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自尊感情と抑うつ傾向は日常的にどれくらい関連しているのか

割引あり

抑うつ的で落ち込んだ気分や,興味の喪失や喜びの喪失という体験は,人々の生活に大きな負担をもたらします。これらの気分の問題は,心身の健康問題,死亡率,疾患関連の社会・経済的なコストの観点から見ても大きなものです。


自尊感情と抑うつ

自尊感情はSelf-esteemの訳語です。自尊心と呼ばれることもあります。自尊感情は,自分で自分のことを認識したものである自己概念に対する情動的な要素で,自分自身の価値をどのように主観的に評価しているのかを指しています。

抑うつ的な症状は,落ち込んだ気分を経験すること,以前は楽しめていた活動に対して興味や喜びが失われてしまうこと,活力が低下すること,睡眠の問題などによって特徴づけられます。これらの症状が一定期間続き,ひどい状況になると「うつ病」と診断されることになります。

自尊感情とうつ病は,前者がポジティブな自己評価,後者がネガティブな内的状態を表しますので,相互に負の関連を示すことは容易に予想されます。

ポイント

抑うつ傾向と自尊感情を別個に検討することの理由が考えられます。

◎自尊感情と抑うつ傾向は,他の変数との関連の様子が異なる
◎自尊感情の低さは,抑うつ傾向の必要条件でも十分条件でもなく,必ずしも同時に変動するとは限らない
◎自尊感情と抑うつ傾向は,発達の様相や,時間的な安定度が異なり,自尊感情の方が安定する傾向がある
◎抑うつ傾向と自尊感情は互いに影響しあうが,重複するわけではない

縦断的研究

心理変数どうしの相互の影響関係を検討する際には,一度の時点での関連を検討するだけではなく,時間をおいて調査を繰り返す中で検討することが重要です。通常,「関連がある」という時には,個人間のデータから導かれます。つまり,抑うつがより高い人は自尊感情がより低く,抑うつがより低い人は自尊感情がより高いことによって示されるというわけです。

しかしこの研究結果は,ある個人に注目した際に,抑うつが「より高まったときに」自尊感情が「より低下していく」という,個人の変化を説明するわけではありません。個人間の「差」を個人内の「変化」であるかのように読みかえているのです。

そこで,ある集団の人々に対して時間をおいて(数日,数週間,数か月,数年)何度も調査を行う縦断的な調査を行う中で,抑うつ傾向と自尊感情がどのような関連を示すかを検討することは重要になります。さらに,複数の縦断的な研究プロジェクトのデータを分析して比較していくことで,結果が再現されるのか,調査器官の効果がどうなるのかなどを検討することも可能になります。

こちらの論文を見てみましょう(The Dynamics of Self-Esteem and Depressive Symptoms Across Days, Months, and Years)。

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