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キャセイに憧れて。
「来月香港行ってきてね」
と、上司から言われた途端に目の前が真っ白になった。
え?
香港??
耳を疑ったけど、聞き間違えでも「やっぱりなしで」と言われるのも嫌だったから、
「はい!かしこまりました!!」
と元気よく返事をして自席に戻った。
ダラダラと脂汗が出てきて、冷房がガンガン効いたオフィスでどくどく早く打ち込みまくる心臓を押さえるべく冷たい水を一気に飲んだ。
それは、私の大きな夢が叶った瞬間だった。
そして、私の長年にわたる呪いが解けた瞬間でもあった。
私は2019年から2022年まで香港人の彼氏と国際遠距離恋愛をしていた。
彼との出会いは私に香港という素敵な世界を持ってきてくれた。
これまで中国大陸一色だった私の世界に、
香港という似ているようで全く違う世界の扉を開いて手を引いて連れて行ってくれた。
ただ、彼が私にしてくれたことはそれだけで、
当時本当にお馬鹿さんだった私は彼の日本人幻想に散々付き合わされ、
聞き分けの良い日本人女子を演じきっていて、
楽しい恋愛とは言い難かった。
「君にキャセイのチケットを用意してあげる」
「今度香港に来た時は五つ星ホテルに泊まろうね!」
と、言うことだけは気前がいいくせに、
いつだって土壇場で「忘れてたごめんね今回だけはよろしく」と言われてがっかりしていた。
いつだって時給1150円のアルバイトで死ぬ気で貯めたお金でhkexpressやpeachのチケットを買って、狭い狭いホテルを予約していた。
本当はキャセイにのりたかったし、五つ星ホテルにも泊まってみたかったけど。
今にして思えば当時の私は学生で彼は社会人だったからそれくらい出してくれても良かったんじゃないか?
なんて、思うほどに図々しく、順調におばちゃんになっていってる自分に若干苦笑いしちゃうんだけど。
まあ、当時の思いについてはこっちに供養したので、
まあ私の昔話に付き合ってくれる危篤な人がいたら読んでくれたら嬉しい。
とにかく。
彼と出会って1億個くらい悪いことあったけど、たった一つ良かったことは香港に出会えたこと。
2019年。
彼に会うために人生初めて香港に行った時その街の活気とカオスに一気に引き摺り込まれて大好きになった。
私の人生で中国と同じくらい夢中になれる程素晴らしいものに出会えたことだけは彼に感謝したい。
「香港の女は物質的で、気が強くて、ビジネスにばかり関心している。彼女たちはお金にしか興味がないんだ」
と彼は私によく言った。
それに続くように、
「それに比べて日本人の君はおとなしくて無欲でいいね」
とも。
でも、私は本当は。
中環の街をスマホに耳を当てて英語と中国語と広東語をくるくると使い分けて、PRADAのカバンにカルティエの時計を巻き付けた手首。アジアビジネスの心臓のビル街をjimmychooのピンヒールの音を鳴らしながら、我が物顔で疾走する香港の女の人にすごく憧れた。
香港の女は自由だ。
したたかに、軽やかに自分の明日と今日を計算して自分の足でまっすぐ歩く。
そんな彼女たちの姿を見たときから、私が恋していたのは彼ではなくて香港だったのだと気がついていたのに気付かないふりをしていた。
彼と別れた後も、香港が好きで。
香港と繋がりたくて、
LCCの安いチケットと、ドミトリーを組み合わせて休みを取っては香港に通った。
私が香港空港のLCCから降りてきた時、
香港空港ですれ違うキャセイパシフィックから降りてくるビジネスマンたちが羨ましかった。
ああ、いつか私も香港にやる事ができて、
香港に呼ばれる事ができたなら。
そしたら私も胸を張って、
自分の力で香港に来たって言えるのになあ。
だから、いつか仕事で香港に行くことは私に取って一つの夢であり、大事な大事な意味を持つことだったのだ。
香港の一人旅最後の夜にはいつも、
「次はいつ来れるかな」
と考えながらスターフェリーに揺られて何回も何回も往復してぼんやりと夜景を眺める。
この夜が終わらなければいいのにと願いながら。
でも、当たり前ながら朝は来るし。
帰りの飛行機に乗り込む時は、香港との何のつながりも持たない自分が少し虚しくて、
次できるだけ早く来れるように祈りながら搭乗していた。
でも、その時は突然訪れた。
突然の香港出張。
まだまだ、中国関連の仕事に関わり始めて日の浅い私は、今回の出張は完全に育成目的のありがたいことであり、先輩たちのお手伝い兼同行なのだけれども、
それでも。それでも本当に本当に嬉しかった。
2年前自分でこんなことを書いていた。
私はこれから私の力でやれるところまでやってみるしかない。
誰かの行動によって自分の人生がどうなるか、夢が叶うのか決まってしまうようにしてしまったことが過ちだったのだ。
それを今回の恋愛で学んだ。
どうすればいいのかまだなにもわからない。
でも、またゼロから積み上げていけばいい。
明日からも出勤して、仕事して。
少しずつ道を模索して、香港にたどり着く道を今度は自分の力で切り拓いて行くのだ。(中略)
いつか、自分の力で私は必ず香港へ。
その時までは死ぬ気でがんばる。
私は、よろめきながらだけど。
かろうじてだけど、
今、目の前の自分の人生の中で、
なんとか自分の力で香港に手が届きかけているのを感じている。
それが本当に自分の中では大事件で感動的なのだ。
チケットの手配のやり方や、
ホテルの手配のやり方を先輩たちに習いながら、
先輩が、「時間的に一番いいのはキャセイだからキャセイにしちゃおう」
と。軽く言った時、ちょっぴり泣きそうになってしまった。
昔私が泊まりたくて仕方がなかったホテルが、立地がいいからと予約しながら先輩は、
感極まってるから、泣かないように涙を堪えている私に
「大丈夫?具合でも悪いの?」
と、心配してくれたのはちょっと申し訳なかった。
香港に、行く。
遊びじゃなくてお仕事で。
うっかり浮かれて天にも登りそうな私だけど、
あくまでこれは始まりで、
これから先も香港や中国と繋がれるかは私の運と努力とひたむきさにかかっているから。
明日からも気を引き締めて頑張っていかなくちゃいけないよね。
こんなチャンスと機会をくれた周りにも感謝しかないし、
こういう自分の巡り合わせにも本当にありがたいと思っている。
そして、なによりも。
2年前彼と別れた後にも、
未練がましく香港を夢見続けてきた諦めの悪い自分を少しだけ褒めてあげたい。
もっともっと前に進みたい。
最近やっと自分の人生の車輪が動き出している気がする。
だからこそ、夜明け前のこの瞬間のことを書き残しておきたかったのだ。