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2021年度 第16回小学館ライトノベル大賞 研究

私は川崎中と申します。かわさきあたりと読みます。
10年ほど前にライトノベルの新人賞を受賞したことがあります。

ただその後は一切結果が出ず、商業出版とは無縁の人生を送っています。
noteでは、あの時なぜ受賞できたかの検証と、その時のやり方を言語化すれば改めて受賞できるのかの挑戦を行っていきます。

詳しくはこちらの記事をご覧ください。

先日、GA文庫大賞に関して応募を完了したため、次は小学館ライトノベル大賞への応募を目指したいと思います。
そのため、小説作成の前段階として受賞作の研究をしていきます。

2021年度、第16回の受賞作は下記のとおりです。

わたしはあなたの涙になりたい(四季大雅)
最強にウザい彼女の、明日から使えるマウント教室(吉野憂)
サマータイム・アイスバーグ(新馬場新)
SICK -私のための怪物-(澱介エイド)

全体感想

ジュブナイル的な問題意識にフォーカス

ラノベ的な、物語の単純化があまりされない作品の多い回でした。『わたしは〜』や『サマー〜』は少年少女の非常に繊細な心を丁寧に丁寧に描かれた作品で、『SICK〜』もなかなか解決し得ない問題を抱えたまま物語が進みます。『最強に〜』もマウントを取るか取られるか、というのは少年少女にとって重要な問題意識に違いなく、心の問題をどう解決するか、あるいはできないか、という部分を丁寧に向き合う必要があるのだなぁと思わされました。

初心者向けの参考書から脱っせよ

例えば『視点は主人公で統一すべき』とか『物語に関連しないエピソードは極力省け』みたいなレベル感の話はもはや意味がないのだろうと思わされました。
別に神視点で誰の心情描写かがコロコロ変わったって、本編と関連性の薄いエピソードが差し込まれたって、上手い作者であれば読まされるのです。
上限枚数の多い賞なので、ジュブナイルとか、あるいはスペクタクルな作品を応募しようとする場合、かなり書き慣れた作品がライバルになります。文芸的な面白さを追求された作品の場合特に、アイディアだけでなく総合的なうまさが求められるでしょう。

もしくはメタった馬鹿話

『最強に〜』は現実をメタで見てバカにしたコメディでした。2022年度もそうでしたが、そういうバカ作品も受賞に絡むようです。
まだ受賞作2年分しか読んでいないので断言できませんが、きっちり描写された作品と、単純化したバカ作品(下手とか、否定的な意味ではないです。あしからず)はかなりクッキリ別れている印象です。応募原稿を作成する前に、まず自分はどっちで挑戦するのかの判断に迫られる気がします。

作品別感想

わたしはあなたの涙になりたい(四季大雅)

抜群のジュブナイルで、中盤は随筆っぽい読み味。特殊な設定のヒロインも目を惹くが、それこそも舞台装置であってそれらを通じて主人公が何を感じ、どう見えているのかというのが主眼に感じる。
抜群の文章力と描写力で、本編に強く絡まない部分も面白く描かれている。
主人公はかなり受け身系で、周りが好意的に扱ってくれている点は読者に優しい部分と思いつつ、主人公は才能豊かだから許されているんだよなぁと思えると逆に現実の厳しさを感じる。

最強にウザい彼女の、明日から使えるマウント教室(吉野憂)

やはり人生でもっとも重要なのはいかに自然にマウントを決めるかだもんな。ともかくとして、学園でマウントの取り合いを競技的に行うシステムがすごくバカで面白い。実際にこういうのあるよなーと思わされるし、マウントの型に名前をつけるのも面白い。そこを独立させて心理学の本にしてほしい。
それぞれのマウントの使い手のキャラがおり、独特で良いし、今後どんなキャラクターがでてくるの期待が膨らむ。ほとんどのキャラがうざいし他人に不快感を与えるという珍しい作品。

サマータイム・アイスバーグ(新馬場新)

歌詞を読んでいるような、詩的な表現が散りばめられた特異な文章力。青春ものは非常に瑞々しくて、一方でSF部分にも手を抜かれていない。
非常に良くできたジュブナイル小説で、楽しみ方も多面的であり、一巻としては長い物語のどこかは読者に刺さるんじゃないか。
主人公よりもヒロインよりも、サブヒロインが活き活き描かれている。あるいはこちらが主人公かも。
キャラクターに近い三人称で視点がコロコロ変わるのは、読者の感情移入先が飛び飛びになる独特の読み味。

SICK -私のための怪物-(澱介エイド)

精神世界でのバトルなのでさまざまな事柄が起こり、絵的に非常に映えそうな作品。女主人公と少年のバディもので、二人の関係や暗示されるほの暗い過去が気になって読書が引っ張られる。ダークな部分と明るい部分が共存した作品。いや、しかし根底はだいぶダークな気もするなぁ。
この物語の中で、主人公の問題は解決していない気がするというか、物語が続いている限り解決していない気がするので、最終的にどう折り合いをつけていくのかは非常に気になるところ。


本当に書き慣れた作者が多い(焦り
なんていうか、ぜんぜんラノベレーベルじゃないところから出版されてそうな作品が結構通る賞なんですね。
やっぱ一言でラノベと言っても、レーベルによって見方が違うんだよなぁと、そんな感じがします。

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