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好きな映画レビュー第7回目『白ゆき姫殺人事件』

「ネットって怖いよねー」「決めつけって嫌だね〜」「噂に加担するなんて、暇なんだね」
「人って怖いね〜」
そう言えている状態の人こそ、一番危険かもしれない。
と思ってしまった。



『白ゆき姫殺人事件』


日の出化粧品の美人社員・三木典子が何者かに惨殺される事件が起こり、典子と同期入社で地味な存在の女性・城野美姫に疑惑の目が向けられる。テレビのワイドショーは美姫の同僚や同級生、故郷の人々や家族を取材し、関係者たちの口からは美姫に関する驚くべき内容の証言が飛び交う。噂が噂を呼び、何が真実なのか多くの関係者たちは翻弄されていき……。過熱報道、ネット炎上、口コミの衝撃といった現代社会が抱える闇を描き出していく。

映画.comより


これは公開当初、映画館で観た。
湊かなえさんの原作だということと、当時、現代社会を風刺したようなちょっとドロッとした心理描写みたいなものが際立った物語が好きだったのもある。

2014年公開でこの物語ということは、この当時はもうTwitterは完全に世の中に定着していたということにな・・る・・・?え?Twitterが我々の生活を侵食してもう10年以上は経つのですか?経ちますよね、普通に。早いものですね・・・(全部独り言)

今でこそ、この映画で描かれているような過熱報道や暴走した噂は見覚えのあるものとなり(見覚えたくもないけれど)、注意していないとそれぞれにそこに陥る危険性があるのだと学習され、異常さは認識されているものだと思う。
2014年以前はどうだっただろう。
ネットに自分の心の声を書き込む、知り合い(または直接顔や素性を知らない繋がり)がそれを見て反応する、コミュニケーションを取る、というのは新鮮で楽しかったし、自分のつぶやきに肯定的な反応があれば「自分が受け入れられた」という快感が全身を駆け巡った。世界が広くなったような感覚を覚えて、今までにない、下手をすれば直接顔を見た”いつもの”コミュニケーションよりも楽しさを感じたかもしれない。

そして最近、再びこの映画をサブスクで観た。
物心ついた頃からネットがあって、生まれながらにして抵抗力がある若い世代、それとここに至るまでの変化を見てきてネットへ心を晒すこととの適切な距離感を見出した大多数(たぶん)の現代人が今これを観ると、「あー、あるある」「いやはや、よくない」「出たよ、こういうの」というやや「知った視点」になると思った。
この感覚には、けっこう驚いた。当時は私にはなかったものだったから。
そんな余裕を持って観られたものでなかったし、ど真ん中すぎて何を言ってるのか逆にわからなかった、と今振り返るなら思う。


人の噂、印象、決めつけが、また誰か別の人の証言というスパイスによってエスカレートして、それぞれみんな好奇的な口ぶりで面白いくらいに同じ誘導にのっていくのがスピーディな構成で描かれていて、そのスピーディな白熱っぷりが余計に軽薄な印象として残って良かった。
出だしから赤星雄治(綾野剛)の、現代そのものの間抜けっぷりがしっかり描かれていて良かったし、簡単に翻弄され最後まで間抜けを地でいくこの赤星が軸だからこそ全てが軽薄に、上っ面で白熱していく人々が際立っていたように感じた。

この物語の中で疑惑の目を向けられる「城野美姫」を井上真央ちゃんが演じていて、その演技が、鳥肌立つくらいにすごい。
「”疑惑”視点」での演技、本当に不気味でちょっと気持ちが悪いのです。
下がり気味で笑う口元、相手をじっとりと見つめる表情、足幅を広げた野暮ったい立ち姿。

でも、これはあくまで「”疑惑”視点」での城野美姫
つまり、「我々からはこう見えている城野美姫」を象徴した姿。
観ている方も、「うわぁ、この人・・」と流されそうになる、これは自分の視点から見たこの人の印象なのだというところに失望する。自分も加担していた。
あれを見て、誰が冷静に、客観的に、「いや、決めつけでしょう」と声を上げられるのだろう。

それが決めつけだろうが、噂だろうが、そのほうが面白そうで、刺激的で、大きな声で大々的に言われていることだと流される。知らないうちに加担する。
私たちは刺激に弱い。面白そうな人の噂に弱い。
「私は、俺は、自分だけは、流されずに見られている」
「人って怖いねー(自分はこうじゃない)」
と自然に思えている人ほど(自分含め)、危うい。

城野美姫には、不確かな大多数のまことしやかな、でも形のない噂を簡単に言う大勢よりも、ちゃんとした目で見てくれている人は少数ながら現実的にいて、だから生きていけるだろうと思えたラストでは涙が出た。
そういう人が1人でもいれば、なにか肝心な部分を信じて生きていける。


最後に、ちょこっと逸れますけど個人的に一番うわああと思ってしまったこの映画のポイント。
城野美姫についてのインタビューに答える人々。職場の同僚、元同級生、故郷の人、の、その喋り方!
いかにも深刻ぶってるけど、心底気持ちよく、おもしろがっているのであろう口ぶりがすっっっごくリアルで、それぞれの役者さんたちに私は心の中で拍手喝采しました。

何やらいつものごとくぐっちゃぐちゃな内容になりましたけど、読んでもらってありがとうございました。
好きな作品について書くと興奮するのとこの気持ちの昂りをうまく言葉にできないのとで疲れますね〜


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