ガッツとしたたかさを武器に、この逆境を乗り越えろ『ザ・スーサイド・スクワッド“極”悪党、集結』レビュー

デルタ株の猛威もののかはといわんばかり、『ザ・スーサイド・スクワッド』が満を辞して公開された。コロナ禍は収束どころか感染拡大の一途を辿る美しき国ニッポン。手をこまねいているうちにいよいよ未曾有の被害が出るかもしれないところまできてしまった。しかしである。たとえ行政がこの体たらくでも、我々市民は諦めてはいけない。デマや楽観論に惑わされることなく、今できる最善の手段を選択し、我が身を守らなければならない。そんな訳で、どんなにみじめでもみっともなくとも絶対に生き延びてやる、というリキを入れたいそこのアナタ。そんなアナタにとって本作の鑑賞は、大変素晴らしい映画体験となることをお約束しましょう。

前作、というかデイビット・エアー監督バージョンのスースクはさまざまな意味で消化不良な結果に終わった。そもそも「特攻部隊」なのに全然特攻してねーじゃねーか(一部のキャラは自爆とかしてたけど)、と見終わったあとの私の(心の)叫びがガン監督に届いたのかもしれない。寄せ集めの有象無象の悪党たちは、映画開始10分ていどで壮絶な討ち死に遂げていく。

この記念すべき映画のアバンタイトルを飾るのは、独裁政権が牛耳る島国への夜間上陸作戦。が、その実態は無能なトップが指揮する行き当たりばったり。まさしく火の玉特攻、玉砕なのだった。同監督のヒーローものの原点『スーパー!』で見せてくれたゴア表現は、嬉しいことに本作でグレードアップしてお披露目。誰がどう殺されるかは見てからのお楽しみということでここでは詳細は伏せるが、その手の好事家が鑑賞しても驚き桃の木の出来に仕上がっている。

それ以外にもあまり倫理的に宜しくないもの、口にするのも憚れるほど馬鹿馬鹿しいものが、まるで作り手の悪ふざけのように頻出するので油断がならない。その質たるや、金曜ロードショーだとか、夏休み特別企画といった地上波では到底流せるシロモノではない。お茶の間で流れたら家庭が崩壊するぞ。

さて、ジェームス・ガン監督といえば『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』シリーズでも知られる。ということで本作でも独特なお笑いセンスは遺憾無く炸裂。たとえば、島に半死半生の風体で乗り込んだチームが、協力者として途中でピックアップするトラックの運ちゃんがいる。この太っちょの冴えない兄ちゃんがいつの間にかスーサイドスクワッド面してチームと闊歩するシーンは劇場でお腹が痛くなるほど笑わせてもらった。よりにもよってこんなどうでもいいシーンで、してやられたぜガン監督。

ところで映画を観ていて、ふと思ったことがある。どうしてスーパーマンやバットマンは、この事件を解決してくれないのだろう。とくにDCエクステンデットユニバースのスーパーマンときたら神の如く強いのに。どうしてそっちに頼まないのか?

それは映画の終盤で明らかになるのだが、今回のヤマはスーパーマンの如き純粋な善人には務まらないのだ。それほど汚れた仕事なのである。

そりゃ具体的にどんなお仕事なんだい、と思われるだろう。ネタバレ回避でいえばこうだ。お国のお偉いさんの悪事が表沙汰になろうとしていた。国家機密に関わることなんで、その黒歴史の証拠を隠滅抹消し、国がしでかした犯罪を無かったことにする。そのためにスーサイド・スクワッドが派兵されたという訳だ。要するに自国の尻拭いである。そんなカスみたいな仕事、プライドの高いスーパーマンさんはじめジャスティス・リーグの面々が引き受ける訳がなかろう。ヒーローの名に傷がつくというものである。

ジェームス・ガンの輝かしいフィルモグラフィーに共通するのは、なにもエログロやブラックジョークだけではない。彼が偏愛するキャラクターときたらどいつもこいつも変わり者、社会のはみ出し者、ならず者である。そして、そんな彼らが、誰にもやりたがらない難しくて汚れた仕事を押し付けられる。それに見合った報酬がある訳でもないのに、ましてそれに従う義務などないはずなのに、彼らはがっぷり四つで困難と戦うのだ。何故なら彼らは彼らなりの通すべき筋や仁義、美学を持っているからだ。そこにヒロイズムが立ち上がり、だからこそ人々は感動する。これこそガン映画の魅力なのだ。

それでして映画がちっとも湿っぽくならない。新スースクから溢れ出すのは、センチメンタルな感情などではない。寧ろ途方もない「ガッツ」。そして特に私が心打たれたのは、どんな絶望的な状況でもしぶとく生き残ろうとする「したたかさ」なのである。

どんな逆境だろうと、怪獣相手だろうと、彼らを特攻要因として使い捨てようとする自国の政府相手だろうと、本作の愛すべき悪党どもは知恵と勇気を武器に立ち回るのである。それを裏付けるかのように繰り返し描写されるのは、ちっぽけで弱いものが、大きくて強いものを打ち倒そうとするモチーフだ。冒頭の小鳥のささやかな復讐、ぶち当たる小口径と大口径の弾丸、そして都市のドブネズミたち。政府に命を握られている悪党たちもまた、実は小さな弱い存在でもあるのだ。

そんな「小さな」ハーレイクイーンが巨大な化け物相手に体一つでとんでもない大立ち回りを演じる訳だ。いやいや絶対勝てっこないよ!と誰もが思うその次の瞬間、そこで拍手喝采が湧き上がってもおかしくないほどの高揚感で劇場は満たされた。これにてスースクは今季優勝、文句なしの傑作となったのである。その後の顛末も見事。

そういえば現在進行形で、無能なトップの尻拭いを我々は身をもってさせられている。私たちはカネの力でモノを言わす大富豪バットマンでもないし、ましてや絶対的な力を持つスーパーマンでもないし、なれない。そういう意味では我々市民だって、トップから無理難題を押し付けられた挙句、それでも経済や社会を回すことを使命としているスーサイドスクワッドなのである。だからこそこの映画はこの状況下で我々が取るべき態度、戦い方を示してくれる。愛すべきこの悪党どもを見習い、ガッツとしたたかさを武器に、絶望的なこの状況をなんとか乗り切っていきたいものだ。観ていてそのように感じた次第である。あとエンドロールは最後まで見るように。

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