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2019年度 第12回GA文庫大賞 研究

私は川崎中と申します。かわさきあたりと読みます。
10年ほど前にライトノベルの新人賞を受賞したことがあります。

ただその後は一切結果が出ず、商業出版とは無縁の人生を送っています。
noteでは、あの時なぜ受賞できたかの検証と、その時のやり方を言語化すれば改めて受賞できるのかの挑戦を行っていきます。

詳しくはこちらの記事をご覧ください。

現在第17回GA文庫大賞に挑戦すべく、まず受賞作研究を行っています。
GAに応募する経緯はこちら。

今回は2019年度、第12回 GA文庫大賞について見ていきたいと思います。
受賞作品は次の6作品です。

忘れえぬ魔女の物語(宇佐楢春)
貴サークルは"救世主"に配置されました(小田一文)
その商人の弟子、剣につき(蒼機純) 
竜歌の巫女と二度目の誓い(アマサカナタ)
カンスト村のご隠居デーモンさん 〜辺境の大鍛冶師〜(西山暁之亮)
俺とコイツの推しはサイコーにカワイイ(りんごかげき)

全体感想

異世界ファンタジーが半数、しかし賞の色は

(その商人の〜)(竜歌の巫女〜)(カンスト村〜)の半数が異世界ファンタジーの回でした。ただ、金賞を取った二つ(忘れえぬ〜)(貴サークル〜)は現代もので、やはり現代物の方が評価されがちなのでしょうか。

それとも、単に異世界ファンタジーの書く難易度が高いので結果的にそうなってしまうのか。ただ、今回投稿された異世界ものが明確に金賞の作品に負けていたかといえばそうとも思えないので、やはり現代物の方が評価を受けやすい感じがします。

ぼっちがそのまま受け入れてもらえたっていいじゃない!

(貴サークル〜)(俺とコイツ〜)の主人公はかなりぼっち気味なのですが、それでも自然とヒロイン達が集まってくるし、好かれていきます。好かれる理由が無いとは言いませんが、それほど仰々しい理由ではありません。
でも、ラノベの機能の一つとして「読者の願望を叶える」というものがあるとして、それをどこまでやり切れるか、という思い切りは作者に重要な気がします。

照れずに思い切り好かれる主人公を描けばいいじゃん! ラノベだよ? 理由が無いとモテない現実って辛いしね!
あと魅力的な隣人を、魅力的だと気づいていないという共通点がこの2作品にはありました。これはハーレム的な構成に物語を持っていきやすいテクニックかもしれません。

ファンタジーは2つの特徴を

(その商人の〜)の特徴は、主人公が商人で、商人の機転で物語を進める部分にあります。また、ヒロインは剣です!
(竜歌の巫女〜)は、主人公は元貴族の奴隷で、何ならそれだけで描けそうな者ですが、竜の要素も多分に絡んできます。
(カンスト村〜)は、その村の村人みんなが最強でその力を見せる事ばかりでなく、本編はむしろそこにやってきた女騎士を鍛えることにあります。

まぁ異世界ファンタジーに限らず、全体的に目玉と言える要素が複数ある作品が多いです。
(忘れえぬ〜)はSFが素晴らしいですが、百合も特徴でしょう。
(貴サークル〜)は同人サークル活動とバトルですよ?

作品別感想

忘れえぬ魔女の物語(宇佐楢春)

【セールスポイント】百合とSF

同じ日を何度も繰り返す主人公の日常が寂しくも、ヒロインによって彩られる。SF要素も多いながら、魅力的なキャラで読みやすい作品。

不思議な要素が複数あって、なかなかややこしい話ではある。展開の論理よりも、どう物語が動くかが優先されており、だからこそ最終的に心地よい読後感にたどり着く。ラノベはこうやって、素敵な最後を作者はめざすべきなのだとおもった。後半もいいが、前半がマジで好き。

貴サークルは"救世主"に配置されました(小田一文)

【セールスポイント】同人サークルと救世主のギャップ

同人サークルの主として、一生懸命同人漫画を作る主人公と、バトルを繰り広げるヒロインのギャップが良い。ハーレムもの。

主人公は好きなことを行っており、その自然な態度でいつの間にかヒロインに好かれているというのはストレスが少なくていいのかもしれない。同人誌作りを具体的にしっかり描いているので、ヒロインの戦闘とのギャップがあり、何を真剣に戦っているんだろうという面白さがあった。

その商人の弟子、剣につき(蒼機純) 

【セールスポイント】商人主人公の異世界ファンタジー

ヒロインが魔王の剣だが、可愛らしく禍々しさはない。バトルもあるが、物語のターニングポイントが商人の機転や決断なのが良い。

異世界ファンタジーで竜が出なかった! というのはともかくとして為替操作や金融の一部を異世界ファンタジーに落とし込んでいるのがいいところで、そういう面が物語を動かしている。他の作品にも通じるところだが、異世界ファンタジーの主人公は、成長することよりも、持っている能力を格好よく見せることに主眼が置かれている気がする。

竜歌の巫女と二度目の誓い(アマサカナタ)

【セールスポイント】悲劇のヒロインと可愛い竜達

主人公が奴隷状態から始まるストーリー。しかし、いつの間にか主人公を中心に面々が動き出し「私のために争わないで!」状態になる構造が良い。

この世界では竜と意思疎通できる人間がおり、またそうでなくとも結構通じ合えている感じがするのは牧歌的で楽しそう。そこを含め、ファンタジー的な世界観には大変力が込められており、ハイファンタジーを楽しめるものだと思う。主人公の魔力を使ったバトルも軽快。

カンスト村のご隠居デーモンさん 〜辺境の大鍛冶師〜(西山暁之亮)

【セールスポイント】最強で牧歌的なゲーム系ファンタジー

主人公のご隠居デーモンさんが可愛らしい。村人皆つよく、訪れたゲストがある意味主人公で、ほのぼの読めるし、後半は熱いし感動した。

村に訪れた女騎士の師匠的な役割にご隠居デーモンがなる中で、彼の強さやその他の面々の強さが際立つのが爽快。後半は辛いバトルがあれど、基本的に登場人物皆善人でまとめられており、それも読みやすさに繋がっている。文章は軽いが、語彙力も高く非常にうまいと思った(こなみかん

俺とコイツの推しはサイコーにカワイイ(りんごかげき)

【セールスポイント】推しを推す中で、絆が深まる

幼馴染のぼっち3人。その一人が電脳アイドルになり、他二人が推すという構造。元々あまりもので一緒にいただけ、という認識からいつの間にか抜け出す様に感動。

推しがヒロインかと思いきや、どちらかといえば一緒に推す幼馴染がヒロインで、二人で推しを推すことで徐々に関係性が深くなっていく。ほぼそれだけの話なのだが、逆にそれだけに集中して書かれているので、ラブコメとして非常に読みやすい。


さて、これで受賞作を4年分、全22作品を読みました。

これで一旦読書は終了して、総括に入っていきたいと思います!
何かしら、GA文庫大賞の傾向が見つかればいいのですが……。

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