ADHD妻とアスペルガー夫の家事の工夫
ドンカラタラマーさんをご存知でしょうか?
モンゴル民謡に登場する、ラマ教のお坊さんです。
お仕事を通じて、馬頭琴という楽器で奏でられるドンカラカラマーを聞いたのは15年ほど前だったかと思います。
詳しいストーリーはうろ覚えなのですが
お坊さんが好きな女性に会いに行くために
お土産を山ほど抱えて馬に乗り走っていき
道中でお土産を全部落としていくという
なんとも物悲しい話だったと思います。
多分このお坊さんはADHDなのではと思っています。
あらゆる事で頭がいっぱいになり、現実が見えなくなるADHD
ドンカラタラマーさんは、考えていたと思います。
「女性に会ったら、どんな顔するかな」
「何言おうかな」
「寺の修行後回しにしてきたけど、大丈夫かな」
「ところで女性は、信仰を共にしてくれるだろうか」
色んな事で頭をいっぱいにしながら
現実には、女性のために用意したお土産を同時進行で失っている。
馬を降りて、いざお土産を渡そうとしたその時に
お坊さんがどれほどパニックに陥るか想像するだけで、目に涙が滲みます。
ADHDの家の中がカオスになりがちな背景
我が家でも、あらゆる事象において同じ事が起こっています。
買い物から帰ったらすぐ夕食を作ろうと焦っていたのに、キッチンに辿り着く前にトイレ掃除を始める
部屋を片付けようと思っていたのに、メールを返し始め、その流れで週明けの香盤表を作り出す
常に私の頭はいっぱいで、いそがしくて目が回りそうなのに
気付いた時には夕飯は出来ていない
部屋は散らかりっぱなし…
女性にお土産を渡そうと思っていたのに、マインドマップが際限なく別世界へと拡がっていき
お土産の存在がこの世から消えている。
そして、お土産がない事に気がついた時、絶望に打ちひしがれるお坊さんの思考回路に、とても近いものがあると思います。
この時私は、自分のシンドロームが要因で家の中がカオスに陥っているのにも関わらず
家を片付けずに動画編集に勤しんでいる息子や、さっき使った食器を洗わずに仕事に集中している夫に対して激しい怒りをぶつけ出すのですが
理不尽である事も自覚しており、我ながら極めて苦しい状況に追い込まれています。
アスペ夫は決して惑わされない(ように見える)
夫はトレードと輸入販売を行う事業主で
職場は自宅の一階です。
彼がこのような妻を持ちながら、家で仕事をし、それなりに売上をキープできる要因がアスペルガーだと思っています。
通常、妻がこれほどのパニックに陥り
叫びながら息子も妻自身も責めたてて涙目になり、怒りの矛先が自分にも降りかかってきたら
さすがに問題意識も芽生えて、食器を洗う、部屋を片付けるように息子に伝える、妻の話を聞く
といった対応をまずは取ると思うのですが
夫は何も言わず、部屋に鍵をかけて仕事を続けます。
その事に私の怒りが爆発して、部屋の外から更なる暴言を浴びせ始めると
ドアを開けて私を押し退け、銭湯へ行ってしまいます。
この時、強い力で押しのけられるので、私は転がったりぶつかったりして、アザを作る事もあります。
鬼の首をとったように
「DVだ!」「最低なDV野郎だ!」と罵っているのですが
彼は、私を押しのけている時、既に途方もないパニックに陥っています。
アスペルガー傾向の彼にとっては、今、決めた仕事を全うする事が全てであり
自分に向けられる妻の怒りは、それを妨げるもの以外の何者でもありません。
妻が怒っている背景に想いを巡らせるまでもなく
妻が怒っているという事象そのものが脅威で、何が何でも逃れなければ、命を取られる、という心境なのだと思います。
その事を知るまで、長い時間がかかった事で
夫婦関係の危機に何度もさらされた事は、言うまでもありません。
感情ではなく、やるべき事を可視化させる事で、アスペ夫は最高の戦力になる
問題に対し「話し合い」という最適なプロセスで対応していく能力が備わっていない我々にできる事は、抜本的解決しかありません。
夫は意見や気持ちを分かち合う事そのものには意味を見い出せないですし
妻は、話し合っても忘れます。
何だかあまりにも短絡的に聞こえますが
これ以外に出来る事は、基本的には何もないと諦めてから、本当に物事がスムーズに進むようになりました。
「見えてるもの以外は存在しない」アスペルガーの夫に
「見えないものにも捉われ続ける」ADHDの私
2人の問題を、同時に解決するものが、この即席の香盤表でした。
やる事リストだと、家族の役割が相互に関わり合っている事が可視化されず
リストの数に捉われて不公平感が生まれるのですが
この香盤表であれば
自分がゴミを捨てに行く間、妻は次男の授乳を行なっているので、ゴミを捨てに行く事は物理的に不可能
従って自分が行くしかない、という事を夫が理解できる
掃除しながら次男を抱え「洗濯が出来てない、長男がまだ家にいる!!!おい、夫!珈琲飲んでるなよ!!」とパニックに陥らずに
私は次男を夫に任せ、今は掃除をすれば良い(または長男を学校に送れば良い)と理解できる
など様々な効果があり、かなり快適になりました。
夫は、8:50分以降は家のタスクから解放されるのだと目に見えて理解できる事も
心が楽になって良い、と言っています。
私が、全てをコントロールしようとしているわけではなく、ただ必要な役割を担って欲しいだけなのだと、この香盤表を通して伝わったようです。
※口では何度も言っていたのですが、怒っている私の声や表情ばかりが彼の中で肥大化して、言っている内容が伝わっていなかったようです。
夫も、懸命に家族に応えよう、妻の笑顔が見たい、と願いながら
がんじがらめに指示される事には耐えられず
どう行動すれば喜ばれるのかも分からず、苦しんでいたんだなと感じます。
かつてはよく「俺はこんなにやっとる!!」「お前は何もやっとらん!」と、アホなのかな?と思うような怒り方をしていましたが
この香盤表を取り入れてから、そのように意味不明な暴言を口走る事もなくなりました。
彼はただ、本当に途方に暮れていたんだと思います。
この香盤表、夕方編には、彼が19:00に仕事を終え、夕食を作り始める旨を組み込んでみました。
すると彼は、私が17:30に仕事を終え、18:00に長男を習い事へ送り届け、19:00にお迎えをし、19:30に帰ってきて子供達とお風呂に入る、その間に
毎晩美味しい夕食を作っています。
個人的には、アスペルガー傾向の夫、または妻を持つ全パートナーの方に分かち合いたい朗報なのですが
うちの夫に関しては、やるべき事が可視化された上で、これをすれば家族が喜ぶ
という事を理解した途端に、タスクを正確にインストールし
正確な時刻に、毎日遂行します。
これは、時間の概念が薄れがち、優先順位を間違えがちなADHDの私にとり、とても有難い事です。
夫は「夕食を作る」という職務を全うするために、毎週水曜日の決まった時間にスーパーへ行って、買い物までしています。
そして、IKEAの青い袋いっぱいに、1週間分の食料品を持ち帰っては「これで食べ物には困らない」と安堵しています。
そんなわけで、自分も含めた世界中のドンカラタラマー傾向の人々が、愛する人と特性を受け入れ合い、幸せな人生を築けますようにと
勝手に願ったりしている次第です。
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