灰かぶり | 矢川澄子・宇野亜喜良
■ ひとこと概要
グリム原作に沿った展開の矢川さん再話による「灰かぶり」。アリス同様少女性の強さを感じて心地いい。魔法使いや馬車が登場しない閑雅な童話性と、ファンタジーだけで終わらない本当は怖いグリムの世界が味わい深い。
■ 感想
「灰かぶり」(再話)矢川澄子(絵)宇野亜喜良(教育画劇)P40
グリム原作に沿った展開のお話で矢川澄子さん再話による「灰かぶり」。宇野さんの絵と矢川さんの文章の相性の良さがこの本にも随所で見られることがファンにとり何よりの幸せで、残酷なこのお話も幸せな想いで読めてしまう。
矢川さんが淡く笑いながら耽美で残酷な世界へと誘うように、主人公・灰かぶりの母が亡くなる最初のページで枕もとに立つ死神を描く宇野さん。子供の頃に見たシンデレラとは違うぞと警告するような始まりは何度読んでもドキドキしてしまう。
継母と姉の表現が「まま母(かあ)さん」「まま姉(ねえ)さん」であったり、「色白できれいな娘たちですが、心は真っ黒です」とクールに言い切ってしまう矢川訳はアリス同様、少女性の強さを感じて心地いい。魔法使いや馬車は登場せず、白鳩が母の分身となり灰かぶりを支え、助けてくれる部分も閑雅な童話性を感じられる。
Gブリホイホイ的な王子様の仕掛けで靴の片方が階段に絡めとられるのはうん…まあ…と受け入れたとして、それならばその階段はその後いろんなお嬢さまの靴でいっぱいになるんではとつい心でいろんな突っ込みをしてしまい、純粋に王子様に浸れない哀しみもまた良し・笑。
靴を片手に想い人を探す王子のシーンでまま母は、上の姉はつま先が大きいので「つま先を切っておしまい」、下の姉は踵が大きいので「かかとを切っておしまい」と、我が子にもとんでも対応の継母、清々しい程の悪役ぶり。でもそんな無理矢理方法でも靴が履ければ「花嫁だ」と思って馬に乗せてしまう王子様のポンコツ具合。一目惚れの上に、三日三晩灰かぶり以外の人に目もくれなかったのになぜ目視で分からない。
いい。童話、大らかでいい。これが童心かと、汚れちまった哀しみを感じるのも心愉しい。でも、根本的に倫理観がどうかしてるようなめでたし感を大事な幼少期に植え付けることの弊害も大きい気もして空恐ろしくもなったり。そしてファンタジーだけで終わらないのがグリム。悪役に待ち受けるのは恐ろしい因業。つま先と踵を失っただけでは赦されない姉様ズ。本当は怖いグリムの世界…。
■ 寄り道読書
「サンドリヨン」C.ペロー(訳)石沢小枝子(メルヘン文庫)P281
ギュスターヴ・ドレの挿絵の入ったペローのフランス童話集。1話ごとにその物語から云える教訓が書かれている所も面白い。