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楽しい古事記


■ 感想

「楽しい古事記」阿刀田高(角川文庫)P304

訓み下し文でも読み進めるのになかなか骨の折れる古事記。原文など注釈がたっぷりと付いていても目はどんどん滑り、早い段階で睡魔に襲われ続けるという茨の道で、途中断念から早数年…。

読みたい内容が多数含まれすぎている古事記。でも…。そんな時は難関本でも面白さを掘り起こし、あらゆる角度から興味を引き出してくれる強い味方、阿刀田高先生がいるじゃないか!聖書も遠野物語も阿刀田先生の導入で楽しく読了できた。今回も深すぎて沈みそうな古事記という沼で溺れないよう牽引してもらわねば!

そして、今回も下げた頭を上げられない程の感謝に包まれる楽しい古事記への道が!古事記の大筋に興味がもてるよう全編に渡り細やかな工夫が施されていて、それほど重要でない神の名前やエピソードは極力控えられ、混乱しにくいのも有難い。イザナギ、イザナミの国造りから始まるので、まずは挫けそうになる独り神たちの名前の羅列で既に脳みそがぼんやりとしてくるという苦行を回避し、アダムとイヴやギリシア神話との類似や相違点の面白さと相まって、楽しく古事記の世界へと誘われる。

国を造り、神々を産んだ始まりの神であるイザナミ・イザナギは特にキャラも濃く、エピソードにも事欠かない。仲睦まじく物凄いスピードで子を成していくが、カグツチ(火の神様)を産んだことで大火傷を負い、それが原因でイザナミは亡くなってしまう。深く嘆き悲しんだイザナギは生まれたばかりのカグツチを殺し、イザナミを黄泉の国から連れ戻そうと比良坂へと赴く。

哀しみは分かるがイザナギよ、我が子を…と思うが、最初の子であるヒルコを不具の子とし葦船で島から流すという鬼の所業をしているだけにそうなるのか…と胸は痛む。古い道徳観に基ずく創作なので、ここは善悪や道徳は一旦置いて。最愛の妻を取り戻すため黄泉へと果敢に挑むイザナギへと気持ちを切り替えて進むと、生き返るための交渉を神様とする間決して私の姿をみようとしてはなりませんよとイザナミに言われたにも関わらず、「押すなよ、絶対押すなよ」の法則で、人とは勿論覗いてしまう。

そして勃発する壮大な夫婦喧嘩。日本の歴史史上最古の「見ぃーたぁーなぁーーー!」が展開され、これまた日本史上最初の壮絶な離婚劇へ。始まりから終わりまで賑やかな、まさに夫婦漫才。そんな悲喜劇で幕を開ける古事記は、そこからも当然ながらボーイミーツガール要素満載で、出会い、まぐわい、連綿と続いてゆき、神は人間界へと天下り、天照大神の天孫として皇室の始まりの神武天皇へと続いていく。

日本最古の物語だけあって、読めば読むほど面白さや派生する興味が広がっていくのも楽しく、桃太郎や浦島太郎などの物語はここから形を変えて伝承されていったのかと様々な話や由来も知ることが出来る。ちょうど読み始めた頃に「全領域異常解決室」のドラマが始まり更に古事記への興味が深まっていたので、覚えにくい神々の名前も入りやすいという嬉しい追い風となってくれた。

古事記後半からは実在した天皇を中心に歴史としての色が濃くなりエピソードとしては弱くなっていくので、脳みそも記憶もぼんやりとしてしまう感はあるけれど、個人的に気になった神様をここから深掘りしたり、本格的な古事記へと読み進めていきたい。古事記を知ることで腑に落ちる日本という国の根幹に繋がる部分への気付きもあり、文化と人の想いの移ろいなど、古典を読むことの面白さと重要性を改めて教えてもらえる激推し良書。

■ 漂流図書

楽しい古事記▶️漂流図書

■芥川龍之介全集 第六巻

スサノオのエピソードをモチーフにした「素戔嗚尊」「老いたる素戔嗚尊」が収録されている六巻。

前に読んだ時はスサノオをこの短編で知ったぐらいの知識だったので、古事記を読み始めた今ならどんな感慨が生まれるのか再読が楽しみ。

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