美しい街 | 尾形亀之助
■ ひとこと概要
絶望と優しさを両手に抱え、短い生涯の中生まれた言葉たちはカステーラのように明るい夜となり心を灯す。『太陽には魚のようにまぶたがない』_決して閉じることのない世界に、希望と絶望どちらを重ね合わせたのだろうか。
■ 感想
「美しい街」尾形亀之助(画)松本竣介(夏葉社)P171
ぽつりぽつりと零れる言葉たちからあっという間に情景が立ち昇り、余白に宿る静かな想いは、時に傷つき、時に柔らかに笑う亀之助の姿へと像を結んでいく。
『雨はいちんち眼鏡をかけて』
雨、夜、光、自然の中で世界を捉え直す亀之助は「特別な詩人」という形容がしっくりとくる言葉の発明家のよう。
DORADORA、TI-TATATAと降る雨は、ガラスに無数の花を咲かせ、夕暮れに降り注ぐ花火となり、大人の眠れない夜は暗くとも、子供の夜は明けるのが待ち遠しいお菓子のような軽やかさと輝きをもって描かれる。
絶望と優しさを両手に抱え、昼寝に置いて行かれた夢のあとさきを追いかけるように駆け抜けていった無頼派詩人の遺した言葉たちは、カステーラのように明るい夜となり心を灯す。
『太陽には魚のようにまぶたがない』決して閉じることのない世界に、亀之助は希望と絶望のどちらを重ね合わせたのだろうか。
■ 寄り道読書
「カステーラのような明るい夜」尾形亀之助(編)西尾勝彦(七月堂)
詩人・西尾勝彦の手で新しく編まれた亀之助の詩集。保光敏将さんの温かいカステーラが街を灯し、新たなる光となる。その上、装幀はクラフト・エヴィング商會。今年一年のご褒美と思える贅沢で幸せな1冊。