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【資料①】花様年華 THE NOTES 和訳まとめ-1


前回の記事はこちら


※当記事は考察や個人の見解を含みます。ご了承下さい。※


LOVE YOURSELFシリーズ以降にBTSが発表した5つのアルバム×各4形態に、特典として封入されたmini版の花様年華 THE NOTESが全20冊あります。全て韓国語で表記されている上に時系列にも統一性が無いため、多くの方がパラパラと捲っただけでそのまま仕舞い込んでるんじゃないかなと思います。

正直、読まないともったいないです!

花様年華 THE NOTESはどれも【花様年華】の世界での出来事を整理する上で無視出来るものではないので、考察をしながら一生懸命和訳しました。一部意訳も含みますが、参考資料として公開しておきます。(誤訳があれば積極的にご指摘いただきたいです。)


対象アルバムは以下の5作品です。

LOVE YOURSELF 承 'Her'(’17/9/18)
LOVE YOURSELF 轉 'Tear'(’18/5/18)
LOVE YOURSELF 結 ‘Answer'(’18/8/24)
MAP OF THE SOUL : PERSONA(’19/4/12)
MAP OF THE SOUL : 7(’20/2/21)

みなさんのお部屋に、神棚に、こんな冊子が眠ってませんか?

画像1
LOVE YOURSELF 承 'Her'
画像2
LOVE YOURSELF 轉 'Tear'
画像3
LOVE YOURSELF 結 ‘Answer'
画像4
MAP OF THE SOUL : PERSONA
画像5
MAP OF THE SOUL : 7

これらの中身を全部和訳して行こうと思います。


例によってアルバム毎ではなく出来事の日付順に列挙しますが、世界線が入り乱れているので、同じ日付に異なる事象が発生したり前後の日付と話が繋がらなかったりして時系列はかなり複雑です。訳が分からなくなった方は、当noteの時系列整理の記事をご参照ください。


※補足※ 和訳タイトルの【】内の表記について
(細かいことが気にならない方はスルーで大丈夫!)

mini版 花様年華 THE NOTESは、1冊のNOTESに一人につき2つの日付が記載されており、その内の一方の日付は同一アルバム4形態に共通して書かれています。しかし、4形態の内の1形態のみに、また異なる日付が1つ記載されています。そのため、同一アルバム4形態のNOTESには一人につき計3つの日付が記載されていることになります。

mini版 花様年華 THE NOTESの表紙には、例えばLYS承であれば4冊それぞれに「L」「O」「V」「E」とアルファベット(轉はYOUR、結はSELF、MOSシリーズは1~4の数字)が振られています。
4形態の中で異なる日付が書かれている1冊がどのNOTESなのかがわかるように、下記のようにタイトルを付けています。

表示例:
【LYS承’Her’:LOVE】=LOVE YOURSELF 承 'Her' 4冊共通のNOTES
【LYS承’Her’:LOVE-L】=LOVE YOURSELF 承 'Her'「L」のNOTES
【MOS:7】=MAP OF THE SOUL : 7 4冊共通のNOTES
【MOS:7-1】=MAP OF THE SOUL : 7「1」のNOTES


mini版 花様年華 THE NOTESは同一アルバム4形態あたり一人につき3つの日付×5アルバムが7人分あり、全部で105のNOTES(!)が記載されています。一度今回の記事に全NOTES分を下書きしたところ、8万字を超えてしまったので、さすがに3つの記事に分けることにしました。(構成の都合上、4記事で投稿します!)

通し番号は、利便性のためにわたしが勝手に付けてるものです。第一弾の当記事では001(year09.08.30)~036(year22.04.07)のNOTESを整理します。

また、下線部は全て該当作品へのリンクになっています。

目次も読み飛ばしていただいて大丈夫です。今後考察をされるときに、見返すタイミングがあれば索引代わりに使ってください。




001【MOS:7-2】ホソク year09.08.30

year09.08.30 ホソク

目を擦って立ち上がった。兄さんたちは静かについて来るように合図した。僕は本当はもう少し寝たかったが、ただ兄さんたちの言うことを聞いた。こっそり部屋を抜け出して廊下を通り抜けた。辺りは真っ暗だった。いま何時だろうか、就寝時間をずっと過ぎたあとだということ以外わからなかった。階段を昇って屋上に出る鉄の扉を開けた。ぎいぎいという音に兄さんたちが驚いて止まり、僕もつられた。周囲を見回した。

屋上にちょこんと集まって座った。「僕たち、なんでここに上がってきたの?」僕の質問に兄さんが答えた。「もう少しだけ待ってて。チョン・ホソク」その瞬間だった。ドンという音がして北の空が明るくなった。僕はびっくりして目を閉じながら、身をすくめた。何かが焦げている匂いがするような気もした。「わあ、」誰かが大声を出し、一番上の兄さんが「静かにしろ!」と叱った。僕は薄目を開けて北の空を見上げた。またバンという音がして夜空に星が現れた。「星じゃなくて花火だよ」と兄さんが教えてくれた。

花火は次々と打ち上がった。僕は屋上の床に寝そべって空の星や花火を見上げた。「チョン・ホソク、泣いてる」兄さんたちのからかう声が聞こえた。えい、と袖で目尻を拭った。余計に涙が出た。

⇒ ホソクが養護施設に預けられてから初めて迎えた夏の日のNOTES。日付から、のちにホソクが6人を誘ったソンジュの花火大会が、養護施設の兄たちと初めて見た思い出の花火大会だったことがわかります。


002【MOS:7-1】テヒョン year10.02.28

year10.02.28 テヒョン

スーパーの前に誰かがしゃがんでいた。初めて見るお兄さんだった。トンイと遊んでいた。撫でたり、パンのようなものをあげたりしていた。目が合った気がして、びっくりして前を見たまま通り過ぎた。路地に身を潜めて眺めた。もう、誰だよ。ポケットに手を入れて、ハムとトーストを入れたビニール袋を触った。お母さんに内緒で残すの、苦労したのに。

「あ、テヒョンが来てる。なんでこんな所にいるんだよ、トンイと遊びに来たんじゃないの?」驚いて飛び上がった。スーパーのおじさんだった。さっきのあのお兄さんも顔を上げて僕を見ていた。おい、おじさんのせいで。でもどうせバレたことだ。お兄さんの前に近付いた。「お兄さんは誰ですか?」お兄さんはどう説明していいか分からないという表情で僕を見た。「どうしてトンイと遊ぶんですか?」「ん?」お兄さんは何も言わなかった。

そしてお兄さんと話をするようになった。「僕はお父さんがお金をたくさん稼いで、大きい家に引越したら子犬を飼わせてくれるそうです。連れて行って一緒に住みます。だからお兄さんは、欲張らないでください」お兄さんは首を縦に振って言った。「いいね」「お兄さんのうちはお金ないんですか?それで犬が飼えないんですか?」お兄さんは「お金?」と言って僕を見た。そして、また顔を逸らしながら答えた。「子犬は飼えない」「お父さんにねだってみてください。お母さんが、お父さんたちはねだられるのに弱いって」お兄さんはただこくりと頷きながらトンイを撫でた。そうしながら呟いた。「いいな」僕はまた聞いた。「それで、お兄さんは誰ですか?お名前はなんですか?」お兄さんは振り向かずに答えた。「僕?キム・ソクジン」

⇒ トンイはスーパーの前で飼われている白い子犬で、BEGINS Official Teaserにも登場します。ソクジンとテヒョンは学校のアジトで知り合う9年前に偶然出会っていました。テヒョンの父親はまだ優しく、ソクジンは裕福ではあるが父親に甘えられる環境ではないことがわかります。


003【LYS轉’Tear’:YOUR】ホソク year10.07.23

year10.07.23 ホソク

幻聴のような笑い声が聞こえたのは数字を4まで数えた時だった。次の瞬間、幼い僕が誰かに手を握られたまま通り過ぎていった。サッと振り返ってみた。そこには僕を見ているクラスメートがいるだけだった。「ホソク」先生が僕の名前を呼んだ。その時、初めて自分がどこにいるのか分かった。

算数の時間だった。教科書に描かれた果物を数えていた。 5、6。再び数字を数えたが、一つずつ多くなるほど声が震えて手に汗をかいた。あの時の記憶がしきりに浮上した。あの日見た母の顔はよく覚えていない。遊園地で僕にチョコバーを渡してくれたことだけ思い出せた。「ホソク。今から10まで数えて、目を開けて」数字を全て数えた後、目を開けると母はいなかった。ただ待って、待ち続けても帰ってこなかった。9まで数えたのが最後だった。あと1つだけ数えればいいのに声が出なかった。ブンブンと耳鳴りがして周辺がぼやけるように景色が薄れた。先生が「早く続けなさい」と手招きをした。友達が僕を見ていた。母の顔をよく覚えていなかった。あと1つを数えてしまうと、もう二度と母が僕を探さないような気がした。

僕はそのまま床に倒れてしまった。

⇒ Highlight Reel '起承轉結'で回想シーンとして描かれている遊園地で母親に置き去りにされた日の記憶がトラウマとなり、幼いホソクは授業中に数字を数えることで意識を失ってしまいました。


004【LYS承’Her’:LOVE】テヒョン year10.12.29

year10.12.29 テヒョン

そのまま靴を脱ぎカバンを投げて寝室に入った。本当に父がいた。いつぶりか、どこに行ってたのかという考えは思いつかなかった。無邪気に父の方へ走り出した。その後の事はあまり記憶がない。お酒の匂いがしたのが最初だったのか、罵声が最初だったのか、頬を殴られるのが最初だったのか?何が起こったのかもわからなかった。お酒の匂いがして荒い息遣いと口臭が漂った。目は充血してヒゲがとても伸びていた。大きな掌が僕の頬を殴った。「何を見てるんだ」と言いながらまた殴った。そして僕を空中に放り投げた。真っ赤な目が恐ろしかったが、恐ろしすぎて泣くことすら出来なかった。父ではなかった。いや、父だった。でも違った。両足が空中で揺れた。次の瞬間、壁に頭を強くぶつけて床に放り投げられた。頭が割れるかと思った。目の前が真っ暗になった。ぜいぜいとした父の息遣いだけが頭の中を満たしていた。

⇒ 出稼ぎから戻ったテヒョンの父親は、テヒョンの記憶にあるかつての優しい父親ではありませんでした。この日から、テヒョンの家族は日常的に暴力を振るわれるようになります。


005【LYS轉’Tear’:YOUR】ジミン year11.04.06

year11.04.06 ジミン

一人でプルコッ樹木園の正門を出た。その日は曇りでちょっと寒かったが、気持ち良かった。親子遠足の日なのにママとパパは忙しかった。だから最初はちょっと不機嫌だった。ところが、花を描く大会で褒められて、友達のママが「ジミンは本当に立派だね」と言ってくれた。その時から僕は少し気分が良かった。
 
「ジミン、ここで待ってて。先生すぐ戻るから」遠足が終わって樹木園を出る時、先生にそう言われたが僕は待たなかった。一人で帰れる自信があった。両手でリュックのストラップを掴んで堂々と歩いた。みんなが僕を見ている気がして胸を張った。雨が降り出したのはしばらく経った後だった。友達もママたちもみんな立ち去って、見てくれる人もなく、足も痛かった。リュックで頭を覆って木の下にうずくまった。雨はますます激しくなってきて、通り過ぎる人は誰もいなかった。結局、 雨の中を走り始めた。家もお店も見えなかった。そして到着したところが樹木園の裏口だった。くぐり戸が開いていて、中に倉庫のようなものが見えた。

⇒ 両親が来れなかった親子遠足で、褒められて得意げになった幼いジミンは、先生の言いつけを守らず一人で帰ろうとしました。この後迷い込んだ裏門近くの倉庫で、トラウマとなる事件を目撃することになります。


006【MOS:7-3】ジョングク year12.09.30

year12.09.30 ジョングク

野次馬が集まっている所に向かって歩いて行った。どうしたんだろう。公園でも学校でもないのに、人があんなに一ヶ所に集まっているのは初めて見たような気がした。ざわめく音が怖かった。「どういうこと?不安で、どうやって暮らしていけばいいの」誰かが通り掛かりに言った。僕は人々の間を縫って前に出た。怖かったが、気になった。

とてつもなく大きな穴だった。そんな穴が地面に空いていた。「シンクホールだ」誰かが言った。僕は少しずつ前に出た。その穴の中に何があるのか見たかった。真っ昼間なのに穴の中はよく見えなかった。土が崩れ落ちた側面に木の根のようなものが飛び出しているだけだった。もう一歩前に出た。「気を付けて!」誰かが後ろで叫んだ。スニーカーのつま先が穴の中に入った。土が崩れ、重心に力を込めた。驚いて後ろに下がった。その時、中で何かがキラキラしているのが見えた。それは光のようでもあり、穴の中に空いた別の穴のようでもあった。

⇒ 何の脈略もなくシンクホールの話題。得体の知れない巨大な穴に対峙したジョングクの「怖かったが、気になった。」という一文に、ジョングクの危険行動の予兆を感じます。シンクホールのモチーフは血、汗、涙 -Japanese Ver.-のMVMOS:7のコンセプトフォトにも登場しています。


007【MOS:7-2】ナムジュン year15.05.21

year15.05.21 ナムジュン

こっそりと玄関に入った。取っ手をしっかりと握って慎重に回し、様子を伺った。何の音も聞こえなかった。首を突き出して見回してみると家は真っ暗だった。一歩中に入った。「お母さん」呼んだけど誰も答えなかった。明かりを点けようと再び周囲を見回した。9時過ぎの家に誰もいないわけがなかった。「お母さん」もう一度呼んだが、静かだった。

普段より遅く帰ってきた。本当なら学校が終わるや否や母を手伝わなければいけなかったが、一度でいいから友達と遊んでみたかった。それで連絡もなしに遅く帰ってきた。しかし家には誰もいなかった。妙に冷ややかな気分になり、掌で腕を包み込んで、暗い部屋に立っていた。

すると突然、電話のベルが鳴った。寒気がした。奥の電話が鳴っていて、なんだか出てはいけないような変な気分になった。電話に出るとすべてが変わってしまいそうな、二度と今の僕に戻れないような不吉な気持ち。しかし、電話は鳴り続け、僕は結局電話の前まで歩いて行った。そして受話器を取った。

⇒ ほんの少しの反抗心で遅く帰ったナムジュンの不吉な予感は的中し、電話は病気がちな父親に代わって家計を支えていた母親が、職場で倒れたという知らせでした。


008【MOS:7-1】ユンギ year15.07.25

year15.07.25 ユンギ

「ユンギ」居間に入ってすぐピアノの前に座った。汗を拭う暇もなかった。べたべたする手をTシャツで拭いた。母が楽譜を広げた。楽譜はよく見えなかった。瞬きをした。これまで1時間、炎天下で走った。心臓がどきどきして音もよく聞こえなかった。汗が背中を伝って流れ、腰のあたりに溜まった。指が発作的に震えた。

「ミン・ユンギ、」母の声に気を取り直した。「ショパンもまともに弾けないあなたが、作曲なんてしてる場合なの?」母がパチパチと楽譜を叩きながら話していた。僕は今まで、何を弾いていたんだろう?あまり思い出せなかった。「最初からもう一回」母は低い声で言った。もう一回。もう一回。もう一回。同じページを弾き続けた。まだ冷めない体から、しきりに汗が流れた。頭の中がぼうっとして吐きそうだった。そのせいかも知れない。僕は楽譜を無視し、母を無視して、僕の中の裂けるような感情を指に込めた。母が僕の手を取って、鍵盤から離しながら言った。「そうじゃない!」

「やめてください!」僕は立ち上がりながら叫んだ。母は凍り付いたように僕を見つめた。「もうやめてください!やめてくれ!」そして僕は黙り続けた。その場で立ったまま、頭を掻きむしった。そして、ピアノに向かって母のトロフィーを投げつけた。鍵盤が一つ壊れ、ピンと頬を掠めた。

⇒ 息子に体力がないことを嫌った父親に、毎日強制的に1時間のランニングをさせられていたユンギ。一方で、母親はユンギを身籠ったことで諦めたピアニストとしてのかつての栄光を、ユンギに押し付けるように厳しい指導をしています。この時、ユンギは初めて母親に抵抗しました。


009【LYS轉’Tear’:YOUR】ユンギ year16.09.19

year16.09.19 ユンギ

炎が真っ赤に燃え上がった。今朝まで自分の住んでいた家が、炎に包まれていた。俺のことを知っている人が走ってきて何かを叫んだ。近所の人が急ぎ足で歩いていた。通行の確保が出来ないと、消防車が入って来れないと言われ、その場に立ち尽くした。

夏の終わり、秋の始まりだった。空は青く、空気は乾燥していた。何を考えないといけないのか、何を感じないといけないのか、何をすべきなのか、何も分からなかった。そうして「ああ、母さん」と思った。次の瞬間、ドシンという音と一緒に家が崩れた。炎に包まれた家が、いや、もう炎そのものである家が、屋根が、柱が、壁面が、俺が住んでいた部屋がまるで砂で作った家のように自然と崩れ落ちた。呆然とその姿を眺めていた。

誰かが俺を横に押しのけて過ぎ去り、やっと消防車が入ってきた。別の誰かが俺を掴んで責め尋ねた。その人は俺の目を見て何か叫んでいたが、俺には一つも聞こえなかった。 

「まだ誰か中にいるの?」俺はぼんやりその人を見た。 「お母さんは中にいるの?」その人は俺の肩を握って揺さぶった。思わず答えた。 「いいえ、誰もいません」「何言ってるの?」 近所のおばさんが言った。「お母さんは?お母さんはどこかに行ってるの?」「誰もいません」自分が何を言っているのか、自分でも分からなかった。誰かが俺をサッと押して、通り過ぎた。

⇒ 現時点では原因不明の火災。この火災でユンギは母親を亡くしました。混乱するユンギの発言に尾ひれが付いて、近所では「ユンギが母親を見殺しにした」と噂が立ってしまいます。


010【MOS:7-3】ジミン year17.08.20

year17.08.20 ジミン

晴れた日だった。空は青くて空気は涼しかった。僕は両親と一緒に車に乗って家を出た。車からは楽しい音楽が流れ、僕は後部座席の窓を開けて外に手を出した。黄色いイチョウの葉が雨のように降っていた。落ちてきたイチョウの葉を掴もうと素早く手を動かしたが、なかなか成功しなかった。母が振り返りながら言った。「ジミン、怪我するよ。怪我をしてステージに上がれなかったら、どうするの」

僕はステージを歩いた。頭の上から真っ白な照明が降り注いで、ふわふわとしたリズムが床に響いた。僕は友達に囲まれてたくさん踊った。一緒に飛び上がっては着地して、また左を向いて向き合った。友達も、僕も息切れしていた。それでもお互いを見ながら笑った。拍手が沸き起こった。客席の方へ出ながら、頭を下げた。ママとパパが立ち上がって拍手をして、僕を見て笑っていた。

目を覚ますと、病室の天井を見上げていた。涙が出た。夢であることはわかっていたが、目覚めたくなかった。もう少しその拍手の中に、そのイチョウの葉の下にいたかったのに、いつものように朝は来て、夢は消えた。

⇒ 病弱だったジミンは時折気絶するように意識を失うことがありました。この時のジミンは、自分のトラウマとなっているプルコッ樹木園での出来事の詳細はあまり覚えていません。


011【MOS:PERSONA-1】ナムジュン year18.05.02

year18.05.02 ナムジュン

路地に差し掛かると、道端に家具や家財道具が積み上げられているのが見えた。「ナムジュン、あれはどうしたんだ」父が息を吐き出しながら言った。父と一緒に病院へ行ってきたところだった。バス停から家までの100mほどを歩くのも、父にとっては大変そうだった。家まで一走りで駆けつけた。壁に沿って積み上げられた家財道具の後ろにしゃがんでいた母が俺を見て身を起こした。「ナムジュン。わたしたち、どうすればいいの」母は、弟が未払いの家賃を取りに来た大家の息子と喧嘩になったのだと言った。

スーパーマーケットの裏の倉庫で父を休ませた。俺が家具を運ぶ間に、母が冷めた食事を片付けた。部屋にあったものが倉庫に積み重なっていった。捨てたいものもあったが、それにもお金が必要だった。全て終わったのは夜だった。背中を伝って汗が流れた。母に「何でもいいから食べなさい」と箸を握らされたが、食べる気はしなかった。

倉庫が窮屈で、外に出てスーパーの縁台に腰掛けた。「ナムジュン。ナムヒョンはどこへ行ったの?」母の言葉に俺は「知るわけないだろ」と叫んだ。ナムジュン、ナムジュン、ナムジュン。うんざりした。弟に弱気にならず生きろと言ったのを悔やんだ。数日は倉庫で持ちこたえても、その後はどうすればいいのか。何も考えつかなかった。スーパーのおじさんが、ビールを1本置いていった。

⇒ ナムヒョンはナムジュンの一つ年下の実弟。長男であるナムジュンは、精神的にも物理的にも家族の全てを背負っています。この日、16歳のナムジュンは初めてお酒を飲みました。


012【MOS:PERSONA-3】ジミン year18.12.10

year18.12.10 ジミン

「もうすぐよ」という母の言葉に、袖口で曇った車の窓を拭いた。窓の外に〈ソンジュ第一中学校〉という看板が見えた。母は「ムンヒョンにはこれ以上通える学校がないの。ソンジュ第一中学校があなたを受け入れてくれて本当に良かった」と話した。入院と退院を繰り返しながら、いくつもの学校を転々とした。今度の学校ではどれくらい長く耐えることが出来るだろうか。そう考えているうちに、校門を過ぎて校庭が現れた。寒さのせいか、誰もいなかった。母がブランコと鉄棒のある校庭の端に車を停めた。

車から降りて鉄棒を眺めた。幼い頃を振り返ってみると、生々しく思い出される記憶が一つある。童話にも出てきそうな青い空と白い雲が恐ろしいほどの速さで僕を追いかけてきた記憶。プルコッ樹木園での出来事が起こる前の僕は、ひときわ公園が好きだった。母が言うには、朝出かけて夜になるまで公園で遊んでいた。一番好きなのはブランコだった。力強く足を踏み鳴らすと、クラクラするほど空に近付いた。怖いながらもひやっとするその感じがよかった。

ある日、ブランコに乗って一周すると、どんな気分なのか気になった。町の子どもたちのうち、誰もやり遂げられなかったことでもあった。友達に僕の背中を精一杯押すように言って、全身に力を入れて、高く、もっと高く上がった。青い空と白い雲が僕に押し寄せてきた。そうして一番高く上がった瞬間、僕は目眩がしてブランコから落ちてしまった。目が覚めたときは砂場に横たわっていた。砂が一握り口の中に入り、膝が擦り剥けて血が出ていたようだが、不思議にも痛くはなかった。ブランコで一周することが出来なかったことだけが不満だった。

誰かの記憶を盗み見るかのように、ブランコに乗っていた僕の姿を思い出した。熱心にブランコに乗っていたパク・ジミンは、僕の知らないところで、その姿のまま、その性格のまま育っているのではないだろうか。そんな思いでブランコを眺めていると、母の呼ぶ声が聞こえた。学校の昇降口に向かった。ソンジュ第一中学校は5つ目の学校だった。

⇒ 世間体を気にするジミンの両親は、ジミンが精神病院に入退院するたびにその事を知る人がいない学校へと転校させていて、ついには家から遠く離れた学区外の中学校へ通うことになりました。このソンジュ第一中学校で、7人が出会います。


013【LYS承’Her’:LOVE】ソクジン year19.03.02

year19.03.02 ソクジン

父に連れられて入った校長室は湿った匂いがした。アメリカから戻って10日目、制度の違いで1つ下の学年に入学するという話を聞いたのは昨日だった。「よろしくお願いします」父が僕の肩に手を乗せると無意識に身体が竦んだ。「学校は危険な場所です。統制を執ることが必要です」校長は僕を真っ直ぐ見つめた。校長が話をするたびに皺だらけの頬と口の周りの皮膚が揺れ、黒ずんだ唇の内側は赤黒かった。「ソクジン君はそう思いませんか?」突然の質問に戸惑うと、父が肩に乗せていた手に力を入れた。首の筋肉が痺れるほどの握力だった。「息子は立派に過ごすでしょう」校長は執拗に僕と視線を合わせ、父は更に手に力を加えていった。肩の骨が折れるような苦痛に僕は拳を握りしめた。体がブルブルと震え冷や汗が出た。「何かあったら必ず私に報告しなさい。ソクジン君は良い生徒にならないと」校長は素っ気ない表情で僕を見つめた。「はい」辛うじて返事をすると苦痛は一瞬で消えさった。父と校長が笑う声が聞こえた。顔を上げることが出来なかった。父の茶色い靴と、校長の黒い靴を俯いて眺めていた。どこから光が入ってくるのかわからないが、ピカピカとしたその輝きが怖かった。

⇒ 転校初日の出来事。市議会議員であるソクジンの父親と校長は、かつてのソンジュ第一中学校の同窓生です。父親に逆らうことが出来ないのと同様に、校長からも圧力をかけられたソクジンは「良い生徒でいなくては」という強迫観念に駆られます。


014【MOS:PERSONA-1】ユンギ year19.03.15

year19.03.15 ユンギ

今日に限って給食が美味しかった。何の変哲もないいつもの学校給食なのに、変だった。だけどそんな素振りは見せなかった。俺らしくなかった。俺はただ椅子に座ったまま、スプーンを掴むことすら面倒くさそうに指に引っ掛けたままでいた。それでも確かに今日の給食は美味しかった。テヒョンとジョングクが、日が差すからカーテンを閉めるとか席を替えるとかで騒いで、埃が舞い上がった。ナムジュンが「食事の時だけでいいから、もう少し落ち着いてくれ」と叱った。スプーンを持ち上げながら考えた。こんなに楽な気持ちでご飯を食べるのは久しぶりだった。

思い出す限り、わが家の食卓には会話はなかった。「美味しい」とか「もっと食べたい」とか「おなかいっぱい」とか、そういう言葉は行き交わなかった。食事は家族が日常生活を送る上で必要なことで、それ以上でも以下でもなかった。「ミン・ユンギ、食卓で騒ぐな」父がそう言ったのがいつだったか、今はもう思い出せない。トン、とスプーンを置いた音だけを覚えていた。声を荒げるわけでも、怒るわけでもなく、俺の方を見てすらいなかった気がする。それなのに俺は黙り込んだ。話すのをやめて、大きく一口でご飯を食べた。そして口の中を噛んだのか、生臭い血の味がした。痛いのもあって、どっと涙が流れた。それでも俺は何も言えなかった。食卓で口を滑らせてはいけない。俺は血の味がするご飯を無理矢理飲み込んだ。

誰かが俺のトレーからおかずを取っていった。自分でも無意識のうちに顔をしかめていたが、嫌なわけでも腹が立ったわけでもなかった。何と言うか、それが全ての出来事に対するいつもの俺の反応だった。ホソクが冗談交じりに言った。「ユンギ兄さんが怒ってるぞ。テヒョン、お前どうするんだよ」テヒョンはふざけたように大げさに謝るフリをした。寸分の狂いもない、ホソクとテヒョンらしい会話だった。「いいよ、もう全部食え」思わずそう言った。そしてまた賑やかに話が飛び交って、笑いが起きた。俺が食事中に言葉を発したことを、誰も気に留めなかった。

⇒ 7人が給食を持ち寄って過ごしているアジトはBEGINS Official Teaserに登場する空き教室。厳しい父親との食事を苦痛に感じていたユンギは、アジトで賑やかに過ごす給食の時間を気に入るようになりました。


015【LYS結’Answer’:SELF】ジョングク year19.05.28

year19.05.28 ジョングク

「兄さんたちの夢は何ですか?」僕の言葉にみんなが振り返った。「いや、通信簿の将来希望欄を書きたいんだけど」僕が慌てて誤魔化すと、とソクジン兄さんが「そうだな、」と口を開いた。「僕は夢はないんだけど。まあ、望むとしたら良い人になることぐらいかな?」兄さんは照れくさそうに言葉を濁した。するとピアノの長椅子に横たわっていたユンギ兄さんが、いつもの関心のない感じで話し出した。「夢なんかなくて大丈夫だろ。夢なんかで飾らなくても、どうせなるようになる」ユンギ兄さんらしい言葉にみんなが笑った。

「俺はスーパーヒーローになって悪い奴から世界を救うよ」いつの間にか椅子に立ったテヒョン兄さんが天に向かって腕を伸ばすポーズを取りながら話すと、すぐにホソク兄さんが「ふざけてたら怪我するだろ」と言って降りるように叱っていた。それから続けて「僕は母さんを探して幸せに暮らす。幸せになること、それが夢だな」兄さんはそう言ってとても幸せそうに微笑んだ。「だったら今は不幸ですか?」そんな風に聞いたのはジミン兄さんだった。ホソク兄さんは「そんなこと言うのか~?」と少し困った顔でヒソヒソと笑った表情を作って見せた。そして、ジミン兄さんに向かって尋ねた。「で、あなたの夢は何ですか?ジミンさん」「僕?」ジミン兄さんは慌てたように目をパチパチさせて「幼稚園の頃は大統領になりたかったけど、今は何になりたいのかよく分からない」と答えた。

最後にナムジュン兄さんが残った。全員の視線を感じたのか、兄さんは肩をすくめてから口を開いた。「良い言葉を言ってあげたいところだけど、俺も別に夢と言えるものはないな。ただ、アルバイトの時給ちょっと上がったらいいけど」僕は頷いて通信簿を見下ろした。通信簿の将来希望欄は学生、保護者のところに空欄があった。僕は何になりたいのか。空欄に入れる言葉は浮かばなかった。

⇒ ふとした日常の会話の中にも、それぞれに置かれた環境や育ってきた背景を想像することが出来ます。


016【LYS轉’Tear’:YOUR-Y】ユンギ year19.06.12

year19.06.12 ユンギ

なんとなく学校をサボって抜け出したいというだけで、行くところがなかった。その日は暑く、金はないし、やることもなかった。「海に行こう」と言ったのはナムジュンだった。弟たちは浮かれていたようだが、俺は気が向くでもなく、嫌でもなかった。 「金はあるのか?」俺の言葉にナムジュンがみんなのポケットをはたいた。「コインが数枚、紙幣が数枚。行けそうにないな」「歩いて行けばいいじゃん」そう言ったのは、たぶんテヒョンだった。ナムジュンがもう少し考えてから言えみたいな顔をして、みんなが無駄話をして笑って、道端にごろごろと転がるフリをしながら歩いた。俺は言い返す気がしなくて、後ろの方を歩いていた。太陽が熱かった。真っ昼間で、並んだ街路樹でさえ陰を作らなかった。歩道もない道路の上を、車が土埃を上げながら通り過ぎていった。

「あそこに行こう」今回もテヒョンだった。いや、ホソクだったか。興味がなくてよく見てはなかったが、どっちかだった。俯いて地面を蹴りながら歩いていた俺は、誰かとぶつかりそうになって頭をあげた。ジミンがそこから動けなくなったみたいに立っていた。何か恐ろしいものを見たかのように顔の筋肉がブルブル震えてた。「大丈夫か?」尋ねたが聞こえないようだった。ジミンが眺めている所に〈プルコッ樹木園 2.1km〉という標識が立っていた。 

「もう歩きたくないです」ジョングクの言葉が聞こえた。ジミンの顔から汗が滴っていた。すぐにでもしゃがみ込みそうな顔だった。何だ?不思議な気持ちがした。「パク・ジミン、」呼んだが、やはり微動だにしなかった。頭を持ち上げて、また標識を眺めた。

「おい、こんなに暑いのに何が樹木園だよ。早く海まで行こう」俺は冷たい感じで言った。プルコッ樹木園がどんな場所かも知らないが、とにかく行ってはダメなんだと思った。理由は分からないがジミンの顔色が変だった。「お金が足りないですよ」俺の言葉にホソクが答えた。「歩いて行けばいいよ」テヒョンが助け舟を出した。「駅まで歩けば、お金はなんとかなるかな」ナムジュンは言った。 「その代わりに夕食はなしになるぞ」ジョングクとテヒョンは嘆き、ソクジン兄さんは笑っていた。ジミンが再び歩き出したのは、みんなが駅に向かう道に入った後だった。うなだれて、肩をすくめて歩くジミンは幼い子どものようだった。俺はもう一度標識を見上げた。〈プルコッ樹木園〉その5文字が徐々に遠ざかっていった。

⇒ 'I NEED U' Official MVで描かれている初めて7人で海へ行った日。〈プルコッ樹木園 2.1km〉の看板はWINGS Short Film #2 LIEにも登場します。この日から、ユンギは何かとジミンを気に掛けるようになります。


017【LYS結’Answer’:SELF】ソクジン year19.06.25

year19.06.25 ソクジン

倉庫の教室には、誰が持ってきたのか分からない植木鉢が一つ窓のそばにあった。弟たちの中で植木鉢を持って来るようなやつは誰なのか。僕は携帯電話を取り出した。電気が点いていないと常に薄暗い教室。汚れた窓から入ってくる霞んだ光の中で、緑色の葉っぱが対照的に見えた。携帯電話で撮った写真は良いものではなかった。ただ、携帯電話だからというわけではなかった。いつも考えているが、写真は人の目が捉えたものをそのまま写し出すわけではない。

近付くと植木鉢の下に〈ㅎ〉の文字が見えた。植木鉢を持ち上げた。 「ホソクの植木鉢」という文字が現れた。ふふっと笑いが出た。弟たちのうちで、誰かが植木鉢を持って来たんだとしたらホソクしかいなかった。〈ㅎ〉の文字まで全て隠れるように植木鉢を置いた後、周囲を見回してみた。今まで一度も気付かなかったが、窓枠は落書きで覆われていた。窓枠だけでなく、壁、天井にまで落書きがあった。合格しないと死ぬ。片思いしている相手の名前、日付、そして今は読むことさえ出来なくなった数々の名前。

この教室も、最初から倉庫だったのではなかっただろう。生徒が毎日登校して、授業が行われて、午後になると空けられていたんだろう。休暇中は空いているが、始業日には賑やかに生徒が集まってきたのだろう。その頃も遅刻して罰を受けて、こんなふうに授業をサボる、僕達のような生徒がいたのだろうか。無慈悲で暴力的な先生も、限りない試験と宿題もあったのだろうか。そして、僕のような人もいただろうか。僕のように校長に友人たちの悪事を報告する人。

この中に父の名前もあるのかと思った。ここは、父の母校でもあった。父は代を継ぐように同じ高校、同じ大学に通うことが一族の伝統に品位を与えると信じている人だった。目の前を一通り見ると父の名前を発見した。左の壁の真ん中あたり、何人かの名前の中にあった。その下にこんな文章が書かれていた。〈全てはここから始まった〉

⇒ アジトの落書きの中に見つけた父親の名前と、意味深な文章。MOSシリーズ、花様年華 THE NOTES 2で描かれる展開への伏線となっています。


018【LYS承’Her’:LOVE-L】ジミン year19.08.30

year19.08.30 ジミン

ホソク兄さんが電話をしている間、僕は兄さんの影が映っている地面を足で踏みつけながら遊んでいた。兄さんははひひっと笑いながら、「パク・ジミンも成長したな」と言う顔をしていた。学校から家までは歩いて2時間かかった。バスに乗ると30分もかからず、大通りだけ通っても20分は短縮出来る。それでも兄さんはいつも曲がりくねった通りと緩い坂道を通り、陸橋を渡る道にこだわっていた。退院後、転校してきたのは去年だった。学校は家から遠く、知ってる人は誰もいなかった。大丈夫だと思った。既に何度も転校したし、またいつ入院するのか分からないから、特別な事ではないと思っていた。そして兄さんと知り合った。新学期が始まり、少し経ってからだった。兄さんは何事もないように近付いてきて僕と一緒に2時間歩いた。

家の方向が違うと知ったのはその後だいぶ経ってからだった。僕は兄さんにになんで?と聞くことが出来なかった。並んで歩いてくれる影が、一緒に歩く日差しの下の2時間が、1日でも長く続いてくれることを願っていた。

僕はまだ電話をしている兄さんの影を踏みつけて逃げた。兄さんが電話を切って追いかけてきた。暑い日差しの中でアイスクリームがドロドロと溶け出し、蝉の音が耳に入ってきた。急に怖くなった。こんな日は後どれぐらい残っているだろうか?

⇒ ジミンにとって、ホソクは初めて出来た友人と呼べる存在でした。ホソクはジミンのトラウマについては知りませんでしたが、バスや人通りの多い場所で不安そうにするジミンの様子に気が付いていました。


019【LYS轉’Tear’:YOUR】テヒョン year20.03.20

year20.03.20 テヒョン

廊下をパタパタと走っている音が広がって小さくなり、止んだ。少し離れたところから〈俺たちの教室〉の前にナムジュン兄さんが立っているのが見えた。俺たちの教室。誰も知らないが、俺はその場所を〈俺たちの教室〉と呼んでいた。俺と兄さんたちとジョングク、俺ら7人の教室。息を殺して近付いていった。驚かすつもりだった。 

「校長先生!」5歩ほど踏み出すと、少し開いた教室のドア越しに緊迫した声が聞こえた。ソクジン兄さんだった。歩みを止めた。今、ソクジン兄さんが校長と話をしているのか?俺たちの教室で?なんで?ユンギ兄さんと俺の名前が聞こえて、ナムジュン兄さんが驚いたように息を呑むのがわかった。その気配を感じたようにソクジン兄さんがドアをカッと開いた。ソクジン兄さんの手には、電話があった。驚いた顔をして、慌てた様子が手に取るように分かった。ナムジュン兄さんの表情は見えなかった。俺は隠れてその様子を見守った。ソクジン兄さんが何か言い訳をしようとするように口を開けたが、ナムジュンが兄さん手を挙げた。「大丈夫」ソクジン兄さんがどういう意味かという表情を浮かべた。「兄さんがそんなことをするなんて、何か理由があるんでしょう」その言葉を最後に、ナムジュン兄さんがソクジン兄さんを通り過ぎて教室に入った。信じられなかった。ソクジン兄さんが、校長にユンギ兄さんと俺がこの数日の間に何をしたかを話していた。授業をさぼって塀を飛び越え、喧嘩をした話をした。それなのに、ナムジュン兄さんが大丈夫だと言った。

「ここで何してるの」びっくりして振り返るとホソク兄さんとジミンがいた。ホソク兄さんが俺が驚いたのを真似して見せて、俺の肩に腕を乗せた。ホソク兄さんに連れられて教室に入った。ナムジュン兄さんとソクジン兄さんが話をしていて振り返った。ソクジン兄さんが急な用事が出来たと言って出て行ってしまった。ナムジュン兄さんの顔色を伺った。ソクジン兄さんの後ろ姿を見送った兄さんは、何事もなかったかのように俺たちを見て笑った。その瞬間、こんな気がした。「ナムジュン兄さんがそう言うなら、何かちゃんとした理由があるんだろう」兄さんは俺よりもずっと多くのことを知っていて、ずっと賢くて、ずっと大人だから。そして、ここが〈俺たちの教室〉だから。俺はみんなが四角い口だとバカにしてくる笑いを浮かべて教室に入った。あの会話を聞いたことは、誰にも話さないつもりだった。

⇒ 理性的なナムジュンと感情的なテヒョンは対称的な考えを持っていますが、テヒョンはそんなナムジュンを大人だと尊敬し、信じています。
013のNOTESで父親や校長から圧力をかけられていたソクジンが、校長と内通している描写はBEGINS Official Teaserにも描かれています。この日起こった出来事は、タイムリープ後のyear22.05.22に行った海のモーテルでテヒョンがソクジンを問い詰めるまでうやむやにされたままです。


020【LYS承’Her’:LOVE】ナムジュン year20.05.15

year20.05.15 ナムジュン

行く場所がなかった俺たちのアジトになっていた倉庫を横切り、机や椅子を綺麗に並べ直して埃をさっと払った。学校に来る最後の日だった。引越しが決まったのは2週間前で、もうここには帰って来れないかもしれなかった。もしかすると、兄さんたちや弟たちとも二度と会えないのかもしれない。そう思って、半分に折った紙に何かを書こうと鉛筆を握った。どんな言葉を残していいのか分からないまま、取り留めのない言葉だけをなぞっている途中、鉛筆が折れた。

〈生き残らなければならない〉鉛筆の芯が折れて、破片の跡が残った。自分でも知らないうちに書いていた殴り書きがそこにあった。その殴り書きの後に続いて、貧しさ、両親や兄弟、引越しと言うようなジメジメした言葉が散らばっていた。紙をくしゃくしゃにしてポケットの中に入れ、その場で立ち上がった。机を押すと埃が舞った。

そのまま立ち去ろうと思ったが、結局汚れた窓に息を吹きかけて3文字だけ残した。どんな挨拶でも足りない、何も言わなくても伝わるはずだった。〈また会おう〉それは約束というよりも、むしろ願いに近かった。

⇒ 引越しの理由や別れの言葉を書いた6人への手紙を残すことなく、ナムジュンは静かに学校を去りました。〈生き残らなければならない〉という言葉はナムジュンのエピソードに度々登場します。


021【MOS:PERSONA-3】テヒョン year20.06.07

year20.06.07 テヒョン

「間抜けなバカ犬め。少しの間もじっとしてられないなんて」街中を駆け回ったが、トウフは見つからなかった。時計を見るとすでに20分が経っていた。たった2ヶ月の子犬が20分で一体どこまで行くことが出来るだろう。初夏の暑い日差しに汗がたらたらと落ちた。声が枯れるほどにトウフを呼び続けたせいで、喉がいがいがしていた。しばらく携帯電話をいじっている間、首輪を放してしまった。そして気が付くと、トウフはいなくなっていた。また走り出した。路地を確認して、開いたままの門は全て覗いてみた。「トウフ、ここだよ!」そう大声で呼んでみても、通り過ぎる人々が振り返るだけだった。

走り回りながら「バカな子犬だ」とトウフを責めた。「本当にダメ犬だ」とイライラした。だけどそう言っている間でも、こんなことになったのはトウフのせいではないと分かっていた。これは俺の過ちだった。よそ見をした。よく見もしないで首輪を放した。大したことでもない話をしながらクスクスと笑っていて、トウフがいなくなったことに気が付かなかった。トウフはわざと逃げ出したんだろうか。思わずその場で立ち尽くした。トウフは俺と一緒に過ごすのが楽しくなかったのだ。一緒に暮らせるようになったのが嬉しかったのは俺だけで、トウフにとってはただ家族との別れで、それ以上でも以下でもなかったのかもしれない。

パタパタと弾む音と共にトウフが吠える声が聞こえたのは、次の瞬間だった。最初は幻聴だと思った。ところが幻聴でも幻覚でもなく、トウフが路地を走ってくるのが見えた。わずか2ヶ月の小さな体が懸命に坂道を駆け下りて、耳は後ろに流れ、口を大きく開いていた。「トウフ!こっちだよ!」大声で叫んで膝をついた。勢いを落としたトウフは、すぐに俺に向かって飛びついた。「どこに行ってたの?どうやってここまで来たの?俺の匂いを覚えてた?」やっとの思いで抱え上げて、やつが俺の頬をぺろぺろと舐めた瞬間、不思議な感情が沸き起こった。「トウフが頼れる家族は俺だけだもんね。俺だって誰かの頼りになれるんだ。帰ってくる場所になれてるのかな」俺はもどかしそうに身をよじって俺の胸から降りようとするトウフを、さらにぎゅっと抱き締めた。

⇒ トウフはテヒョンが飼い始めたトンイによく似た白い子犬で、WINGS Short Film #3 STIGMAにも登場します。この4ヶ月後、トウフは再びいなくなってしまいます。


022【LYS承’Her’:LOVE-O】ジョングク year20.06.25

year20.06.25 ジョングク

ピアノの鍵盤を撫でると埃が付いた。指先に力を入れると兄さんが弾いていたのとは違う音が出た。兄さんが学校に来なくって10日が過ぎた。今日、退学になったという噂を聞いた。他の兄さんたちは何も話してくれなくて、僕からは怖くて何も聞けなかった。2週間前のあの日、先生がアジトのドアを開けて入ってきたとき、ここには僕と兄さんだけだった。保護者参観の日だった。教室にいるのが嫌で、ふらふらとアジトに向かった。兄さんは振り向きもせずにひたすらピアノを弾いていて、僕は机を二つ合わせて仰向けになり、寝たフリをして目を閉じた。兄さんとピアノは一見すると異質的だったが、引き離すことは出来ないほど一つだった。兄さんのピアノを聴くと、なぜか泣きたくなった。

涙が流れそうになって寝返ったとき、ドアが壊れるような勢いで開いてピアノの音もプツンと止まった。僕は頬を殴られ、倒れないように踏ん張ったが結局倒れてしまった。しゃがみ込んだまま罵られているのをじっと我慢していると、突然声が止まった。顔をあげると兄さんが先生の肩を押して、僕の前にいた。兄さんの肩越しから先生の動転した顔が見えた。

ピアノの鍵盤を押してみた。兄さんが弾いていた曲を真似してみた。兄さんは本当に退学になったんだろうか。もう戻って来ないんだろうか。兄さんは、殴られたり蹴られたりする程度のことはよくあるんだと言っていた。もし僕がいなければ、兄さんは先生に反抗しなかっただろうか。もし僕がいなければ、兄さんはまだここでピアノを弾いていたのだろうか。

⇒ ジョングクは6人の兄たちの中で、ユンギに最も心を寄せていました。保護者参観をサボってアジトで過ごしていた日を回想し、ユンギが自分を庇ったせいで退学になったのだと感じています。


023【LYS承’Her’:LOVE】ユンギ year20.06.25

year20.06.25 ユンギ

バタンとドアを開けて、机の引き出しの一番下に入れていた封筒を取り出した。開けてみるとピアノの鍵盤が一つ、コロンと言う音を立てながら落ちてきた。半分焼け焦げた鍵盤をゴミ箱に投げ捨ててベッドに横になった。それでも苛立つ気持ちが冷めずに、荒い呼吸のまま指先はススで汚れていた。

葬式が終わってから、火事で焼けた家に一人で行った事があった。母の部屋に入ると原形を留めていない焼け焦げたピアノが目に入った。そのすぐそばにしゃがみ込んだ。午後の日差しが窓を越えて差し込んでいた。気持ちが落ち着くまでの間、そのままそこに座っていた。日が暮れる前、鍵盤がいくつか散らばっているのが見えた。押したらどんな音が出たのだろう。まだ音の出る鍵盤はあるだろうか。母の指が、どれほど多く触れただろうと考えた。そしてその中の一つをポケットに入れ、部屋を後にした。

それから4年くらい過ぎた。家の中は静かだった。おかしくなるほど静かだった。10時を過ぎて父はもう寝ただろうし、その後はじっと息を殺さなければならなかった。それがこの家のルールだったが、俺はこの冷たさに疲れ切っていた。決められた時間に合わせて規律と形式を守ることも、簡単ではなかった。だた、それよりもっと我慢出来ないのは、それでも自分がまだこの家に住んでいることだった。父から小遣いをもらい、父と食事をして、父の文句を聞いた。騒いで反抗して揉め事を起こしたりしても、父を捨てて、この家を出て一人になりたいと考えているだけで、俺には本当の自由を得る勇気がなかった。

思い立ったようにベッドから起き上がり、机の下のゴミ箱から鍵盤を拾い上げた。窓を開けると夜の空気が勢いよく入ってきた。今日1日に起きた出来事が、その風に乗って頬を殴るようにして伝わってきた。その空気の中に、鍵盤を思いっきり投げつけた。今日で学校に行かなくなって10日が過ぎ、退学処分を受けたという知らせを聞いた。もう俺が望まなくても、この家からは追い出されるかもしれない。耳を澄ましてみても鍵盤が地面に落ちる音は聞こえなかった。どんなに必死に考えても、あの鍵盤がどんな音を出していたのかを知ることは出来ないだろう。どんなに多くの時間が経っても、その鍵盤がまた音を出す事はないと思う。俺がピアノを弾くことは、もうない。

⇒ ユンギは父親を嫌っていましたが、その父親なしには生活を送れないことも理解していてもどかしさを感じています。自暴自棄になり音楽との決別を誓いますが、ユンギの中にはまだ音楽への未練がありました。


024【LYS轉’Tear’:YOUR】ソクジン year20.07.17

year20.07.17 ソクジン

昇降口を出るとセミの声が痛かった。校庭では笑ってふざけながら、競走のようにかけっこしている生徒たちで賑わっていた。夏休みが始まってみんな浮かれていた。彼らの間をうつむきながら歩いた。早く学校を抜け出したかった。 

「兄さんっ、」誰かの影が突然現れて、飛び跳ねるように驚いて顔を上げた。ホソクとジミンだった。いつものように大きくニコニコと笑って、幼く見える目で僕を見ていた。 「今日からお休みなのに、このまま帰るんですか?」ホソクが腕を引っ張って話した。僕は「おお、」と意味もない言葉をいくつか返しながら目を逸らした。あの時に起こったことは明らかに事故だった。意図したものではなかった。あの時、倉庫の教室にジョングクとユンギがいるなんて思わなかった。校長は、僕が弟たちを庇っているのだろうと疑っていた。僕が良い生徒ではないということを、いつでも父に報告することが出来るのだと言った。何かを言わなければならなかった。アジトの話をしたのは、きっと誰もいないだろうと考えたからだった。ところが、ユンギが退学させられることになった。僕がその事に関わっているのを知っている人はいなかった。 

「良い休暇を過ごしてください、兄さん!連絡しますね」僕の態度をどう解釈したのか、ホソクが手を離してわざと明るく挨拶をした。僕はまた何も答えなかった。何も言える言葉はなかった。校門を出ると初めて登校した日のことが浮かんできた。それから遅刻をして、みんなで罰を受けた。一緒だから笑うことが出来た。その時間を僕が壊した。

⇒ 校長に弱みを握られたソクジンがアジトの存在を話してしまったことで、7人の花様年華は終わりを告げました。そのことを誰にも打ち明けることが出来ないまま、ソクジンは再びアメリカへと転校します。「遅刻をして、みんなで罰を受けた」場面はBEGINS Official Teaserで描かれています。


025【LYS承’Her’:LOVE-L】ホソク year20.09.15

year20.09.15 ホソク

ジミンの母親が救急室を横切って歩いてきた。ベッドに掛かった名札と点滴を順番に確認しながら、ジミンの肩についた葉っぱを手で払った。僕はジミンがどうして救急室に運ばれたのか、バス停で発作を起こした経緯について説明しなくてはならないと思って静かに近付いた。ジミンの母親はやっと僕に気付くと、何か疑っているような視線でじっと僕を見つめた。僕はどうしていいかわからず、たじろいだ。ジミンの母親は「ありがとう」と一言だけ残してそのまま立ち去った。

ジミンの母親が再び僕の元にやってきたのは、医者と看護婦がベッドを移動させるのに僕がついて行こうとした時だった。母親はもう一度「ありがとう」と言って僕を押し退けた。押したというよりは、ほんの少し手を触れたと言う表現が正しかったかもしれない。しかし、それだけで突然僕とジミンの母親との間に見えない境界線が生まれた。その境界線はとても頑丈で、冷たい警告だった。僕が決して超えることの出来ない線だった。養護施設で10年以上暮らした。仕草や視線である程度のことが分かった。もたもたと後ろに下がりながら床に座り込んだ。そんな僕の姿を、ジミンの母親は黙って見つめていた。小柄で美しい人だったけど、影はとても大きくて冷たかった。そんな影が救急室の床に座り込んでいる僕の上に覆い被さっていた。顔を上げると、すでにジミンのベッドは救急室の外に出て見えなかった。その日からジミンが学校に戻って来ることはなかった。

⇒ バスに乗っていたプルコッ樹木園での事件の被害者(チェ)と目が合ったことで、全てを思い出し発作を起こしたジミン。養護施設で育ったホソクは、世間からの好奇の目やどこか差別的な意識に敏感になっていました。とりわけ世間体を気にするジミンの母親の視線や仕草は、無意識であっても分かりやすくホソクを軽蔑していました。


026【LYS承’Her’:LOVE】ジミン year20.09.28

year20.09.28 ジミン

今日が入院して何日目なのかを数えるのはやめた。そんなことは、退院したいとか退院できる希望がある時にやることだった。窓の外の遠くに見える木や草、花や人々の服装からまだそう長い時間が経ったわけではないと分かっていた。せいぜい1ヶ月ちょっとだ。ときどき制服を着た人の姿も見えたが、それも特別には感じなかった。薬のせいなのか全てのことが退屈で、ぼんやりとしているだけだった。それでも今日は特別な日だった。日記をつけているのなら必ず書き残さないといけないような日。だけど僕は日記を書いていないし、そんな事を書き残して問題を起こしたくはなかった。今日、僕は初めて嘘をついた。医者の目を見ながら落ち込んだフリをして話した。「何も思い出せません」

⇒ WINGS Short Film #2 LIEで描かれているカウンセリングの日。退院出来ないことを悟ったジミンは、希望を捨てて全ての物事に対して期待を持たないことで自分自身を保とうとします。


027【LYS轉’Tear’:YOUR】ジョングク year20.09.30

year20.09.30 ジョングク

「チョン・ジョングク。お前、最近もまだあそこに行ってるのか? 」僕は何も答えずにスニーカーのつま先だけを見ていた。返事をしないでいると、出席簿で頭を叩かれた。それでも口を開かなかった。兄さんたちと一緒に過ごした教室のことだった。兄さんについて歩き回ってその教室を見つけた日から、一日も行かない日はなかった。たぶん兄さんたちも知らないだろう。兄さんたちは何か約束があったり、バイトが忙しかったら来ないこともあった。ユンギ兄さんやソクジン兄さんなんて、何日も姿を見せないことだってあった。しかし、僕は違った。一日も欠かさずにその教室を訪れた。一日中、誰も来ない日もあった。それでもよかった。この場所があるだけで、今日来ないなら明日、明日じゃなければ明後日には兄さんたちが来ると思うと大丈夫だった。

「あいつらとつるんで、悪いことだけ学んだのか?」視線を感じて見上げると、また叩かれた。ユンギ兄さんが殴られた姿を思い出した。歯を食いしばって我慢した。もうあの教室に行かないという嘘は言いたくなかった。

僕はまたその教室の前に立っていた。ドアを開けると兄さんたちがいるような気がした。集まってゲームをしながら振り向いて、「なんでこんなに遅れて来たんだ?」と言われる気がした。ソクジン兄さんとナムジュン兄さんは本を読んでいて、テヒョン兄さんがゲームをしたり、ユンギ兄さんがピアノを弾いて、ホソク兄さんとジミン兄さんがダンスを踊ったりしているような気がした。

だけど、ドアを開けて見えたのはホソク兄さんだけだった。兄さんは教室に残っていた僕たちの荷物を整理していた。僕はドアノブを握ったまま、ただ立っていた。兄さんが近付いてきて肩に手を置いた。それから僕を導いて外に出た。「もう行こう」後ろの方で教室のドアが閉まった。僕は気が付いた。あの日々はもう戻っては来ないんだ。

⇒ ジョングクにとってアジトは唯一の居場所であり、いつかまた兄たちと一緒に過ごせるという希望を持てる心の拠り所でした。


028【LYS承’Her’:LOVE】ホソク year21.02.25

year21.02.25 ホソク

鏡の中の自分から目を離さずにダンスを踊った。鏡の中にいる僕は、足が床に着かないくらいに身体を浮かび上がらせて、この世界の全ての視線や基準から自由であった。音楽に合わせて身体を動かす事、心を身体に乗せる事以外は何も重要ではなかった。

初めてダンスを踊ったのは12歳のときだった。たしか修練会の特技披露の時間だった。学校の友達に引っ張られ舞台に上がった。その日起こった事の中で記憶に残っているのは拍手と歓声、そして初めて自分自身になれた気分がしたことだった。もちろん、その時はまだ音楽に合わせて身体を動かすのを楽しんでいる程度だった。それが喜びになって、その喜びが拍手からではなく、僕の内側から来ているという事実がわかったのは随分後だった。

鏡の外の僕は、常に多くのことに縛られていた。足が床につくと何秒も我慢していられず、嫌でも悲しくても笑っていた。飲む必要のない薬を飲みながら、場所を選ばずに倒れた。だから僕は、ダンスを踊る時だけは鏡の中の僕から目を逸らさないようにしていた。正真正銘の僕自身になれる瞬間。全ての重圧を捨てて飛び立てる瞬間。幸せになれるのだと信じる気持ちを持つことが出来る瞬間。その瞬間を、僕は守る。

⇒ 明るく振舞うホソクが絶やすことのないその笑顔は、保身のために作られたものでした。WINGS Short Film #6 MAMAよりホソクはミュンヒハウゼン症候群であるとされているので、「飲む必要のない薬」はナルコレプシーの発作を引き起こすための睡眠薬だと考えられます。


029【MOS:PERSONA-2】ジョングク year21.05.02

year21.05.02 ジョングク

夕焼けが濃くなった陽だまりの川辺を走った。ピンクと紫が入り混じった空に向かってペダルを漕ぐと、重たいだけの日常から抜け出せるような気がした。今日もお母さんが夕飯の支度をする音が聞こえるや否や自転車を引いて外ヘ出た。誰とも会いたくなかった。僕に笑いかけてくれる人一人いない場所、それが僕の家だった。一緒に暮らしているからと言って、家族というわけではなかった。家の外へ出ても何も変わらない。兄さんたちは一人二人と離れて行って、同じ街にいてもお互いに連絡を取らないようになって、ずいぶん時間が経つ。もう家の中にも家の外にも、僕に笑いかけてくれる人はいなかった。

日が暮れてまだ月が出る前、川辺には暗闇が降りてきていた。自転車に跨って走ると、川辺の風景は変わっていった。公園に沿って整備された道が終わり、廃車や廃バイク、タイヤのようなゴミでいっぱいになった場所が現れた。僕は橋の下の柱に自転車を止めて川岸に降りた。川の向こうでは火を起こしてお酒を飲みながら角材を振り回す少年たちがいたが、こっちには誰もいなかった。こんなめちゃくちゃな場所に人が来るわけがなかった。僕を訪ねる人が誰もいないのも、そんな理由なんだろうか。誰も探していないこの空間に、完璧な闇の中に一人でいるこの時間が楽だった。この時間が永遠に続けばいいとすら思った。

⇒ アジトという唯一の居場所を失い、人との関わりすらも失くしたジョングクは、自分自身により一層の無価値感を抱えるようになります。


030【MOS:PERSONA-4】ソクジン year21.08.09

year21.08.09 ソクジン

海に沿って下りながら写真を撮った。海岸沿いの町並みは絶えず変わっているが、海はどこも同じだ。車を降りて海辺に降りた。砂浜に座ってこれまでに取った写真を見た。撮った場所も、撮った時間も違うが全ての写真が似通っていた。空と海が画面の真ん中で接していた。

逃げるようにソンジュを離れ、LAに来て1年が経った。幼少期を過ごした母の実家は馴染みが薄く、楽ではなかった。感情を隠して自分の居場所を見つけた後も、少し気まずい顔をしていた。父に習って身に着けた”いい人”になるための手段。それは大抵の場合役に立ったし、今回もそうだった。

ここに来てから人を撮っていなかった。特別な理由はなかったが、ただそうしたくなかった。代わりに海を撮った。変わらないものを撮りたかったのかも知れない。そう考えてみると、おかしい話だった。彼らは変わったわけではなかったし、僕が変わったわけでもなかった。僕は元々そういう人間で、それを隠しているのがバレただけだった。高校の時に撮った写真は一枚も持って来なかった。あの時の僕は、それまで生きて来た僕とは違っていた。感情を隠さず、自分の居場所を探す必要もなかった。ぎこちない笑顔はそのままだったが、他のものがあった。あの時、僕は心から笑っていた。

カメラを構えて海を撮った。曇り空のせいで海も空も似たような色だった。接している水平線もぼやけていた。海を撮った数多くの写真の中に、全く同じものは一枚もなかった。天気も光も風も違っていた。僕の視線や気持ちが異なっていた。今日撮った写真も、高校時代に撮ったたくさんの写真もそうだった。写真には、撮る人の視線や心が込められている。たぶん、それが僕があの頃の写真を一枚も持ってくることが出来なかった理由だ。あの頃の自分とまともに向き合うのが怖かった。あの頃の自分が懐かしくなってしまうのではないか。みんなどうしているのだろう。僕のこと、どう思ってるかな。そんなことばかりを考えてしまいそうで、僕は彼らの写真を箱に入れて蓋を閉めて置いて来てしまった。

⇒ MVの中でもよくカメラを構えているソクジン。「写真」そして「海」というキーワードは、【花様年華】の中で過去の記憶や感情を呼び起こすトリガーとして重要な役割を持ちます。


031【LYS轉’Tear’:YOUR】ナムジュン year21.12.17

year21.12.17 ナムジュン

先頭でバスを待っている人が、冷たい風に当たった手を擦り合わせた。俺はバッグの肩紐をしっかりと掴んで握り、地面を見降ろした。誰とも目を合わさないように努力した。一日に二度バスが停車するだけの田舎の村。遠くから始発が来るのが見えた。

人々の後に続いてバスに乗った。振り返らなかった。人は何か切実なものがあるとか、何かをようやく手に入れたとか、何か抜け出したいことだけ残っているとか、そんな条件がある時に振り返る。今振り返れば、これまでの努力は水の泡になる。振り返ること、それは疑いであり未練であり不安でもあった。それに打ち勝って初めて抜け出せるのだと考えていた。

バスが出発した。計画があるわけではなかった。何か切実なものがあるとか、それを手に入れて抜け出したいわけでもなかった。ただ闇雲に逃げているのに近かった。母の疲れた顔、ふらふらとしている弟、父の病気。日に日に複雑になる家庭の事情から、犠牲と黙認を強要する家族から、何も知らないふりをして全て諦めて適応しようとありったけの力を振り絞る自分から。そして何よりも貧困から。

貧困が罪かと尋ねたら、誰もが違うと言うだろう。だが、本当にそうだろうか。貧困は多くのことを消耗する。大切だったものが何でもなくなる。諦めることが出来ないようなことも諦めてしまう。疑って恐れて、全て諦めるようになる。

もうあと数時間でバスは見慣れた停留所に着く。1年前にそこを離れるとき、俺は何の挨拶も残さなかった。そして今、何の前触れも予告もなしにそこへ戻ろうとしている。友人たちの顔を思い浮かべてみた。連絡は途絶えていた。みんな何をして過ごしているのだろうか。俺を迎え入れてくれるだろうか。またあの時のように、一緒に集まって笑えるのだろうか。窓全体が曇っていて外の風景は見えなかった。その上でゆっくりと指を動かした。

〈生き残らなければならない〉

⇒ ナムジュンはアルバイト先で起きた死亡事故をきっかけに、社会から搾取される側でい続けることに対して耐え難い違和感を持つようになります。そして、”家族のため”という大義名分で自分を縛る見えない鎖からも逃れるように単身でソンジュへ移り住み、線路脇のコンテナに居を構えます。この時のナムジュンは、6人がすでに離散していることは知りません。


032【MOS:7-4】ソクジン year22.02.01

year22.02.01 ソクジン

間もなく着陸するというアナウンスが流れた。窓の外にはまだぼんやりとした雲しか見えなかった。LAでの時間を振り返った。海があってよかったが、それ以外に思い浮かぶものはあまりなかった。飛行機が大きく旋回すると、すぐに街が見えてきた。

ソンジュに戻る事になったのは急な話だった。父が電話で言った。「帰って来なさい」何か理由はあるのだろう。父は理由もなく動く人ではなかった。それでもその理由は僕には知らされなかった。行けば分かるはずだろうし、僕からも聞かなかった。もしかすると、ソンジュに戻されることは突然決まったことではないのかも知れない。全てのことはすでに決定されていたのに、僕だけが知らなかったのかもしれないような気がした。

「あそこがぼくの家?」前の席に乗っている子どもの声につられて、僕も窓の外を見た。「いや、おうちはあっちの川の向こうだよ」子どもの父親らしき人が答えた。家。繰り返し考えてみた。僕は家に帰る、という感覚ではなかった。だからと言ってLAが家だったわけでもない。LAとソンジュ、この二つが僕の住所ではあったが、どちらも僕の家ではなかった。

⇒ 父親の望む通りに生きることを受け入れているソクジンには夢や希望のような強い意志はなく、自分自身の人生を生きることに関して諦めに近い感情を持っています。WINGS Short Film #7 AWAKEにも「夢がなかった」という文章が脈略なく挿入されていました。


033【MOS:PERSONA-2】ホソク year22.02.25

year22.02.05 ホソク

19歳の誕生日を過ぎて、僕の世界はまた一変した。僕はもう保護児童ではなくなり、養護施設で過ごすことは出来なくなった。保護終結児童に支給され自立支援金とアルバイトで貯めたお金で部屋を探した。市街地のツースターバーガーの近くは考えていなかった。ソンジュ駅の方まで足を向けてみたけど、家賃は大差なかった。結局、坂道を上るしかなかった。突き当たりの一番奥にある屋上の部屋だった。

ガタガタするトランクを引き摺りながら鉄製の階段を昇った。12年も過ごした施設を離れるというのに、荷物はあまり多くはなかった。洋服とスニーカーを整理して、リサイクルセンターで買った小さな家具を置いたらおしまいだった。

それでも引越しは引越しで、腰を伸ばした時にはもう夜だった。2月の気候でも背中に汗をかいていた。鉄製のドアを開けると、キーキーと鳴る音と共に、晩冬の冷たい風が押し寄せてきた。外に出て欄干にもたれかかった。ソンジュの街が足元に見えた。目を凝らして養護施設を探してみた。川に沿って左に行く途中に見えるクローバーの看板のさらに左側。ネオンサインと街の灯りで養護施設はよく見えなかった。

僕は振り返って屋上の部屋を眺めた。たった一間の小さな部屋。夏は蒸すように暑く、冬は扉の隙間から冷たい風が吹き込むという粗末でみすぼらしい部屋。それでも僕にとっては世界で唯一の場所だった。僕が自分自身でいられる場所。どんなに馬鹿げた恐怖心も、他人があざ笑うような希望も持てる場所。思いっきり笑って、思いっきり泣ける場所。「頑張ろう」僕は屋上の部屋に向かって叫んだ。この街の一番上、夜空に一番近いこの場所が、今日から僕の家だ。

⇒ 高校卒業後、養護施設を出てひとり暮らしを始めたホソク。街外れの小さな部屋でしたが、自分だけの城を手に入れました。
蛇足ですが、当noteではyear22.02.05に書かれたこのNOTESにホソクが19歳と明記されていることや7人の年齢差を根拠に、year=ソクジンの年齢であると定義付けしています。


034【LYS結’Answer’:SELF】ホソク year22.03.02

year22.03.02 ホソク

僕は人々の中にいるのが良かった。養護施設から独立してファーストフード店でアルバイトを始めたが、常に多くの人と笑顔で接して活気良くしていなければならなかった。僕はそれが苦ではなかった。本当の僕の人生は、笑うことも活気に満ちることも少なかった。良い人よりも悪い人を多く見てきたのも確かだった。もしかしたら、そのことがかえって良かったのかもしれない。無理にでもパッと笑って、大声で話しながら愉快に対応していると、本当にそんな気持ちでいるような気がした。大きく笑うと気分が良くなったし、親切にすると良い人になれた。大変な日もあった。そんな日は店を片付けて家に帰るとき、一歩踏み出すこともつらかった。面倒な客が多い日もあった。それでも友人たちがいたときは、そんなことに耐えるのが今より少し楽だった。

時々、店いっぱいに訪れるお客様を見ながら友人たちのことを考えた。何も言わずに転校してしまったソクジン兄さん。ある日の朝、突然消えてしまったナムジュン。退学処分を受けた後、連絡を取っていないユンギ兄さん。どこでどんな問題を起こすか分からないテヒョン。そして、救急室で見たのを最後に学校に戻って来ることはなかったジミン。ジョングクは、ついこの前まで制服を着て下校する姿を窓越しに何度も見たが、なぜか店には立ち寄らなかった。あの頃はもう過ぎ去ってしまったのだろうかと考えた。

お客様が入ってくる音がして、僕は大きく「いらっしゃいませ!」と言った。それから明るく元気な笑顔を浮かべて、ドアの方を見回した。

⇒ ホソクのアルバイト先であるツースターバーガーはソンジュ第一中学校に程近く、7人で度々訪れた思い出の場所で'I NEED U' Official MVにも登場します。


035【LYS結’Answer’:SELF】テヒョン year22.03.29

year22.03.29 テヒョン

ガソリンスタンドの社長が地面に唾を吐きながら立ち去った。その場にしゃがみこんで、そのまま横になった。ガソリンスタンドの奥の壁にグラフィティをしていたのを社長に見つかって、「他人の壁に何してんだ!」と殴られた。地面を転がった。殴られるのはいつものことなのに、慣れなかった。

グラフィティを始めたのはつい最近のことだった。誰かが捨てたままにしていたスプレー缶を拾って壁に吹き付けてみた。黄色だった気がする。ただ無造作に吹き付けて見上げた。灰色の壁に鮮やかな黄色のインクが乗るのを見て、別のスプレーを持ち上げた。しばらく俺は無心で壁に色を吹き付けた。全てのスプレー缶を空っぽにして手を止めた。缶を投げ捨てて逃げた。全力疾走をしたかのように息が切れていた。

壁の上の色が何を意味するのかは分からなかった。何を描いたのか、なぜ描いたのかも分からなかった。ただ、それが自分の心だというのは察することが出来た。俺は壁の上に自分の心を吐き出したのだった。最初は下手くそだと思った。汚いような気もした。バカみたいで、何の役にも立たなくて、哀れだった。気に入らなかった。掌でまだ乾いていないインクを擦りまくった。消してしまいたかった。インクは掠れていく代わりに、他の色と混ざって別の色になった。その壁にもたれて座った。気に入っているとかいないとか、そんな問題ではなかった。美しい、美しくないの問題でもなかった。ただ、それが俺だった。

身体を起こすと、すぐに咳が出た。口の中が切れたのか、掌に血が飛んだ。それから誰かの手がスプレー缶を取り上げるのが見えた。その手を辿って見上げると顔が見えた。ナムジュン兄さんだった。ククッと笑いが出て、たぶん幻覚が見えてるんだと思った。兄さんが手を差し出した。俺はそのままその手を見上げていた。兄さんが俺の腕を引っ張って起こした。暖かい手だった。

⇒ テヒョンがグラフィティを描いたガソリンスタンドは、偶然にもナムジュンがアルバイトをしている場所でした。二人はナムジュンが引越したyear20.05.15以来、約2年ぶりに再会しました。ナムジュンがテヒョンの腕を引いて起こす描写は、on stage : prologueEuphoriaにも印象的に登場します。


036【LYS承’Her’:LOVE-O】ユンギ year22.04.07

year22.04.07 ユンギ

ぎこちないピアノの音に足を止めた。真夜中の誰もいない工事現場には、誰かが焚いたドラム缶の中の炎だけが音を立てていた。さっき、自分が弾いた曲だと言うことはすぐに分かったが、それがどうしたと思った。酔っていて、足がふらついていた。目を瞑ってわざと何でもないように歩いた。炎の熱が強くなって、ピアノの音も夜の空気も酔いもぼんやりとしていた。

突然のクラクションに目を開けると、車がスレスレで通り過ぎていった。ヘッドライトの眩しさと、車が横切りながら起こした風が吹いてきた。酔って混乱した中で、俺は成す術もなくふらついた。運転手の罵る声が聞こえた。足を止めて一思いに怒鳴ろうとしたが、ふとピアノの音が聞こえて来ないことに気がついた。炎の燃える音、風の音、車が残した雑踏の中で、ピアノの音は完全に聞こえなくなった。なぜ止めてしまったんだろう?誰がピアノを弾いていたんだろう?

パチっという音と一緒に、ドラム缶の中の炎の粉が暗闇に向かって飛び散った。その様子をしばらくぼんやりと見つめていた。熱さのせいで顔が火照った。そして拳でピアノの鍵盤を叩きつけたような、ガンという音が聞こえてきた。反射的に振り返った。一瞬にして血液が逆流し、呼吸が乱れた。幼いときの悪夢、そこで聞いた音のようだった。

次の瞬間、俺は走り出していた。自分の意思ではなく、身体が勝手に楽器店へと向かっていた。何となく、何度も繰り返して来たことのような気がした。何故だかわからないが、何か切実なことを忘れている気分だった。

ガラス窓の割れた楽器店で、ピアノの横に誰かが座っていた。何年経っていても一目で分かった。泣いていた。拳をぎゅっと握りしめた。誰かの人生に関わりたくなかった。誰かの寂しさを慰めたくなかった。誰かにとって、意味のある人間になりたくなかった。その誰かを守る自信がなかった。最後までそばにいる自信がなかった。傷付けたくなかった。傷付けられたくもなかった。

俺はゆっくりと歩き出した。無視するつもりだったのに、自分でも知らないうちに近寄っていた。そして、弾き間違えていた音を指摘した。ジョングクが顔を上げた。「兄さん」高校を辞めてから、初めて会った。

⇒ 退学処分を受けた以降、ユンギは酒に溺れる日々を送っていました。WINGS Short Film #4 FIRST LOVEで表現されているこの日、酩酊したユンギは偶然聞こえたピアノの音に誘われて戻った楽器屋でジョングクと再会します。



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お疲れさまです。第一弾はここまでにします。
根気よく読んでくださってありがとうございました!

今回の記事で、書籍版の花様年華THE NOTESがなかなか手に入らず、これまでNOTESに触れて来なかったという方も、なんとなくNOTESの持つ雰囲気が掴めたんじゃないでしょうか?そして【花様年華】の考察にとって、NOTESの存在がいかに重要か……


第二弾の記事では、037(year22.04.11)~070(year22.06.13)のNOTESを整理します。タイムリープの起点であるyear22.04.11以降は世界線が入り乱れるため、今回のようにスムーズな展開ではないことだけ念頭に置いておいてくださいね。



さて、次回からは、また本筋に戻って時系列を整理していきます。

物語はいよいよ後半へと入り、約3ヶ月ぶりにタイムリープをしたソクジンが全てをやり直して再びyear22.08.30へと向かっていく中で、ナムジュンの身の回りにとある微細な変化が現れ始めます


〈次回〉

※更新はTwitter(@aya_hyyh)でもお知らせします。


※和訳まとめの次回記事はこちら※

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ありがとうございます💘