おいしいと感じるメカニズム。食文化の一致とダシが秘訣
「あっ、これいけるかもしれへん」
クアラルンプールに住みはじめて、半年が経った頃、ようやく口に合うものを見つけて、嬉しかった。
苦痛だったランチの時間から解放された瞬間だった。
マレーシアの甘くて、こってりした食事がどうも苦手だった。日本人はたいてい好きなバクテー(角煮みたいな)も、甘くて漢方くさくて、おいしいとは思わなかった。
しかし、ひとつ口に合うものがみつかると、不思議なことに、ひとつふたつ食べられるものが増えてくる。
タイに住んでいた時も、おなじようなプロセスで、タイ料理がどんどん食べられるようになってきた。今では、毎食でも食べられるくらい体に馴染んでいる。
もちろん、それは、慣れもあるだろう。しかし、おいしいと感じる理由には、ちゃんとしたメカニズムがあるらしい、ということを後日知った。
京都大学の伏木亨教授という方をご存知だろうか。伏木さんは、おいしさのメカニズムについて研究されている。
「おいしいを決める5つの要素」という伏木教授の記事をよんで、なぜ急にマレー料理がおいしく感じるようになったのか、その理由があきらかになった。
はじめておいしいと感じたもの
テンションのあがらないランチタイム。
オフィスの近くにあるホーカーズ(フードコート)で、食べられそうなものを探していた。
いつもの炒飯屋台は、閉まっていたので、仕方なしに隣りの麺屋台でカリーミーなるものを注文した。
「あっ、これはいけるかもしれへん」
ひとくち食べた瞬間、ひさびさにおいしいという感覚が身体を突き抜けた。
その日から、その麺屋台のあらゆるメニューを片っ端から試してみた。おいしいと感じるものもあれば、そうでないものもあった。
おいしいメニューには、いくつかの共通点があった。
それは、後述する伏木教授の研究結果とぴったりあてはまる。
おいしさを感じる理由は、全部で5つあるらしい。今回は、これだなっと思った2つを紹介したい。
おいしい理由①食文化の一致
ひとつめは、食文化の一致だそう。
言葉にすると当たり前では?と思うかもしれないが、この文章を読んで、カリーミーがなぜおいしく感じたのか腹落ちした。
カレーうどんの共通点
わたしがおいしい!と唸ったカリーミー。カレーベースのスープでいただくクイッティアオ(米麺)だ。
具材を見てみると、魚の練物、湯葉や豆腐を揚げたもの、あとは、モヤシが入っている。
ん?これは、カレーうどんそのものではないか。
カリーミーの具材である魚の練物は、カマボコだし、湯葉や豆腐を揚げたのは、油揚げそのものだ。
それに、カリーミーのダシは、魚介ベース。これまた、鰹ダシとの共通点がある。
わたしが慣れ親しんだ日本のカレーうどんと、マレーシアのカリーミーは、重なることが多く、伏木教授のいう味覚の範囲内におさまったのかもしれない。
タイのカオソーイとの共通点
もうひとつ、わたしの慣れ親しんだ食べ物との共通点がある。それは、タイのチェンマイ名物であるカオソーイである。
わたしが、チェンマイ大学に留学していた頃にハマった食べ物である。バンコク在住中も、しばし口にしていた。
こちらも、カレーベースのスープ麺である。そのカレースープには、ココナッツミルクがふんだんにつかわれている。それが、カリーミーとの共通点だ。
日本のカレーうどん、タイのカオソーイこの慣れ親しんだ2つの味覚が、カリーミーと重なり、味覚の許容範囲にあったのだ。
おいしい理由のひとつは、カリーミーの味が、わたしの味覚の許容範囲内だったということだ。
おいしい理由②油と砂糖とダシ
2つ目は、油と砂糖とダシだそう。
この3つは、病みつきになるらしい。
カリーミーはまさに、油と砂糖とダシの組み合わせである。
とくに、ダシ文化関西で育ってきたわたしにとってダシは、めちゃくちゃ重要だ。
海外で暮らすようになって、いちばん枯渇しているのがダシである。
ほんだしのパックをお湯にといて飲んでしまいたくなるほど、普段の生活では、ダシを口にすることがない。
なぜ、ダシがおいしいと感じるか。油や砂糖、ダシを口にするとβエンドルフィンやドーパミンという脳内物質が放出され、脳が刺激される。
その「脳の快感」が「おいしい」と感じさせている。これはドラッグと同じメカニズムでもある。
そして、このカリーミーは、魚介ベースのダシがつかわれている。クイッティアオの多くは、鶏か豚のスープだが、カリーミーはダシなのだ。
鰹ダシとはいわないまでも、魚介ダシの存在が、おいしいと感じさせるもうひとつの理由だ。
食べられるものが増えるよろこび
伏木教授のお話しを読んで以降、日本やタイでなれしたしんだ食事と類似するもの、つまり味覚の許容範囲内にあるものを探しまくった。
なぜはじめからそうしなかったのか、という疑問はあるが、体験してみないとわからない。
ナシ•ククスは、CoCo壱の唐揚げカレーぽいし、プラウンミーはエビダシのラーメンぽい、オイスターと卵の炒めものは、広島焼きぽいということを発見した。
日本やタイのごはんに重ねてゆく作業をつづけていくと、マレー料理も、おいしくいただけるものは以外と多いことに気づく。
ひとつ食べられると、またひとつ食べられるようになる。それは、まるで、赤ちゃんが歳を重ねるごとに、味覚の幅が広がり、そして、世界がひろがってゆくように。
味覚の許容範囲がかさなるものを探しつつ、許容範囲をひろげてゆく。そうすれば、きっとどんな場所でもおいしいものを見つけることができるはず。
おいしいものを見つけた時のよろこび。
それは、生活する上で、なにものにもかえがたい。
参考にさせていただいた伏木教授のお話「おいしいを決める5つの要素」はこちらです。うれしい発見となりました。ありがとうございます。