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石仮面の女とふんわりお嬢様 ―宮脇明子『金と銀のカノン』―

 私は子供の頃から少女漫画よりも少年漫画の方を好んで読んでいた。成人してからは、青年漫画を好んで読んでいた。なぜなら、私は少女漫画の「甘ったるい」イメージが苦手だからである。悪い意味で現実離れしているのが、私は苦手だ。しかし、亜月裕氏の『伊賀のカバ丸』並びに『あかぬけ一番!』は、男性主人公たちが良い意味で現実味があるので良かった。
 それはさておき、私は今どきの少女漫画についてはよく知らない。

 はてな匿名ダイアリーに、次のような記事があった。
《少年漫画にも対抗できる篠原千絵先生や武内直子先生、CLAMP先生、松本夏実先生、種村有菜先生などなど多くの大作家を生み出したはずの少女漫画業界は、その多くは過激なエロを混ぜることしかできなくなり、そして過激なエロを混ぜなければ売れなくなってしまったんだ》
 多分、いわゆる「ホスト狂い」や「パパ活」の流行の一因として、少女漫画界の「劣化」がある。過激な性描写を盛り込んだ恋愛至上主義のゴリ押しによって、一部の女性たちは「ホスト狂い」になったり、「ロマンス詐欺」の被害に遭ったりするのだろう。少女漫画以外にも、もちろん悪影響の種は掃いて捨てるほどある。薄汚い「オム・ファタール」とは、資本主義やマスメディアが生み出した妖怪であり、女性たちを「恋愛資本主義」で洗脳して、性的にも経済的にも搾取するものである。

 昔の少女漫画の名作は、恋愛をメインテーマにしていないものが多い。もし仮に『ローゼンメイデン』や『宝石の国』が前世紀の漫画だったら、青年漫画ではなく少女漫画として売り出されていただろう。そして、今どきの漫画好きの女性たちの多くは、少女漫画界に見切りをつけて、少年漫画や青年漫画を読むのだ。私だって、恋愛資本主義的な少女漫画よりも『シンデレラグレイ』のような青年漫画の方が好きだもんな。

 宮脇明子氏の漫画『金と銀のカノン』(集英社文庫)は、1984年に週刊セブンティーンで連載されていたサスペンス漫画である。この漫画は、荒木飛呂彦氏の『ジョジョの奇妙な冒険』第一部のディオ・ブランドーと似たような境遇のヒロイン樋口真澄が、ピアニストを目指して、上級国民一家に取り入り、ジョナサン・ジョースターに相当する立場のもう一人のヒロイン弾正容子に近づき、陥れようとする物語である。
 とは言え、この漫画自体は『ジョジョ』(第一部は1986年から)よりも昔の漫画であり、「女ジョナサン」容子は良くも悪くも昔の少女漫画のヒロインらしいキャラクターだ。私はこの漫画を実写化するなら、若い頃の柴咲コウ氏はダークヒロイン真澄の役がピッタリだっただろうと思っていたが、今はもう女子高生の役を演じられる年齢ではないのね。それが漫画や小説の実写化の難しさだ。桐野夏生氏の小説『グロテスク』のヒロインの一人〈和恵〉ならば、寺島しのぶ氏が演じるのが適任だと思うのだが、こちらも年齢的に難しいだろう。
 前述の通り、この漫画の内容は女性版ディオ・ブランドーとジョナサン・ジョースターの対決だが、この漫画は『ジョジョの奇妙な冒険』よりも昔の作品である。個人的には、「ジョナサン」容子のキャラクターは、1980年代前半であっても古臭い「少女漫画のヒロイン」然としており、見ていて苛つく。今どき健常者の範囲に収まる知能の女性キャラクターを「純粋無垢」な性格として描くのは現実味がないもんね。再階層化した現在の日本社会(2020年代)を舞台にしたリメイク版を読みたい。もちろん、ヒロイン二人の性格をもっと現実味のある(そして、もっと互いに近しい)性格に変えた上でだ。

【Dalbello - Whore】

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