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レポートを書くときに注意したい表現:「多い・少ない」と「似ている」
文章の書き方というのは、なかなかしっかりと教わる機会がないものなのかもしれません。大学に入るとアカデミックライティングの授業があるところも多そうです。でも、そこで四苦八苦する学生もいるようです。
文章に関するテキストにも色々なものがありますが、まず読んで理解しておいた方が良いのではないかと思う1冊を挙げると、福澤先生の『議論のレッスン』です。
この本を読むと、何かを述べるということはあることから別のことへの飛躍であり、そのジャンプを補強するために証拠を示すことが効果的なのだということが意識できるようになると思います。
この本に書かれていることもとても重要なのですが、今回はもっと基本的なことを書いてみようかなと思いました。よくレポートに書いてあって気になる表現です。
多い・少ない
たとえば「多い」「少ない」です。
「なぜアメリカには熱心なキリスト教信者が多いのか」という記事を見つけました。この記事のタイトルにも「多い」が使われていますね。
「それが多いのですよ」と言われると、「ああ、多いんだ」と思うかもしれません。
でも、その文章を読んでも「どれくらい多いのか」という印象は、読んだ人によって全く違います。100人中30人を「多い」と考える人もいますし、100人中50人をそう考える人、100人中90人いないと「多い」と考えない人と、様々です。そんな状況では、「多いよね」という会話がなかなか難しくなる時があります。同じ言葉を使っていても、意図が通じないことが起きてしまうからです。
では実際に数字を示して「アメリカでは100人中60人が熱心なキリスト教徒だ」と書いてみてはどうでしょうか。「そんな数字だから多いのだ」ということを言いたいわけです。
いや、それでも不十分です。なぜなら、メキシコやドイツやフランスやイギリスや、ほかの国もみな「100人中60人」なのであれば、アメリカが特別に多いというわけではないからです。この状態では、そこだけが特別に「多い」と結論づけることはできません。
比較する表現
つまり、「多い」とか「少ない」とか言いたいときには、「何と比較して」という一節が必要になるのです。アメリカは何人中何人、日本は何人中何人、だから日本よりもアメリカの方が多い、という書き方です。そうなって初めて、「多い」の意味が明確になるというわけです。
「多い」「少ない」は比較対象がないと曖昧な表現になってしまう、ということを覚えておくと良いと思います。
同じことは「高い」「低い」という表現にも言えます。その時にも「何々より」という言葉をつけて書くことを心がけましょう。
「男性は身長が高い」という言葉に欠けているのは、「女性よりも」という言葉です。さらに正確に表現するなら、「男性は平均身長が女性よりも高い」でしょうか。あくまでも平均身長ですので、男性の多くよりも身長が高い女性ももちろんいます。
とはいえ,そもそも「何々よりも多い」「高い」「増えた」といっても元の数字が間違っていたり捏造されていたり惑わそうとしていては,それ以前の問題です......。
似ている
これもさりげなく使う表現です。
それは「似ている」「似ていない」という表現のことです。「親子の性格は似ているのですか」「夫婦の顔は似ているのですか」という質問も、よく出る定番の質問です。
この記事は、米津玄師がユースケ・サンタマリアに似ているということが書かれています。
似ているかどうかというこの表現も、なかなか注意が必要な表現のひとつだと思うのです。
似ている基準
なぜなら、何を基準に考えるかによって、「似ている」の中身が変わってしまうからです。
・年の違うきょうだいに比べれば、双子はよく似ている
・赤の他人に比べれば、親子はよく似ている
・アジア地域全体で考えれば、日本人はよく似ている
・地球全体で考えれば、日本人と韓国人はよく似ている
・哺乳類全体で考えれば、人間とゴリラはよく似ている
・動物全体で考えれば、人間とトカゲはよく似ている
・生物全体で考えれば、人間とトウモロコシの遺伝子はよく似ている
などなど。
このように、似ているとか似ていないという表現は、どこを基準に考えるかによってその評価が変わってしまいます。
遺伝的に「似ている」
「遺伝的に違っている方が惹かれ合うらしいですよ」というフレーズを聞いたことがあるかもしれません。「遺伝的に反対」というのは何を指すのでしょうね。
元の話をたどっていくと,ある遺伝子のタイプが同じであるよりは違っている方が,ということのようです。その話が,「似ている」という曖昧な言葉が使われることで,遺伝子全体の類似度の話に拡張していってしまったような印象があります。
この話を聞くと,地球上の生物全体で人間と遺伝的に全く違う生物は何だろう?と考えてしまいます。バクテリアでしょうか。ウィルスでしょうか。だったら、それなりに惹かれ合うかもしれないな、とインフルエンザの流行る時期にはそう思ってしまいました。
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