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【掌編】つくる【散文詩】

季節は、人がつくっているんだよ。
あと10日でクリスマスを迎えようという頃、街中のイルミネーションに見とれるわたしに向かって、あなたは不意にそう言った。わたしは、昨日家の庭で見たコブシの木がもう花芽をつけていたことをあなたに話したばかりだったので、その言葉に首を傾げた。
ほら、通りの向こうの百貨店の売り場は、10月31日までハロウィーン。その翌日からクリスマスだ。10日後にクリスマスが終われば、その翌日から年末年始、その後はすぐ節分。冬物が売り尽くされれば春だよ。僕たちが自然の動きを知るよりも早く、季節は、人が作ったもので動かされてしまうんだ。

鬱陶しく思っていた四季の巡りは、人がつくったものだと知ってから、心地の良いものになった。温度があるから、冬はあたたかい。隣で見るから、冬はうつくしい。そうやって、あなたはわたしの冬になった。
十二月に馴染みの花屋でポインセチアの鉢を買うことも、迷いながらケーキを予約しに行くことも、横顔を浮かべながら贈り物を選ぶことも、すべて冬だった。季節は人がつくっているんだよ。何度目かのクリスマス、あなたは白銀色の指輪を贈ってくれた。指輪の色こそ、冬そのものだった。

あなたが不意に季節に溶け消えた後も、冬はあなたで出来ているままだ。どれほど寂しく寒くなろうとも、あなたがつくってくれた季節を辿れば、あたたかく、うつくしい。来年は何回忌か、もうわからない。ポインセチアを買って、写真の横に飾る。今も指に残されたままの指輪が、街中のイルミネーションを反射してひかる。
メリークリスマス。かみさまのように、復活したり、生まれ変わったりしておいで。また出会えたら、わたしがあなたに、季節は何でできているのか教えよう。そしてあなたにつくろう、命尽きても消えない記憶を。寂しさや寒さを抱えたままでもなお、あたたかくうつくしい、あなたの冬を。

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今年もあっという間に過ぎて、あと10日となりました。街もきれいですし、クリスマスは大人になってもワクワクしますね。
今回は、森野きのこさんの素敵な企画、クリスマスアドベントカレンダーに参加させていただきました。ありがとうございます。
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雪柳 あうこ
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