[推し本]終わりと始まり(ヴィスワヴァ・シンボルスカ)
1996年にノーベル文学賞を受賞したポーランドの詩人ヴィスワヴァ・シンボルスカ、亡くなって10年ですが最晩年の詩集「瞬間」が最近刊行され(訳はヌマヌマの沼野充義氏)、以前の「終わりと始まり」もじわじわと注目されています。
それはとりもなおさず、ポーランドの隣国で起こっている、ウクライナ戦争の影響もあるでしょう。
終わりと始まり
で始まる詩集名と同じ「終わりと始まり」という題の詩には、もう、この最初の一行だけで、地続きの隣国同士で侵略し、され、を繰り返すのがヨーロッパ東部の地政学的前提条件とでも言おうか、ある種のリアリズムで受け入れる思想が反映されています。
戦争が終われば、そこから雑草が蔓延るような生命力で戦争の片づけをし、痕跡を覆っていき、人々の記憶からも薄れてゆき、いつかは誰かがかつて血で染まった大地を、そうとも知らずに草むらに寝そべって雲を見る様が描かれています。
詩の中で”原因と結果”という表現が出てきますが、最後まで読んで、今度は詩の最後から巻き戻すように読むとさらに深く味わえます。
瞬間
人生の後半に来た詩人が、哲学的に、時にはユーモアも滲ませる詩が収められています。
その中で「九月十一日の写真」という詩は、アメリカのワールドトレードセンターに飛行機が突っ込んだあのテロで、高層ビルから飛び降りる人たちの写真に衝撃を受けて書かれたものです。写真の中で、まだ人間であることをとどめたまま、最後を書かないことで深く鎮魂をささげるのです。
同じ9.11についてはジョナサン・フォイヤーの「ものすごくうるさくて、ありえないほど近い」も心揺さぶる作品です。