変えてはならないもの~伝統と妥協と革新と~
日経電子版の記事【天丼てんや、ご飯「お替わり自由」復活のなぜ】は、守ってきた伝統、アイデンティティーに直結するモノ・サービスを変えることのリスクについて考えさせてくれます。
まず、記事から、天丼チェーン「てんや」の事例を整理してみると――
▶「てんや」の変遷
(1)「てんや」のアイデンティティー=日本の伝統食「天ぷら」の大衆化
①「定食のご飯お替わり自由」
②「天丼の値段がワンコイン」
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(2)経営環境の変化
①人手不足⇨人件費上昇
②東南アジアの養殖エビが病気で減る⇨需給がタイトに
③米価上昇
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(3)アイデンティティーに関わる苦渋の決断(18年1月)
①主力メニュー「天丼」の価格を税込み500円⇨540円
②「定食のご飯お替わり自由」⇨「追加料金なしで大盛り」
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(4)顧客の厳しい反応
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(5)オペレーションコストの圧縮努力
①ご飯を自動で盛りつける機械
②職人技を機械で再現するオートフライヤー
③自動券売機
④セルフサービスの導入
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(6)「定食のご飯お替わり自由」を復活(19年4月)
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(7)客数増加策を最優先
この事例から浮かび上がってくるのは、一般論として、自社のモノ・サービスの伝統、アイデンティティーに直結する部分に変更を加える、特に悪化する方向で変更を加えることは、顧客体験価値を著しく毀損し、顧客離れを招くという厳しい現実です。
経営環境の変化など、どんな理由があるにせよ、顧客の立場からすれば、サービス=その店で得られる体験の質が落ちることは、『伝統』からの『妥協』と映ってしまうリスクがある、と考えられます。