
痴漢外来
今日のおすすめ本は,『痴漢外来』です(原田隆之 (2019). 痴漢外来:性犯罪と闘う科学 筑摩書房)。
興味深い事例も載っていますし,実際に認知行動療法に効果があることが示されていて,それも興味深いのですが,前半に書かれている内容も,とても示唆深いものでした。
痴漢は日本特有
たとえば,こんな一節です。痴漢は日本に特有の犯罪なのだそうです。
痴漢はほぼわが国特有の犯罪と言っても過言ではない。海外の論文では「日本にはchikanという犯罪があり,毎年数千人が逮捕されている」ということが,驚きをもって報告されているほどである。もちろん,諸外国でも満員電車やバスなどで痴漢の報告はあるが,数は圧倒的に少ない。(p.48)
痴漢が病気だと言ったときの反応
さて「痴漢は病気だ」と言うと,どのような反応が返ってくるでしょうか。
「痴漢が病気だと言うなんて,罪を軽くしたいのか!」というのもよくある反応なのだそうです。
でも,たとえばアルコール依存症の人が酔って運転すれば当然,道路交通法違反です。同じように,強く抗いがたい衝動性のために,つい痴漢をしてしまう人の罪が軽くなるわけではありません。
私はこれまで,痴漢が犯罪であることを否定したことは一度もない。また,痴漢という病気を責任能力とからめて主張したことは一度もないし,そのつもりもない。「痴漢は犯罪か,病気か」という二者択一ではなく,犯罪であることは当然の前提として,そのうえで病気という視点も加えるべきだと提案しているだけである。つまり,「犯罪でもあり,病気でもある」という主張である。(p.60)
何でも病気にするな
では,「何でも病気にすればいいのか」「何でもかんでも病気にするのはいかがなものか」という意見に対してはどうでしょうか。
痴漢が病気として見なされるためには,ふたつの条件があると本の中に書かれています。それは,「反復」と「本人の著しい苦痛」です。どうしてもやめられなくて,そのことについて本人がきわめて苦痛を抱いており,困ってしまい,日常生活にも支障が生じるということが,病理であることの条件です。これは,痴漢に限ったことではありませんよね。
一つは,パラフィリア障害の場合,その性的対象や手段に逸脱や異常があるだけでなく,それが反復的になされる場合である。もう一つは,強迫的性行動症の場合,性的衝動や行動の統制が欠如しているだけでなく,それによって本人が著しい苦痛を抱いているという場合である。(p.76)
単に性的な衝動が強いことや,性行動が頻繁であること,アダルトサイトを何度も見てしまうこと,性風俗店を利用してしまうこと,たとえそれが端から見て望ましくないと思ったとしても,それらの行動に対して「病気だ」とレッテルを貼るようなことはありません。本人がその行動をある程度コントロールできるようであれば,病気ではないということです。
やめたいのに
もしも「やめたいのにどうしてもやめられない」「このままではいつか生活が破綻する」「やめたいのにやめられなくて,いつか捕まってしまう」と不安を抱えているようであれば,この本で紹介されているような外来を訪れてみる,というのもひとつの解決策だと思いました。
具体的な治療の内容も勉強になりましたが,このような痴漢行為に対する見方についても学ぶことが多かった一冊です。
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