映画『渇水』の「水」を通して見る、人の尊厳と社会
2023年6月に公開された映画『渇水』を鑑賞しました。
作品は、予想よりはるかに深い内容でした。「水」という身近なものを通して人間の内面や社会問題を鋭く描き出しています。
主人公の岩切俊作(生田斗真)は、水道局で滞納者への給水停止を担当しています。彼の日常業務を通して、私たちは水の重要性と、それを失うことの深刻さを痛感させられます。
物語の中で、岩切は父親が蒸発し、母親も帰らなくなった幼い姉妹と出会います。この出会いが彼の内面に変化をもたらしていく様子が、繊細に描かれています。
印象的だったのは、水にまつわる様々なシーンです。プール、海、水槽の魚、滝など、これらは単なる背景ではなく、登場人物たちの内面的な渇きや愛情の象徴として機能しています。
水の状態の変化が、人物の心理状態の変化と見事にリンクしているのです。
この映画は、貧困や育児放棄といった社会問題も扱っています。一見潤っているように見える現代社会の中に潜む「渇き」を、水という象徴を通して鮮やかに描き出しています。
また登場人物たちが渇望するものの象徴として描かれた「赤」の存在も印象的です。これらの様々なメタファーを読み解くことでこの作品はより一層奥深くなっていくようです。
16ミリフィルムカメラで撮影されたという映像も、独特の雰囲気を醸し出しています。ラストシーンは原作から大幅に変更されたそうですが、私にはその爽やかさが心地よく感じられました。
『渇水』は、水道料金の滞納という一見シンプルな題材から、人間の尊厳や社会の在り方について深く考えさせられる作品です。
現在NetflixやAmazonプライムなどで視聴できます。ぜひ皆さんにも観ていただきたい一本です。