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【掌編】星屑傘【散文詩】

星が降る予報が出ていた。わたしは星屑傘を先日壊してしまったばかりだったので、今日は家に一日籠っていた。お気に入りの星屑傘だったのだけれども、少し大きな星の欠片を受け止めた時に、破けてしまったのだ。
ここ数年、気候変動によって星が降る日が増えている。星の降る昼間は、太陽に透かした埃のきらめきを強くしたように、大気のあちこちがちらちらと明滅する。晴れた夜は、光の尾を引いて色とりどりの星が降る素晴らしい天体ショーになる。降る星は、微粒子サイズから親指の爪くらいまでの大きさのものが多く、傘なしにはやはり出かけられない。
手元のデバイスに手を滑らせる。ぴこん。星屑傘をお探しですか。○○社の星屑傘は分厚く弾力のある不透明素材で出来ており、耐久性に優れています。いかがですか。……気乗りしなくて画面を閉じる。

外に出られないわたしはベランダに降り込んだ星を集めて、瓶に閉じ込めてみる。夜、星明かりの瓶を枕元に置いて、ほんのりと発光する瓶底で青と緑の光が小さな星雲を作るのを、眠くなるまで眺め続けた。
星の光を透かす瓶を見ながら、もう一度手元のデバイスに指を滑らせ、おすすめとは別の新品の傘を選んで注文した。ぴこん。ご注文ありがとうございます。やっぱり星屑傘は、強度が足りなくても、降ってくるのを内側から見上げることができる透明なものがいい。何度破けても、星の美しさを間近で直視できる喜びには代えがたい。瓶の中、青と緑の星雲はぐるぐると渦を巻く。

傘を買い終えると、急速に眠気が襲ってきた。今夜の星は少し強く降ると予報が出ていた通り、窓の向こうからからみぞれのような音がし始める。
朝になれば、熱と光を失った星屑は、大量の不燃ゴミとして処理される。明日は星屑当番だから、大きな箒とシャベルで専用の袋にまとめたら、収集に間に合うようにごみ集積所へ持っていかなくてはならない。
……そういえば部屋の隅に、破けた透明な星屑傘がいくつも溜まっている。青と緑の渦巻く瓶の中の星雲も、明け方には干乾びた礫。星は好きだけれども、それでもやっぱり明朝までには止むといい。ぴこん。星屑傘は明日配送です。

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♯シロクマ文芸部 の「星が降る」というお題で書かせていただきました。素敵なお題をありがとうございました。
そういえば今更ですが、今年初noteです。今年もマイペースに楽しんで更新していけたらと思います。のんびりとつとつと、よろしくお願いいたします。


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雪柳 あうこ
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