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顧客接点強化:"強化"による成果を時間軸で定義する (Vol.2)

前稿において"顧客"と"接点"から読み解いて、そもそものなすべきこと、ならびにその対象を整理してきました。では、それを踏まえた時に、顧客接点を"強化"していくとはどういうことなのでしょうか。
何かが変化する時、そこには量的・質的という側面があり、それらは時間軸に沿って異なる内容に転じます。強化するということも変化の一つと捉え、時間軸と量的・質的という観点を意識して整理していきます。


ツール活用と成果の変遷

多くの組織体において、組織設計や運用、ツールの工夫を積み重ねることで、販売領域における改善・改革を図ってきました。
STP (Segmentation, Targeting, Positioning) やペルソナを検討し、カスタマージャーニーを描き、その理想の流れを実現するために業務や組織を刷新し、人材の育成・評価を見直し、それらが継続・定着するようにKGI/KPIの再設定やモニタリング運用の設計などを実施、あるいは繰り返し検討されているかもしれません。
この文脈において、最も多額の経済的・人的投資のもと、試行錯誤が展開されているのがツール、すなわちデジタル・IT領域でしょう。昨今のツールにおける、業務や組織も取り込んだ高いレベルでの標準化 (有名どころでは "The Model" 、あるいはツールそのものではないですが、それに対する一種の部分的アンチテーゼとしての "RevOps" など) はその証左と言えます。
ツールに関して、精緻な歴史的振り返りは当該領域の専門家・専門書に譲りますが、ざっくりと下表のような経緯を辿っていると考えられます。

アットストリームコンサルティング作成

これらツールの変遷について確認してみると、収集・管理される情報量(件数・項目数ともに)、ならびにそれらの共有元・先は増加の一途を辿っていると言ってよいでしょう。同時に情報やツールの現場に向けた民主化が進むことで、情報の一元管理や統合ルールの適用が困難になっており、データの欠落や内容の精度という課題に気づき始めます。また、ITシステムが導入され始める頃から(もう少し厳密にはメインフレームの時代からでしょうが)、データセットという概念が現実的に活用可能なものとなり、データを分析して活用する、すなわち業務や経営における意思決定に影響を与える変化に意識的になり、データの価値が量(明細単位での活用)から質(集合体での活用)に転換し始めます。
ここで着目したいのは、多くの企業や組織体でデータの量の拡充には取り組んできておりますが、その次のステップとしての意思決定への効果的な活用やデータ精度の維持といった質の拡充に難航していることが多い、ということです。
これはなぜか。二つの観点を提示してみたいと思います。

ツール活用による価値創出の障壁

一つは、質的な変化を測り、促すことができる定量的な指標の設定と運用の欠如です。
分かりやすいのはデータの欠落や内容の精度の課題でしょう。しばしば課題視されつつも、KGI/KPIの対象としてデータのガバナンス構築、クレンジングサイクル運用を考えることは少ないと思います。前稿に触れたように、顧客接点とは情報のやり取りの蓄積であると言えるにも関わらず、です。
これは少し視点を変えると、現場での顧客との会話や営業活動のプロセスの構造的なデータ管理も不足している傾向が強いと言えるでしょう。いわゆるトップの営業担当やサービス担当は原則として顧客との対話を重視し、何年にも渡る顧客とのお付き合いを多面的に記録・活用し、試行錯誤を繰り返す中で顧客とともに成長しています。こういったプロセス一つ一つの見える化が、組織も巻き込んだ形での成長に寄与します。
加えて、意思決定や施策・活動の結果としての顧客からの評価にも着目されていないことも少なくありません(特にBtoBの場合)。日常的に売上や利益、またはそれらにつながる案件進捗には厳しい目を向けているかと思いますが、顧客軸で見た時にそれらがなぜ数字につながっているのか、いつまでつながり続けるのか、討議の材料は各営業担当からの感覚的な定性情報、という状況と推察します。表現を変えると顧客満足やロイヤルティなどの観点で、NPS (Net Promoter Score) 、NPI (次回購買意向; Next Purchase Intention) などの指標を踏まえて、早期のPDCAサイクルを回す工夫が欠落している可能性が高いと思われます。(もちろん、あらゆる定性情報を定量化することは困難かつ無意味であるため、定性的なコミュニケーションも重要です)
3点記載しましたが、こういった情報を効率的に収集・管理されているでしょうか。あるいは、収集はしていても管理層・経営層が重要指標として確認・活用されているでしょうか。

もう一つは、質的な変化がバラバラの方向で整合していない(組織内の理解が結果として整合していない)、あるいはその変化の先を指し示していない。組織内のメンバーに共感されず、変化が生まれない状況を指しています。
ここで重視するべきは、目的をどのレベルでどこまでを範囲として置くか、そしてその際に時間軸を意識して設定しているか、です。
顧客との関係性は営業担当やその所属部門だけで完結するものではなく、周辺の取引先との関係性、また自組織・顧客・取引先を取りまく社会経済的・技術的・地政学的状況などに応じて変わらざるを得ず、それを予測することは一部のマクロ的な動向(人口減少など)を除くと現代において不可能でしょう。結果、個別の事象に応じて現場のチームや担当が意思決定し、柔軟に顧客・取引先対応を継続することで、結果として自組織の評価や価値が向上する態勢を整える必要があります。
つまり、目的・目標は数ヶ月などの短期、あるいは数年~数十年などの超長期的にしか、恐らくは定義できないでしょう。中期経営計画を立案する組織は多く、その検討過程の意義は否定されるものではないかもしれませんが、中長期の状況変化は極めて激しいという前提の元、顧客に問い続け・提案し続けることで、軌道修正を継続するべきではないでしょうか。

顧客接点"強化"の成果

障壁の一つ目については、いわゆるKGI/KPIの文脈でその重要性を再認識し、プロセスの見える化と改善の加速に改めて注力している組織も少なくありません。一方、視点として超長期が欠落している結果、ツール以外の周辺業務・ルール・育成・評価などと連動せず、ツールが何になろうが、多少の効率化以上の効果が生まれていないケースが極めて多いと感じています。これは言い換えると、今後、顧客やその背後にある社会とどのような関係性を構築し、価値提供をしていきたいか、不明確であるということと表裏一体なのです。
ここで、改めて下図の販売領域の上流をご確認ください。

アットストリームコンサルティング作成

販売領域の最上流は、組織全体あるいは事業全体の経営戦略なのです。(もちろん、経営戦略としてもっと広範に定義するべきなどの反論は真摯に受け止めます)
組織・事業そのもののあり方や目指す先が曖昧なまま、あるいは経営戦略として連携しない形での顧客接点強化施策の推進、CRMなどのツールの導入は、短期目線での数字を追うだけの活動に成り下がり、現場での自律的な工夫や意欲は弱く、成長ドライバーが生まれない構造になってしまっているのではないでしょうか。
KGI/KPIを適切に設定・活用した短期施策も重要です。ただ、超長期目線は自律性やそれに基づいた加速度という観点から、より重要と言えます。

以上を振り返ると、顧客接点の強化による成果とは、以下のように考えられるのではないでしょうか。

  • 短期的:情報の質と量の維持・拡大による行動変容

    • 量の拡大だけではなく、質の拡充に向けた施策も必要

    • 特に管理層のコミュニケーション・指示が重要だが、その推進のためには経営層からの継続的なメッセージングが肝要

    • ツール導入による作業効率化も含まれる

  • 中長期的:経営層の意思決定の変化

    • "短期的"に記載した情報の質や量の変化から、現場の活動状況や顧客がよく見えるようになる

    • 大きなリソース投資を伴う戦略的・戦術的な施策実行に向けた意思決定根拠とコミュニケーションが可能になる

    • ただし、目的が希薄な場合においては意思決定の落とし込み、定着化が難航し、変化につながりづらい

  • 超長期的:組織文化の変化・醸成や人材・各種仕組みの継続的な成長

    • 目的に沿った各種施策の連携による人材の成長と自律的な変化

    • 顧客接点・取引先との関係を含む全社的な連携課題に鋭敏になり、その時々の重要情報の見える化によって対策検討が円滑化

これら各視点の考え方を踏まえて枠組みを創り上げることが、顧客接点強化と言え、顧客の満足度・ロイヤルティ、ならびに売上や利益につながっているという形が恒久的な構造、すなわち本質ではないでしょうか。

顧客接点強化におけるデータ・デジタル領域における主要課題(次回へ)

ツールの変遷でも触れましたが、情報・ツールの民主化ならびに量の拡充を積み上げるほどに、データの一元管理や統合ルール(データガバナンス)の適用の難しさ、データ自体の精度の維持の難しさは上がっていきます。
これまでの議論を振り返ると、当該事象は経営層の意思決定も含めた広い範囲に及ぶ重要な課題であり、経営テーマである顧客接点強化における各種施策の実現可否・方法を左右するものです。これについては、次回以降の投稿で個別課題として取り上げながら、その背景や個別の解決策について整理してきたいと思います。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。皆さんの気づきにつながる内容があれば何よりです。

投稿者:
アットストリームコンサルティング株式会社 マネジャー 兵頭 卓

複数のコンサルティングファーム、DX/AIコンサルティングのベンチャーファームでのコンサルティングサービス事業部長、独立系ファームでの関西拠点責任者などを経て、アットストリームへ参画。顧客接点強化やAI活用などを中心としたコンサルティングサービスを提供。