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[推し本]ようこそヒュナム洞書店へ(ファン・ボルム)/人生には「休み」と書店が必要だ

韓国の競争社会や女性への役割負担・昇進差別を背景に、人生をリセットして書店を開いた中年女性の物語。2024年本屋大賞翻訳小説部門第一位。
韓国発では「82年生まれ、キムジヨン」「失われた賃金を求めて」にも繰り返し書かれているのが、日本とも重なりあう女性の生きづらい社会構造や因習です。

「ようこそヒュナム洞書店へ」でも女性の生きづらさに加え、男性への学歴至上・大企業至上主義のプレッシャーもきついこと、町の書店の黒字化が難しい事情など、人物名が韓国名でなければ日本社会の話とみまごうばかりです。翻訳を感じさせない文章もするする読みやすい。

そんな社会構造の中でも、小さな楽しみを作り、自分を取り戻す場所や時間を見つけ、無自覚に社会に呑み込まれないようにありたい人々に明かりを灯す居場所に、ヒュナム書店はなっていきます。
主人公の書店経営はまだ商売的に成功しているわけでもなく、どうにかやれている、という規模ではあるものの、自分でコントロールできること、工夫していけること、それが新たな世界を開いていく様子を一緒に応援したくなります。その他の登場人物も、小さなひとりひとりかもしれないけれども、結構しぶとくしたたかだ、というところに共感します。
ヒュは「休」という意味だそうで、著者は休むということから書店名を決めたかったのだそう。

想起したのは、Debbie MacomberのBlossom Streetシリーズです。こちらはアメリカはシアトルを舞台に、リーマンショック後の経済低迷の中で毛糸屋さんを始める女性の物語です。やはりいろいろな客が店に来て、他愛ないおしゃべりして、居場所を見つけ、人生をやり直していくのです。「渡る世間は鬼ばかり」のようにシリーズが続いているので、ご近所様のような気分でついつい読んでしまいます。
まだ日本語訳はないようですが、英語自体はあまり難しくなく読み進められます。


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