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アダムとイヴの日記


■ 感想

「アダムとイヴの日記」マーク・トウェイン(訳)大久保博(河出文庫)P244

人類の始まりであるアダムとイヴの日々を平行して読みながら普遍的な男女のすれ違いと愛を描く、妙味溢れる会心作。

出会いの頃アダムは「長い髪をしたこの新しい生き物は、まったく邪魔だ」と思っているが、イヴは始まりから結構いい感じに受け取っていた。どんな人間関係でも起こる勘違いやすれ違いにクスッと笑えたり、身につまされたり。そんな心の機微を観察していくのも大きな面白みの要素だが、一番心惹かれたのは 「すべての始まり」 であるということ。地球上の全てに固有名詞はなく、共に暮らす生物の正体すらなにも分からない。自分が始まりの世界に放り込まれたらどうするだろうと考えながら読み進めるのもとても楽しい。

始まりの頃は知恵の実を食べる前の争いも恐怖もないエデンでの暮らしなので、今では危険な動物も誰かを襲うことなく全てが優しく調和している。その後エデンの園を追われて以降ふたりは男女となり、カインが生まれる。自らが出産をするイヴは子供の存在を本能として受け止めるが、アダムは突然現れた得体の知れない生物になぜイヴが執着しているのか意味が分からない。

分類することのできない気まぐれで煩わしいこの動物はある種のクマなのだろうとアダムが赤ちゃんの存在を結論づけた頃、アベルが生まれる。新しいやつと古いやつを較べてみると二つともが同じ種族らしいので一方を剥製にしてコレクションしようと思いイヴに怒られる姿は、生まれるまでの期間にすっかり母としての意識と準備が出来ていく母と、ある意味突然親となる父の本質的違いと問題の根っこが見えるよう。

しかし、逃げ出したいとすら思っていたアダムはいつしかイヴのことを大切に思うようになり、互いに助け合い、支えあいながら「死」までの時間を共に生きていく。この物語はマーク・トウェインの独白的部分もあり、愛する妻との出会いがトウェインを変え、彼女の死によってイヴの物語が生まれたという。

豊かな彼女の心に触れ、彼は愛を見出し、感謝の気持ちと共に自らの内側に生まれたエデンを見たのだろうか。「たとえどこであろうと、彼女のいたところ、そこがエデンだった」。

アダムとイヴに名前を借りた素敵なラブレターだった。

■ 漂流図書

アダムとイヴの日記▶️漂流図書

■王子と乞食 | マーク・トウェイン

マーク・トウェインは私にとってなぜか相性が悪かったようで、今までは途中でフェードアウトしてしまったり。

でもアダムとイヴで少しは仲良くなれたと思うので、積んでいるこの本も今こそ読み終えたい。

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