セラピーは命がけ
セラピストが癒すわけではない
心理カウンセリングや心理セラピー。
心に悩みを抱えた人はセラピストに話をすることで、いったい何が変わるのか。
精神科医のところへ行けば薬を出してくれて症状を和らげてくれる。
不安に感じていることや幻聴・幻覚・妄想。
不眠症に摂食障害。人と話すことができず、引きこもる。
コミュニケ―ションができず、仕事ができない。
リストカットを繰り返し、ツイッターに『死にたい』とつぶやく。
どうしてかわからないけど酒に溺れてしまう。
依存さえしていればストレスが軽減される。
副作用もあるけど、医者が出してくれた薬を飲んでいれば誰にも迷惑がかからない。
保険も適用されるし、診断名によっては手帳が交付される。
手帳があれば生活するのに何かと便利。
二級でも年間26万円の税金控除がある。
カウンセラーやセラピストは、いったい何をしてくれるの?
深い深い闇の中で
病院からの帰り。
半年ぐらい通って、やっと電車に乗れるようになった。
まだ職場復帰はできなさそう。
きっかけはなんだったっけな。
仕事の量が多すぎて、一日じゃ終わらなかった。
毎日毎日、仕事を押し付けられているような気がしてた。
あの日、上司に仕事のやり方を否定されたんだ。
気が付いたら叫びながら外に飛び出していた。
雨は降っていなかった。
いつも通っているあの道を、ただ真っ直ぐに走った。
確か夏だったと思う。
照りつける太陽と、セミのけたたましい声だけが思い出される。
翌日から、職場へは行かなくなった。
起きて、寝て、起きて、寝て
上司の計らいで、有給の無期限休暇をもらった。
緊張の糸が切れたあとは、緩みっぱなし。
何もせず、何もやる気にならず、不安ばかりが募っていく。
ちょうど、あの大地震があったあとだった。
また大きな地震が来るんじゃないかと怯えていた。
テレビの番宣では、地球の滅亡は今年の冬、などと放送してる。
観るだけで涙が出た。こわくて、こわくて、涙が止まらなかった。
何か、しないとな
朝は晴れていたのに、急に空が掻き曇った。
不思議な色の空を見て、不穏な空気を感じるとともに、背中を押された気分になった。
屋上から空を見上げると、一筋の雲が空から降りてきている。
その雲がある方向は、南の方角。
部屋に戻り地図を見ると、南には鎌倉があった。
鎌倉は、自分にとっても思い出深い場所。
良い思い出しかない場所。特別な場所。
スマホを取り出し、鎌倉にある精神科医を検索してみた。
何件かヒットしたうちのいくつかに電話をした。
自分の感じていることや置かれている状況を話した。
そのひとつのクリニックの予約が取れた。しかも明日。
そろそろ動き出さないと。
古ぼけた民家に裸足の精神科医
鎌倉駅から徒歩数分のところにそのクリニックはあった。
目抜き通りから隠れるように、ひっそりと、佇んでいた。
扉を開けると下駄箱には靴がたくさん。
そして揃って下を向いている患者さんのいる待合室。
初めに、臨床心理士がカウンセリングをしてくれるという。
小部屋に入り、隣近所に住んでいそうな女性と話す。
彼女は教科書通りの質問をしてきたが、全て当てはまらなかった。
予約の時間から待たされること一時間、診察室に通された。
精神科医の後ろには光の射す窓。
大きな机。日焼けをした健康そうなおじさん。裸足。
彼は一言。『不安症だな!』
もしかしたら、その精神科医に父性を感じたのかもしれない。
ズバッと言い当てたその症状に、投薬治療が始まった。
これはある方から聞いた体験談。
精神科医に通う人のほとんどは投薬されてその症状を和らげるところから始める。
精神症状が現れなければ、食欲も出てくるし、睡眠薬で眠ることもできる。
定期的に通院することで新鮮な空気を摂取することもできるし、世の中を知ることもできる。
自分で自分に打ち克つ方法を、自ら学んでいく。
ただ、薬というのはすぐに効かない。
副作用が先に出て、太ったり夜尿症になったり、症状は悪化したのではと思ってしまう。
それでも薬を飲み続けることは大事で、徐々に量を減らして行きながら長い期間、心の病と闘うことになる。
心理カウンセラーや心理セラピストは医者ではないのでもちろん投薬治療はできない。むろん、したいとも思わないのだけど。
その代わり、ドクターに勝るとも劣らない情報を持っている。
どんな本にも載っていないような、心の動きを知っている。
それはもう観念的に知っているとしか言いようがない。
体験したから、経験したから、そういうわけでもなさそうだ。
だからこそ逆に、命がけで取り組まないことには、相談者の心には響かない。
セラピーは命がけ
心に元気がないと、身体からも元気が出ない。
カウンセラーやセラピストは、心の内面を深く深く視る。
感じる。感じて、見立てをして、また深く深く。
その繰り返し。
相談者自信が知らなかった心の中身まで、カウンセラーは視ることになる。
見たくなかったことや、聞きたくなかったことがたくさん話される。
普通の人間では抱えきれないほどの闇を見る。
闇の中の空気は冷たく、重い。
そんな中に、セラピストと相談者は飛び込んでゆく。
これが命がけではないとすると何なのだろう?
セラピストは、その深い闇から這い出てきた人。
闇の深さを知らないと、心の中は覗けない。
深い闇から天上の光へ。
自己治癒力を信じて
こうやって文章を書いている今だって、深い闇の中にいる相談者のことを考えている。
そしてかつて闇の中にいた自分と、その抜け出し方を思い出している。
闇の中は心地よいけれど、何も見えない。
外も、内も、何も見えない。
だからこそセラピストは、一筋の光を闇に向かって射し入れる。
気づいてほしい、その一心で。
セラピストやカウンセラーは、相談者の背中をそっと押す存在。
直接的に治したり癒したりするわけではないのです。
変わるのも自分なら、変えるのも自分。
そんな中で、セラピストを頼るのは変わりたいと思って光の方へ目を向けたからではないでしょうか。
※画像は、箱根にある赤い欄干の橋。暗いこちらから明るいむこうへ。
夢というのは、最大の個人情報と言われています。ただ、解釈を抜きにしてはただの脳内作用です。夢に興味のあるあなたに解釈していただいてこそその価値が出ます。