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短編小説・ショートショート

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短編小説とショートショートをまとめてます。文章の練習で書いてます!
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記事一覧

血の涙 (短編小説)

僕の涙は赤い。
それは生来のものだった。

涙を流すと、瞳から血が流れているように見える。
しかし、赤い涙はただ赤いというだけで、それ以外の性質は普通の涙と変わりない。

だから、無理に治そうとはしなかった。
あるいは「治せなかった」と表現する方が正しいのかもしれない。

当然のことだが、赤い涙は僕の人格形成において多大な影響を及ぼした。

僕はほとんど泣かない子どもになった。

僕が泣くと、周囲

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潜水艦の最期(ショートショート)

それは実に呆気ない、しかし、致命的な3分間だった。

その潜水艦は沈没の過程にあった。

浮力を司る装置が故障したのだ。
彼女は職業的な勘をもって、自分が助からないことを悟った。

故障から水圧による大破までの3分間、彼女は夫と娘にボイスメッセージを残した。

「潜水艦が沈没していて、私は助かる見込みがないみたい。今まで私を愛してくれてありがとう。私もあなたたちのことを愛しているわ。昔からの夢だっ

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鏡(ショートショート)

鏡に映る私は酷い顔をしていた。

頬はこけ、目は落ち窪み、肌は青白かった。

私は鏡に向かって言った。
「どうしていつもこうなの?何をやっても結局はどこにも行かない…」
そして、私は涙を流した。慟哭。

泣き終えて、再び鏡を見る。

私は戦慄した。
なぜなら鏡に映った私は笑っていたからだ。

「どうして笑っているの?」
私は鏡に映った彼女に問う。

彼女は言った。
「それはあなたが一番良く知ってい

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ある喫茶店での何気ない恋愛話(ショートショート)

かたん。カップをソーサーに戻す音。

「それで、結局彼とは付き合ったの?付き合ってないの?」

彼女は私の目を覗き込もうと前のめりになった。

「いや、付き合いはしなかった。」
「付き合いはしなかったって何!?」

私は口ごもってしまった。

「そういう中途半端な態度だからあなたはダメなのよ」

そう言われて、返す言葉も無かった。

「私の中で踏ん切りが付かなかったの。だから、しょうがないじゃない

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今生の別れ(ショートショート)

電車のホーム。特急列車の出発までにわずかな時間がある。

「その場所に着いたらすぐに、君に手紙を書くよ。君はその手紙を受け取って今度は僕に返事をくれる。そして、僕がまたその返事を書く。次はまた君が。そのようにして僕らはずっと、愛し続けるんだ。お互いを忘れるなんてこと、あるわけがないんだ」

彼女は泣いている。

「いいえ、いつかはそんな習慣も薄れていくのよ。これは今生の別れってやつなのよ。私にはわ

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