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『日本社会の歴史(上・中・下)』(網野善彦、岩波新書)
全体を通して
私は高校で日本史Bを習っていないため、とても難しい本であると感じた。高校日本史レベルの知識は持ち合わせた状態で読まないと、とてもじゃないが理解できないと思う。
そして何よりも漢字が読めない。例えば、この漢字。なんと読むかわかるだろうか。
豊御家食炊屋姫
この読み方は「とよみけかしきやひめ」だそうだ。こういう難読漢字があっちこっちに出てくるため、とても難しいと感じた。
日本列島と日本人
本書の最初に指摘されていることだが、日本列島の歴史は日本人や日本国の歴史とはイコールではないというのは、言われてみれば当たり前だが日本列島の歴史イコール日本人や日本国の歴史と捉えがちのため意外な感じがした。
ちなみに「日本」という国名が使われるようになったのは7世紀末以降のことだそうだ。それまで「日本人」や「日本国」など存在しなかったのである。
女性の地位
本書では、所々に女性の地位について言及がある。基本的に女性の地位は高くなかったというのは思っていた通りである。
しかし、金融、商業の分野に女性の活動が非常に顕著で、女性が生産や売買にも関わっており、富裕になった女性もいたという。このように政治に関わらないような表でない世界では、女性の活動も活発だったというのは意外だった。表の公的な世界は男性という体制は維持されていたそうだが。
しかし14世紀以降、女性を穢れた存在とみて貶める空気も強くなってきたという。14〜15世紀に女性に対する社会的な差別が全体として強くなり始めた。ただし、この段階でも私的な世界では、女性の権利が一定程度残されていたという。
この時期、セックス自体を穢れとみなすようになったため、遊女の社会的な地位が低下していったという。こうした性に対する価値観の変化が、現代の自分たちの間にも脈々と受け継がれているのかもしれないと思った。
上・中・下の3冊を通して、女性についての記述が散りばめられている。歴史学の本には女性が登場しないとはよく言われることであるが、20世紀末に出版された本書で、あえて女性の様子を散りばめているとしたらそれはとても先駆的なことかもしれない。
社会史の影響?
1990年頃の歴史学は、フランスのアナール学派の興隆もあって社会史の影響が出てき始めている時期だったかと思う。社会史の視点が本書にも反映されているのではないかと思われる。
「むすびにかえて」では、力量不足のため政治や文化にまだ重きを置きがちであるとの記述もあった。このことから、社会史が流行り始めた時期だったからか、社会史前に主流だった政治史などの影響から脱却しきれていないのかもしれないと思った。
私のこうした見方が正しいのかどうかは分からないが、歴史学界の動向を垣間見ることができるようで面白かった。基礎知識をつけた上で再読すれば、新しい見方もできるようになるだろうと思う。
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