見出し画像

8年半かけてうつ病を克服した話 - 克服、そしてこれからの話 -

前回、うつ病を発症する以前の私の心理的な傾向、またうつ病を発症するまでの経緯について書かせていただきました。

今回はうつ病をどうやって克服したのか、そしてこれからについて書いていきたいと思います。

憧れと現実

上京してから二日目、目が覚めると驚きました。

体を動かしたくても、体が鉛のように重たく動かせなかったのです。

まるで着衣のまま、暗く深い夜の海に投げ出されたような。

一人暮らしの生活が始まったんだから、家事やらないと...。

自分の思考とは裏腹に体が全く言うことを聞いてくれませんでした。

それからの三日間は、トイレと水を飲むこと以外何もできず、ずっとベットで横たわっているだけで時間が過ぎていきました。

それが私の東京での生活の始まりでした。

認められない

ベットに横たわるだけの日々を過ごすうちに、とてつもなく重たくなった体を引きずり、徐々に立ち上がって行動できるようになりました。日中に外出できるようにもなってきました。

久々に外に出た時の目眩がするほどの異常な日光の眩しさは今でも忘れることができません。

それから重い体を引きずり、大学に通う日々が始まりました。

正直、この時点で「うつ病」という言葉が何度も脳裏を過ぎっていたと思います。

しかし、私はそんな精神病を発症するような弱い人間ではないと思い込みたかったのです。

わがままを言ってせっかく上京させてもらったのに家族に申し訳ない。
自分がこんな状況だと家族に知られたくない。

情けなくて恥ずかしい自分を認めたくない。

「自分はうつ病なのでは」という思考がちらついても、このころは、メンタルクリニックに行く決断ができませんでした。

向き合う覚悟

最初はこの得体の知れない体の不調は、時間が経てば勝手に治っていくんだろうと考えていました。

不安焦燥感が頭を占領し、満足に眠ることさえもできかったのに。

就職活動が始まるまでには治っているだろうと。

しかし、一週間、一ヶ月、半年と時間が経っても症状は改善しませんでした。

四六時中頭を駆け巡る言語化できない不安動悸

大好きだったはずの漫画も読めなくなるほどの読解力集中力の低下。

異常なまでの自己肯定感の欠如無気力感。

一年を過ぎたころ、さすがに焦りを覚え始めました。

そして、鈍くなった思考を振り絞り、私は二つの決意をします。

絶対にこの得体の知れない不調を誰にも知られず改善させる。

- 絶対に死にたいと思わない。どうすれば改善できるのかを探し続ける。

絶対に死にたいと思わないと決めたことは、当時の自分の自尊心を保つ上でとても大切な役割を果たしてくれました。

こんなぼろぼろでも死にたいと思わない自分はすごいなと言い聞かせ続けることができたからです。

現状を改善するために、私がまずやったことは自分の過去を遡り不調の原因と向き合うことでした。

私の一番古い記憶

- 母が兄の手を引き、幼稚園バスのバス停に連れて行く姿をアパートのベランダから眺めている記憶 -

から始まり現在に至るまで、
何を経験し、何を感じ、どういう思考が形成されたのかを事細かに思い出し、ノートに書き綴りました。

ささやかながら生きてきた自分の軌跡を振り返り、少しずつでも自分を認めようとしました。

思い出すと嫉妬や羞恥心で逃げ出したくなるような情けない記憶も、私の地盤になってくれると信じ向き合いました。

そして、自分の思考の傾きについても見つめ直しました。

世の中で正義か悪か、白か黒か簡単に判断できる物事はとても少ないです。白と黒の間にはグレーゾーンが存在します。

ですが、当時の私はグレーゾーンのかなり広い領域を黒と判断してしまっていました。

- 品行方正に、清く正しく、堂々と明るく、嘘偽りなく立派に。

そう生きることは理想的なのかもしれないですが、高すぎる理想は自分で自分の首を絞めてしまう瞬間が来てしまいます。

苦手なことや弱みを持っていない。失敗をしたことがない。迷惑をかけたことがない。期待を裏切ったことがない。
そんな人は存在しないと思います。

こうあるべきだと定着してしまった思考を緩和させることはとても時間がかかりましたが、一つ一つ丁寧に、自分の思考は傾き過ぎていないか確認し、自分を許すことに挑戦しました。

また、このころから書店に入り浸るようになりました。

書店の雰囲気が自分を落ち着かせくれる空間であったのと、本が現状を乗り越えていくヒントを教えてくれる気がしたのです。

エナジードリンクではなく休息を

いつものように書店で本を眺めていると、あるコーナーで足がとまりました。

それは自己啓発書コーナーでした。

そこに並べられていた本には、社会で成功するための考え方や、落ち込んだ時に乗り越えていくための力強い言葉がたくさん並べられていました。

いまの自分に必要なのはこれだ!と何冊も買い漁り、夢中で読み続けました。

しかし、この出会いはうつ病の症状を回復するという観点では、遠回りの選択となってしまいます。

冷静になったいまだからわかりますが、自己啓発書とはエナジードリンクのようなものなのです。

これから頑張っていきたいというエネルギーに溢れている人が、もう一歩踏ん張りたい時に読むような本なのです。

私は自己啓発書のメッセージを「早く立ち直らねば、もっと頑張らなければ」と解釈してしまい、余裕のない心に余計な焦りを生み出すことになってしまいました。

自己啓発書に書かれている成功体験のエビデンスはあくまで作者一人のみです。
成功者から思考を学ぼうとする姿勢は素晴らしいと思いますが、その思考の汎用性が低く、自分に合わない可能性もあります。

うつ病を発症した人に必要なのは、頑張ることではありません。
必要なのは十分な休息です。
しっかりご飯を食べて、運動して、ぐっすり眠ることなのです。

自己啓発書そのものを否定している訳ではありません。ただ人生で読むことを避けておいたほうが良い時期もあるということです。

メンタルクリニックへ

症状は大きく回復することのないまま、就職活動を開始する時期に差しかかりました。

相変わらず、頭の中は不安焦燥感でいっぱいでした。

自分なんかが社会に出て、人の役に立つことができるのか。

自分の価値を疑い続ける日々を繰り返すうちに、約一ヶ月間、一睡もできないようになってしまいました。

さすがにこの状態では就職活動を乗り切れないと思い、本当に嫌でしたがメンタルクリニックを受診することを決めました。

そこで先生からうつ病を発症していたこと、それにより睡眠障害になっていること、自律神経失調症を併発していたことを併発していたことを教えられました。

この時初めてうつ病だと知らされたのですが、自分で強く実感していたため特に驚きはありませんでした。

そして、就職活動を乗り切るためだけの最小限の睡眠導入剤を処方してもらいました。

就職

メンタルクリニックに通い始めてから、短いながらなんとか睡眠を取れるようになっていました。

そして、就職活動が始まりました。

メディアに関わる仕事がしたくて上京させてもらったこと。大学に入って書店という存在に支えられたことから、出版社一本に絞って就職活動をしていました。

しかし、あと一歩というところまで進んだ選考もありましたが、出版社の狭き門をくぐり抜けることはできませんでした。

しばらくは落ち込んでいましたが、出版社の就職活動を通して、出版業界は出版不況で、打開策としてデジタル部門に力を入れていることを知りました。

そこで、最終的に出版業界に貢献できる人材になれるならと IT 業界に進むことを決め、歴史のある IT 企業から内定をもらうことができました。

社会人生活

IT 業界で働き始めた当初、ほとんど未経験だったことと、うつ病により思考力が鈍っている状況で本当にやっていけるのか不安でした。

加えて新卒で入った企業は、いわゆる古き良き日本企業でした。

それゆえ、新入社員に求められていたキャラクターは「明るく素直でタフであること。愛想良く振る舞い、上司を上手にたてることができる。」といったもので、すり減った精神で毎日そのキャラクターを演じなければならないことが重圧になっていました。

またどういう不運か、私の上司は、平成も終ろうかという時代にとても珍しいパワハラ気質が非常に強い人でした。

社会人になってからも新たな人間関係の悩みに苛まれることになります。

ただ、朝早く決まった時間に起きて、決まった時間に就寝するという社会人の規則正しい生活はうつ病を改善するきっかけを与えてくれました。

また、両親に頼らず社会で自立できているという感覚が低くなっていた自尊心を少しずつ修復していきました。

日に日に思考力が戻っていくことを体感していました。

そこで私は、ある程度うつ病の症状が改善したタイミングで、早々に転職を決めてしまいました。

次の職場では、自由に働かせてもらうことができとても感謝していましたが、新たな環境で自己研鑽したいと思うようになり二回目の転職をしました。

三つ目の職場はさらに輪をかけて自由な職場でした。いろんな価値観を持って働くことが許され、結果さえ出せばやり方は問わないという社風がありました。

そんな環境の中で、私は自己肯定感をゆっくりと再構築することができ、常に頭に渦巻いていた得体の知れない不安や焦燥感は少しずつ姿を消していきました。

マインドフルネスとの出会い

社会人一年目のある日、うつ症状からの回復を加速してくれる本と出会いました。

それはマインドフルネスについて書かれていた本でした。

マインドフルネスとは呼吸感覚に注意を向けることで「いま、ここ」に意識を向けるトレーニング。またはそのような状態のことを言います。

常に過去への後悔未来への不安で反芻していた私の思考は、マインドフルネスにより徐々にコントロールすることができるようになりました。

マインドフルネスはいまも私の習慣となっています。


うつ病と向き合っていた8年半という時間を振り返ってみると、

必ず現状を改善させると覚悟したこと。

自分の弱み不安をノートに綴り向き合い続けたこと。

決まった時間に寝て、決まった時間に起きるという規則正しい生活が定着したこと。

自然体に近い状態で働ける環境に身を置けたこと。

自分の居場所を実感し、自尊心を高めたこと。

マインドフルネスで暴走していた思考の流れをある程度コントロールできるようになったこと。

症状は必ず改善するはずだと信じ、情報収集し続けたこと。

これらの要素が重なり合い、十分に時間をかけながら実践できたことでうつ病を克服できたのだと思います。

うつ病を克服したことは特別なことなのか

うつ病を克服した当初、こんな辛い体験を乗り越えたのだから特別な人になったような気がしていた時期がありました。

いまになって思いますが、私は、うつ病を克服したという経験自体は何も特別なことではないと思っています。

それは、特別という言葉には他人との比較という要素が混じっているような気がするからです。

うつ病を克服したことが特別だと言うのなら、人はうつ病を発症する前も、発症している間もずっと特別なのです。

そして、うつ病を経験したことがないこと人も同じように特別なのです。

不幸自慢で注目を浴びようとするのはなく、自分の人生を受け入れ、他人の人生も尊重する。

そういう心境に辿り着けた時に、本当の意味でうつ病の経験を昇華し克服できたと言えるのではないでしょうか。

上京したばかりの自分に会えるとしたら

うつ病を克服した後もうつ病について調べ続け、どういう病気なのかできる限り理解しようと努めました。

うつ病とはストレスにより神経伝達物質(セロトニン)が欠乏し、体に様々な不調をきたす病。

ストレスで思考が暴走することにより、脳が炎症を起こしている状態なんだと思います。
体のあらゆる器官は酷使し続けると壊れてしまいます。脳も例外ではないということです。

そして、うつ病を経験してみて、そのストレスの原因は次の二つだとわかりました。

自分の存在価値を疑うこと。または、存在価値がないと思い込むこと。

強烈な孤独感。

上京したころ、私はどん底にいました。

いま当時の自分に会えるのであればこのように告げると思います。

- 早めに就寝して早めに起きた方がいいよ。朝起きたら30分以内に外に出て、朝日を浴びながら散歩するといいよ。

- 生活に運動を取り入れるといいよ。

- 腕の良い鍼灸師の先生に診てもらって首、肩、背中の凝りをとってもらうといいよ。

- マインドフルネスをやってみるといいよ。ネガティブな反芻思考から抜け出せないときは、いま見えるもの、触れているもの、聞こえてくる音に意識を傾けると落ち着けるよ。

- 最近は依存性の低い薬もあるよ。早めにメンタルクリニックに行って診察してもらった方がいいよ。

あなたにはちゃんと価値がある。そこにいていいよ。焦らなくていいよ。

そしてこれから

精神が底を打ち、どん底で自分の弱さと向き合えたという点では、うつ病の経験はとても良い経験だったなといまでは思えます。

何度もうつ病を克服したと表現してしまいましたが、正確に言うと「寛解」で、自分のメンタルケアはこれからも気をつけてやっていかなければならないと常々思っています。

前回の記事で私は HSP ( Highly Sensitive Person ) だと書きました。ですが、この事実に気付いたのは本当に最近です。

自分の思い悩みやすい性格や繊細さなど、いままでずっと抱えていたいくつもの疑問の答えが次々に明らかになり、
ああ、単純に生まれつきそういう気質なんだなと受け入れることができました。

HSP は、自分の人生について深く考える傾向が強いそうです。

私もそうでした。

なぜ生きるのか。なんのために生きるのか。

自分が HSP だと受け入れた時、一つの人生の指針ができました。

- 心を奮わせるために生きる。

繊細で刺激を受けやすいからこそ、素晴らしい体験で心を奮わせることができるのです。

綺麗な風景を観た時。美しい音楽を聴いた時。感動的な物語に出会えた時。世界の真理を知った時。人々が生み出した叡智に触れた時。

うつ病により、心が空っぽになる経験ができたからこそ、心を感動で満たす大切さを知ることができたのだと思います。


長々と書いてきましたが、以上が私の8年半かけてうつ病を克服した話になります。

最後まで読んでくださり、本当にありがとうございました。

最初にも書きましたが、私の経験から何か少しでも新たな知見を提供できたのであれば幸いです。

いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集