模範的指名手配犯
早いものでAbarthとの生活も1年である。
最初はどうなるかと思ったアバ郎との生活であったが、
今はすっかりと相棒なのだ。
ミスターセンクスがAbarthに乗っていることを知る人からは
ここ1年で10件以上の目撃情報があった。
これがまた、ことごとく外れているのである。
正確に言えば全然違うよというものから、
すごくニアピンで賞まで様々であり、
酷い場合はFiatとAbarthの見分けがついていない。
同じ形の車だから無理はないのだが。
一番近かったのは、
サルバドール・ヱビの目撃情報である。
モデル・色・595というナンバーまで全て同じである。
Abarthに乗っている人はナンバーを595にしがちである。
なぜかと言えば、Abarth595という車種だからである。
さすが私が見込んだ男である。
しかしそれは私ではない。
ナンバーの前についている
1文字のひらがなが違ったのである。
違いはそれだけだ。
目撃写真がLINEで送られてきたわけだが、
さすがのセンクスも盗難を疑うほどびびったのである。
ちなみにミスターセンクスは車を盗まれたことがある。
つまり車両盗難はトラウマである。
そんな中、先週ついに私を目撃した女性が現れた。
なんと素晴らしい能力と思った。
そこまで見てるなんてもしや、
ミスターセンクスのことを愛しているのかもしれないとも。
うっさい車が走ってきたなと思って不快な顔で見たら、
左側の運転席に忘れもしないモジャモジャが乗っていた。
だからわかったと言うのである。
それは反則である。
フェアではない。
Abarthに乗ったミスターセンクスが
銀行強盗に入ったとする。
銀行強盗の鉄則は目立たない格好と目立たない車である。
今まさにミスターセンクスはその逆を行っているわけである。
言うなれば優良指名手配版であり、
警察の方々のお手間を煩わせることはない。
Abarthの個性とミスターセンクスがコラボしたことで、
ありえないほどのブランドが生まれてしまったようである。
それでこそ相棒であり銀行強盗に最適なコンビである。
どうせなら銀行でお金を盗むよりも、
美女の心を盗みたい。
そんなルパンに憧れるセンクスであるが、
ルパンもアバルトに乗っていたのを考えると、
何か共通点があるのかもしれない。
とりあえずマッチ棒みたいな足になることを夢見ることにする。