂話をする人々。もしかしたらホソク兄さんもそう思っているかもしれないと思った。心の奥底では、僕は変なやつだと、一緒にいること自体が面倒だと考えてるかもしれなかった。 「早く、時間がない」兄さんが急かしたせいか、時計の秒針の音が異常に速く聞こえた。コツ、コツ。幻聴のような足音がだんだん病室に向かって近付いた。兄さんと僕は同じようにドアの方を気にしてお互いに目を見合わせた。兄さんの手はまだ僕の前に差し出されていた。
⇒ Euphoria で描かれている、みんなでジミンを病院から連れ出す場面。053のNOTES でジミンを病院から連れ出すべきだと決心したホソクは、自身の退院後5人に声を掛けてジミンを迎えに来ます。
055【LYS結’Answer’:SELF】ジミン year22.05.16 year22.05.16 ジミン ホソク兄さんの家は、とても高い場所にあった。大通りからしばらく歩いて坂を上り、曲がりくねった狭い路地を過ぎていくと出てくる追い詰められたような建物の屋上の部屋。そこが兄さんの家だった。ひと部屋に家のものが丸ごと入っていて、兄さんは「僕たちが育ってきた全ての場所が足元ある、この街の一番てっぺんだ」と威張っていた。兄さんの言う通り、この屋上の部屋からは本当に多くのものが見えた。そんなに遠くないところに駅が見えて、線路に沿って並ぶコンテナも見えた。その中の一つにナムジュン兄さんが住んでいた。そこから少し視線をずらすと、僕たちが一緒に通っていた学校があった。 僕は学校を探したあと、首を回して街の反対側を見た。山の斜面に沿って大規模なマンションが並んでいた。あれは僕の家、いや、両親の家であった。僕は何も言わずに病院から逃げ出した。両親にも連絡が行っただろう。今ごろ僕を探しているのかもしれないが、まだ両親と会う自信はなかった。病院を出てきたが、家に行くことは出来なかった。だからと言ってまた病院に戻りたいわけでは絶対になかった。しかし行くところもなく、お金もなかった。ぐずぐず立っている僕に、兄さんは「ついて来い」と言って前を歩いた。そうして辿り着いたのがこの兄さんの家だった。 目線を上げて再びマンションの方を眺めた。いつかはあそこに行かなければならなかった。両親に会って、もう病院に行かないと話す必要があった。息を大きく吸い込んだ。そのことを考えるだけで発作が起こるようだった。実際に、病院以外でも耐えることが出来るのかどうか、僕も自分自身を信じることが出来なかった。また、病院に運ばれていくこともある。我慢出来ないほど、恐ろしかった。
⇒ ウェブ漫画 ではソクジンに車で病院から連れ出されたジミンがナムジュンのコンテナで匿われているのに対して、このNOTESではホソクの部屋に身を寄せています。そのため、Euphoria からHighlight Reel '起承轉結' へと繋がる053,054のNOTES と同じ世界線であると分かります。
056【LYS轉’Tear’:YOUR-Y】ジミン year22.05.19 year22.05.19 ジミン 結局、プルコッ樹木園に向かわなければならなかった。そこで起こったことは覚えていないという嘘は、もうやめるべきだった。病院に隠れ住むことも、発作を起こすことも全て終わりにしたかった。そのためにそこに行ってみたかった。そんな気持ちで僕は何度かバスの停留所を訪れた。しかし、プルコッ樹木園行きのシャトルバスには乗れなかった。 ユンギ兄さんが傍にくっついて座ってくれたのは、今日だけで3台のバスを見過ごした後だった。「どうしたんですか?」という問いに、兄さんは「やることもないし、退屈してた」というようなことを言った。そして、「お前こそ、何でこんなところに座ってるんだ」と尋ねた。僕は俯いたまま、靴のかかとで地面をトントンした。自分がどうしてこんな風に座っているかを考えた。勇気がなかった。大丈夫であると、何かわかったようなフリをして、こんなことくらい軽く乗り越えられるんだと思いたかったが、本当は怖かった。何と出会うのか、それに耐えられるのか、また発作が起こるのではないか。全てが恐ろしかった。 ユンギ兄さんはゆったりとしていた。世の中に対して何も心配事がないかのように、天気が良いというような無駄話をした。その話を聞いて初めて、本当に天気が良いことに気付いた。あまりにも緊張していて、周りを見回す余裕がなかった。空はとても青かった。時々暖かい風も吹いた。少し離れた所にプルコッ樹木園行きのシャトルバスが来ていた。バスが停止して、ドアが開かれた。運転手のおじさんが僕を見た。思わず尋ねた。 「兄さん、一緒に来てくれますか?」
⇒ 現時点で公開されているものの中には、この後二人がプルコッ樹木園に行ったかどうかの記述は一切ありません。 個人的には、'Blood Sweat & Tears' Official MV でのユンギがジミンの目を塞ぐ演出を筆頭に、花様年華 THE NOTES 2 にもユンギがジミンをトラウマ(病院・プルコッ樹木園)から遠ざける=誘惑する描写が何度も登場することから、「無理して行かなくてもいいんじゃないか?」的な展開が推測できる気がします。
057【LYS轉’Tear’:YOUR-O】ホソク year22.05.20 year22.05.20 ホソク テヒョンを連れて警察署を出た。「ご苦労様です」頭を下げて力強く言われたが、そんな気分ではなかった。警察署からテヒョンの家まではそう遠くなかった。もしもっと遠いところに住んでいたら、テヒョンはこんなに頻繁に警察署に出入りしなかったんだと思う。どうしてテヒョンの親は、こんなにも警察署の近くに腰を据えたのだろうか。こんな風に馬鹿みたいに優しくて弱いやつに、世界は本当に不平等だった。テヒョンの肩に腕を回して、「腹減ったか?」と何気ないフリをして聞いた。テヒョンは首を横に振った。「警察のお兄さんが美味しいご飯でも買ってくれたのか?」とまた尋ねてみたが、テヒョンは何も答えなかった。 日の光の中を二人で歩いた。心の中で冷たい風が吹いた。僕の心ですらこんな感じなのに、こいつは今どんな気持ちなんだろう。心がどれくらい引き裂かれているのだろうか。果たして、心臓は残っているだろうか。心の中に、どれだけ多くの苦しみを抱えてるのだろうか。そんなことを考えるとまともに顔を見ることが出来なくて、代わりに空を見上げた。曇りと晴れの間のような空に飛行機が一機過ぎ去って行った。テヒョンの背中についた傷を初めて見たのは、ナムジュンのコンテナのアジトで会った時だった。Tシャツを一枚貰ったと言って無邪気に笑うテヒョンに向かって誰も何も聞かなかったが、胸の奥がズシンと潰れそうだった。 僕には親がいなかった。父の記憶は少しも残っていない。母親も7歳の時までだった。家族と子どもの頃の傷なら、誰と比べても不足はなかった。人々は言う。傷を克服しなければならないと。受け入れて慣れなければならない、和解して許さなければならないと。そうしてこそ生きていくことが出来ると。分からなくはない。嫌で拒否しているのではない。いくつかのことは、努力しようとしても出来ないのだ。誰もやり方なんて教えてくれなかった。世界は古傷が癒されるより前に、また新しい傷を与えた。世の中に傷がない人なんていないことは知っている。しかし、一体どうしてここまで深い傷が必要なのか。何のために、どうしてこんなことが起こるのだろうか。 「兄さん。大丈夫、一人で行けます」分かれ道でテヒョンが言った。 「大丈夫って、」僕は真に受けずにそのまま前を歩いた。「本当に大丈夫です。見てください、何ともないですから」テヒョンが笑ってみせた。僕は答えなかった。大丈夫なはずがなかった。大丈夫ではないということを認めてしまうと、耐えることが出来ないから無視しているだけだ。それが癖になってしまったのだ。テヒョンはフードを被って歩き始めた。「本当に腹減ってなかったのか?」テヒョンの家に繋がる廊下で尋ねた。テヒョンが馬鹿みたいに笑ってから頷いた。廊下を歩いて行く後ろ姿に背を向けた。あいつが歩いている廊下も、僕の戻っていく道も全て狭くて暗かった。あいつも僕も一人だった。ふと後ろを振り返ってみようとした時、電話が鳴った。
⇒ 「テヒョンの背中についた傷を初めて見た」描写は044のNOTES に登場しています。最後の着信はソクジンからの「みんなで海に行くからテヒョンを直接誘って欲しい」という内容のものでした。ソクジンにはホソクがテヒョンの起こす刺殺事件を防ぐよう誘導する意図があり、二人の様子を陰で見守りながらタイミングを伺っていたのです。
058【LYS轉’Tear’:YOUR-O】テヒョン year22.05.20 year22.05.20 テヒョン 手を見降ろした。血が付いていた。突然、足の力が抜けた。座り込むときに誰かが後ろから抱き締めた。窓からぼんやりした日差しが入ってきていた。姉さんは泣いていたし、ホソク兄さんは黙って立っていた。汚れている家具や布団がいつものように散らばっていた。父が立っていた場所には誰もいなかった。いつ、どのように部屋を抜け出したのかは思い浮かばなかった。 父に向かって飛びかかった瞬間の耐え切れない怒りと悲しみは、俺の中にそのまま残されていた。父を刺そうとした瞬間、俺を自制させたのが何なのか自分でも分からなかった。狂った心をどのように癒したら良いのかも分からなかった。父を殺すのではなく、自分が死にたかった。今この瞬間にでも死んでしまいたかった。涙も出なかった。泣きたいけど、叫びたいけど、何かを蹴り壊すだけだった。壊したくて壊したが、何一つどうすることも出来なかった。 「兄さん、すいません。俺は大丈夫です。行ってください」狂ったような心とは違って、出てきた声は乾いていた。俺の声ではないみたいだった。なかなか離れようとしない兄さんを送って、掌を見降ろした。白い包帯から血が滲み出ていた。父を刺す代わりに酒の瓶を床に打ちつけ、そのせいで掌が裂けてしまった。目を閉じると世界がクルクルと回った。何を考えて何をすべきか、どうすべきか、どのように生きていくのか。気が付いたらナムジュン兄さんの電話番号を見降ろしていた。こんな状況になっても、いや、この状況だからこそ、余計に兄さんの存在が大切だった。兄さんに話したかった。兄さん。俺が、自分の父を、俺を生んでくれた父を、俺はむやみに殴って殺すところだった。本当に殺すところでした。いや、実際に殺してしまった。何度も殺した。心の中で数え切れないほど殺して、殺した。死んでしまいたいです。今どうすればいいのか、何もわかりません。兄さん。ちょうど今、会いたいです。
⇒ 057のNOTES にあるソクジンからの着信に誘導されたホソクによって、テヒョンの起こす刺殺事件を防ぐことに成功したEuphoria に繋がる世界線。'I NEED U' Official MV やon stage : prologue では父親の血で汚れていたテヒョンが掌に包帯が撒かれ、父親の代わりに自分が怪我を負ったこともEuphoria と共通します。
059【LYS轉’Tear’:YOUR-U】ナムジュン year22.05.22 year22.05.22 ナムジュン 「たった一歳差です。いや、誰がそう言ってるんですか?俺が兄です。知っています。だけどいつまでも子どもではないし、もう少し自分でどうにかするでしょう。知っています。分かってます。いや、怒ることではないです。すいません」 電話を切って、地面を見降ろした。生温い潮風が松の林をさらって過ぎていった。胸の奥いっぱいに溢れ出るようだった。砂と土が半分ぐらい混ざった地面には、蟻が列を作ってどこかに向かっていた。俺が蟻を見るように、何か物理的、象徴的な両方の意味で自分よりもはるかに巨大な存在からすれば、今の俺がどこに向かっているのか、最終的にどうなるのかさえ全て見えているのだろうか。 両親を愛していないのではない。弟のことを心配していないこともない。だが、出来れば避けていたい。それでも俺は、きっと自分のことだけを考えることは出来ないだろう。それなら、こんな風にもがいて怒ったり、鬱陶しがったり、抜け出したいと思うことは何を意味するのだろうか。 ちょっと離れたところで、俺のあとを付けて来たように立っている後ろ姿が見えた。ジョングクだった。いつかジョングクがこんな言葉を言ったことがあった。「兄さんのような大人になりたい」だが、俺は何も言わなかった。俺はそんなに良い人間ではないし、ましてや大人でもない。そんなことを伝えるのが残酷に感じられた。誰しもが与えられて当然の信頼と関心、愛情を受けていない幼い友人に、年を重ねて背が高くなり、少し成長したからと言って大人になれるわけではないと言ってやることが出来なかった。ジョングクの未来が俺のものよりも少しでも良いものになることを望んではいるが、その中で俺が助けになってやると約束することは出来なかった。近付いて肩を組んだ。ジョングクが顔を上げて俺を見た。
⇒ Euphoria で訪れた海での出来事。'血、汗、涙 -Japanese Ver.-' に登場するモーテルでの喧嘩、そしてその後7人が再び疎遠になってしまうHighlight Reel '起承轉結' へと繋がる世界線です。「兄さんのような大人になりたい」は050のNOTES でのやりとり。
060【LYS承’Her’:LOVE-V】テヒョン year22.05.22 year22.05.22 テヒョン ナムジュン兄さんが電話に出ながら後ろを遅れて歩くのを見たのは、松の森を過ぎた時だった。最近そういうことが多かった。誰にも聞こえないよう、遠く離れて電話をしていた。俺はわざとゆっくり歩きながら海の方へ体を隠した。兄さんは俺に気付かずに通り過ぎた。「俺よりも一歳幼いだけじゃないですか。いや、俺にも関係ないです。どうせ、俺が責任を取れることもないですし、本人がどうにかするでしょう」 何か冷たいものが背筋を伝った。世界の全てがガラガラと崩れるようだった。深い海の中に一人でプカプカと漂っているようだった。怖くて恐ろしかった。惨めで、みすぼらしかった。怒りが込み上げてきて抑えることが出来なかった。どんなことでも起こしてやろうと思った。壊して殴ってめちゃくちゃにしたかった。いつも怯えていた父親の血が、俺にも流れていた。暴力的な何かが潜んでいると思った。何かが、ギュッと縛っておいた壁を突き破って出てくるようだった。
⇒ 059のNOTES と同じ場面。ナムジュンが実の弟に対していった言葉が、テヒョンにはまるで自分の事を言われているかのように突き刺さりました。
061【LYS結’Answer’:SELF-S】テヒョン year22.05.22 year22.05.22 テヒョン 「兄さん、それで全部ですか? 俺たちに隠していることはないですか? 」周りが一気に静かになった。全員の視線が俺に向いた。俺はソクジン兄さんを真っ直ぐに見た。兄さんも俺を見ていた。その視線に少しの疲れや苦しさ、切なさのようなものがこびりついていた。俺がもう一度言おうとした瞬間、誰かが腕を掴んで止めた。振り返らなくても分かった。ナムジュン兄さんだった。 「兄さんは関係ないですよね?実の兄でもないくせに」ナムジュン兄さんが俺を見ているのが感じられた。俺は振り向きもせず、掴まれた腕を振り払った。俺にも分かっていた。俺は今、ナムジュン兄さんに余計なことを言ってしまった。兄さんが誰かとの電話で言った言葉をそのまま繰り返しながら、今俺は腹が立ち、あまりにも寂しくて口が勝手に動いていた。兄さんの言葉は何一つ間違ってはいなかった。俺は兄さんよりたった一歳幼いだけで、ましてや実の弟でもなかった。俺のやった事は自分で整理しないといけないことも正しかった。だけど、寂しかった。反論出来る言葉もなくて、より怒りが満ちた。こんな俺の心を兄さんにわかって欲しいと願った。 「テヒョン、僕が悪いんだ。この話はここでやめよう」口を開いたのはソクジン兄さんだった。テヒョンと名前を呼んだのも、すまないと謝ったのもソクジン兄さんだった。ナムジュン兄さんは何も言わなかった。「何をやめるんですか?話が出たついでに全部言いますけど、兄さん、俺たちに隠してることがあるでしょう?」 「外に出て話そう」ナムジュン兄さんが再び腕を掴んだ。俺は今回も振り払おうとしたが、兄さんは手に力を込めて俺を引っ張り出そうとした。僕は抵抗しながら話した。「離してよ。兄さんに何の権利があって俺を止めるの?兄さんは俺の何を知ってるんですか?何も分からないでしょう。兄さん、兄さんは自分が何か立派な人だと思ってるんでしょう?」その時だった。兄さんが俺の腕を離した。その反動で俺は少しグラついた。いや、グラついたのは反動からではなかった。兄さんが腕を離す瞬間、何かがプツンと切れたようだった。これまで俺を支えてくれていた全てのことにひびが入って、割れて崩れるようだった。もしかしたら、俺は兄さんが最後まで腕を離さないことを望んでいたのかもしれない。怒って、俺を引っ張り出して。まるで実の弟にそうするみたいに、親しくて大切で、見捨てることが出来ない人にそうするように、俺のことを叱って欲しいと願っていたのかもしれない。 だけど、兄さんは腕を離した。ただ乾いた笑いが込み上げた。「一緒にいることがそんなに大切ですか?俺たち、お互いの何なんですか?結局みんな一人じゃないですか!」ソクジン兄さんが俺を殴ったのはその時だった。
⇒ '血、汗、涙 -Japanese Ver.-' で描かれている、059,060のNOTES から繋がる海のモーテルでの出来事。冒頭の台詞はEuphoria の最後に字幕として登場します。冷静さを失ったテヒョンは、ナムジュンの抱える葛藤を逆撫でし、さらにソクジンの原動力であった「一緒なら笑える」という想いを全否定するような言葉を口走ってしまいました。 このときテヒョンがソクジンに詰め寄った隠し事は、019のNOTES に詳しい記述がある「6人の悪事を校長に密告していた」こと、そして花様年華 THE NOTES 1 に記載のある「ソクジンが自分たちに何か隠し事をしている」こと。テヒョンはソクジンが変えた本当の現実の出来事を悪夢に見て、”タイムリープ”という事実にこそ辿り着きませんが、ソクジンのどこか自分たちを誘導するような言動に違和感を抱いて、自分と同じ悪夢をみて未来を予知しているのではないかと考え始めていました。
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お疲れ様です。第二弾はここまでにします。 根気よく読んでくださってありがとうございました!
完全に余談ですが、この記事を書きながら「こんなモン解説なしでアルバムに入れて、誰が理解出来るんだよ。」とめちゃくちゃイライラしました。
さて、当初の予定では3記事で投稿するとお知らせしていたmini版NOTESの和訳ですが、時系列整理記事の構成の都合上、4記事に分けて投稿することになりました。
第三弾の記事では、062(year22.05.28)~095(year22.07.31)のNOTESを整理します。これまで以上に世界線が入り乱れ、さらにややこしい話になっていきます が、一つひとつ解説を挟みながら丁寧に整理していきたいと思います。
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さて、次回の記事では再び時系列の本筋へ戻り、ソクジンとジョングク以外の5人が、ソクジンが”魂の地図”を探しているということを知り、その”魂の地図”探しに介入するようになる 経緯を整理します。
〈次回〉
※更新はTwitter(@aya_hyyh )でもお知らせします。
※和訳まとめの次回記事はこちら※
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