森茉莉『ほんものの贅沢』を読む。モノと心の付き合い方を考えた。
森茉莉は文豪森鴎外の娘であり、いわゆるお嬢様育ちです。
が、一回目の結婚後色々ありまして、彼女が筆で食べていく頃には、御邸どころか安アパート暮らしでした。そこで変に所帯じみたり行き過ぎた清貧思想に陥らないところが森茉莉のすごいところです。
森茉莉は「贋もの贅沢」の存在と、贅沢を嫌悪する精神の古臭さをバッサリ切り捨てています。
曰く、モノの値段ではなく、精神の余裕がもたらす状態。それが『ほんものの贅沢』なのです。
たとえ価値あるモノを所有したとしても、お金を使ったことによる息苦しさを抱えていたり、他人と自分に優劣をつけてしまうような余裕のなさがある限り『贅沢』には程遠いのです。
つまり「分相応」な暮らしを心がければよいのか?という話ですが……これもちょっと違うのではないかと思います。
稼いでいる人もそれほどでもない人も、高額で希少価値があるモノが好きな人も、身近にある手に入りやすいモノが好きな人も、モノをたくさん周りに置きたい人も、そうでない人も、皆が心から、周りと比べることなく「これ、大好き! 楽しい!」と言えること。
そしてモノに振り回されず、自分の心を大切にすること。これが『贅沢』なのだと思います。
森茉莉『ほんものの贅沢』は文庫本4ページほどの、短い文章です。講談社文芸文庫『贅沢貧乏』に収録されていますが、他社の森茉莉本にも入っています。
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