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字のある絵本

一昨日、この地に来て30数年目にして初めて地元の図書館に登録した。
初めは、大型書店と同じように、著者名「あ」のところから順に見ていこうとしたのだが、すぐに気づいた。

書店では、ほぼ文庫のところしか見ない。
ハードカバーは高いし、持ち歩くのは重いし、家では場所を取るので、敬遠するのが当たり前になっていた。
読みたいものも文庫化するのを待つ。

古本屋などでは、各文庫を混在させてひたすら「著者名」で集めて並べているところもあるが、私は色もデザインも異なる文庫が混ざっているのが好きじゃない。
本の収納で統一感がないのは、精神的に落ち着かない。

しかし、町の小規模図書館では、文庫本よりハードカバーのほうが圧倒的に多い。
購入するわけではないので、値段に関係なく探せばいい。

まず「小説」のカテゴリーに行った。
著者名の「あ」から順に見て行く。
異なる装丁で、ほぼ共通項のない単行本たちが、さまざまな色合いとフォントの背を見せて並んでいる。

大型書店の文庫別売り場では、ひとつずつ目で追っていくのだが、図書館では慣れていないせいかバラバラの見た目に早々に疲れてしまう。
「か」くらいになると、もう無理という感じになり、知っている著者名だけを拾って見ていくようになる。
意識とうらはらに、目が勝手にそうする。

しかし、知っているもので気を引くものは、もうすでに読んでいるのである。
「あ」から順に見ていくのは、私好みの中で「まだ出会っていなかった」作家と作品を見つけるため。
でも、それができない。
「く」くらいでそのことに気づいて「た」になるまで粘ったけれど諦める。
小説が読みたかったが、単行本の棚から探し出すことに不慣れすぎる。

カテゴリー別の「新規(所蔵)」「絵画」「音楽」「民俗」「その他」と見て行ってようやく4冊の本をピックアップした。
書店でお金を払って買うとしたらたぶん選ばない。
でも、借りるなら目を通してみたい。

小説だと、ストーリーもさることながら、初めての作家は文章が肌に合うかどうかがすごく重要で、買う前に最初の20ページくらいは読む。
あとがきも読む。
心の中で音読したときのリズム、言い回しの癖、改行、句読点、紙の「余白」の取り具合。
挿絵やその場所。
名作の復刻版文庫みたいなのは、若者ウケを狙ったのかラノベっぽいアニメ風のキャラが描かれた表紙になっているものが多いが、もうそれだけで手に取る気にならない(笑)。

購入が前提だから、妥協しない。
生活費を削って買うのだから失敗はしたくないという貧乏人根性が抜けない。

しかし、今回図書館で選んだものは、研究やそれに基づく私見を述べたものなので、文章の肌合いや装丁には小説ほどこだわらない。
内容優先。
フォントが大き目で、文字が詰まってなくて、回りくどくなさそうなもの。
そうして、著者の思い込みやこだわりや感情が入っているもの。
研究だからといってデータは要らない。

その中の1冊がこちら。

著者は編集者さんで、絵本や童話のお気に入りを集めてある。
有名なものや売れたもの一辺倒ではなくて、この人の勝手な好みというところがいい。

子供の頃の私は、兄が所蔵する大人向けの本しか読む機会がなかった。
「〇〇論」みたいなやつとか、あとは圧倒的にアリバイ崩しのミステリー。
登校拒否の引っ込み思案のくせに、どこか同年代の子供を見下していて、テレビ番組でもおもちゃでも本でも、子供向けのものなんかくだらないと思っていた。
でもそれはきっと、みんなみたいにきれいな絵本や童話を買ってもらえないことを僻まずに済むように、自分の心をコントロールしていたのだろうと思う。

高校になって、家の内職だけでなくバイトもできるようになり、自分の収入が増加すると、私は昔の封印した思いを解き放つように絵本や童話や児童文学に手を延ばした。

「ぼうけん図書館」には、「ぼうけん」(心の冒険も含む)の種別によって計100冊の絵本、童話、児童文学が紹介されている。
あたりまえだが、絵がいっぱいで楽しい。

装丁を見ただけで、この本が欲しくなった。

100冊のうち、読んだことがあるのは15冊だった。
名前を知っているのは、このほかに5冊くらいだから、5分の4は知らない世界が詰まっていた。
ページをめくるたびに、初めての町に汽車が着いてホームに降り立つようなワクワク感がある。

小説を読むときには、登場人物として物語世界を歩くが、随筆は著者の心の中を旅する気がする。
そして、このいわゆる「私のお気に入り」では、編者の家の書棚を見せてもらうような楽しみがある。

これは、私が嫁いでから自分で買ったもので、いまも手元にある。
本体にはひとつの文字もなくすべて絵で語られているが、ここには編者の言葉があって、私の想いと共鳴するのも新鮮に感じる。

読書感想文も、本・ドラマ・映画等の紹介もあまり得意ではない。
感じたことを言葉にすると、いつも「どこか違う」という感覚にとらわれる。
「ここがムカつく」ならまだしも、「ここがいい」というのは、特に伝えにくい。
それでも、前者は吐くことでのスッキリ感があるが、後者は「で?」という感覚がある。
この文章も「ふぅーん。で?」と思われるのを想定しているので、どうぞお気になさらず。


読んでいただきありがとうございますm(__)m