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研究するのは、「ゴールポストが動き回るグラウンド」でサッカーをするようなものだ

E.M.フィリップス、D.S.ピュー著、角谷快彦訳『博士号のとり方(第6版)』名古屋大学出版会、2018年。

本書を手に取ったのは、ある学会の名大出版会のブースで、である。それ以前から本書の存在は知っていたが、意識の外にあった。しかし、偶然目の前に現れたため、購入することにした。研究大学の大学院にいると、博士課程というのも比較的身近な存在になる。そうなると、博士課程への進学ということも考える。私もいずれは博士に、という思いもあり、本書を購入することにしたのである。

本のタイトルにもあるように、本書は博士号の取得に焦点を当てている。進学先選びから博士論文の審査までをもうらしている。さらに、博士課程学生を受け入れる(指導)許員、大学が学生の支援で求められる役割にも言及しており、本書の守備範囲はかなり広い。また、具体的な情報が多く、参考になる。

本書は原則として、イギリスの大学院制度、学生支援制度・体制を基に記述されている。博士論文の審査体制など、日本の大学院とは異なる点も少なくないのは確かである。しかし、それを考慮に入れた上でも、非常に示唆に富んだ内容になっているだろう。

修士課程の学生として、本書を読んだ感想は、一言で言えば、修士課程に入学する前に本書と出会い、通読しておきたかったということになる。特に教員陣との付き合い方についての記述は、私の修士課程生活で参考になった。該当部分を読んでからは、教員とのやりとりですべきこと、した方が良いことがより明確になり、これまでよりも実りある面談ができるようになったと感じる。

この点は、具体的には第7章で述べられている。それによれば、複数の指導教員がいる場合、それぞれの教員の役割分担を明確にさせる必要がある。この役割分担は学生主導で決め、相談内容は全員で共有するというものである。教員の役割分担が私は上手くできていなかった。そのため、先生方がそれぞれの先生に配慮しあった結果、私の研究の方向性が宙ぶらりんの状態になるということがあった。この点は私の反省であり、今後、博士課程に進学する際の教訓としたいところだ。

多くの研究指南書が、ステップ10から叙述を始めているところを、本書はステップ1から丁寧に説明している。それくらい、痒いところに手が届いている本であるように思う。また、本書は博士課程への進学から博士論文の執筆までを対象としているが、内容自体は博士課程に限らず、あらゆる場面で生かせるものと言えるだろう。


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