見出し画像

[推し本]射精責任/オカモトさん、この名を冠したコンドームを売りましょう

いやいや、なんというパワーワード。
そしてこれ以上簡潔に、とても大切な概念を、性別・年齢を超えて記憶に焼き付けられるものがあるでしょうか。


編集者の覚悟

アレだろ、フェミだろ、男批判だろ、と卑劣に矮小化させる輩がたたく格好の材料になりそうなのに、このタイトル名で企画を通した編集者の心意気と覚悟はこちらをぜひお読みください。もう、本書読むしかないよね、となります。

老若男女問わず、知識のアップデートが必要だ

28章に渡り、望まない妊娠をする理由が無責任な射精からでしかないこと、男性の射精はコントロールできるのに、女性の排卵は女性がコントロールできるものではないこと、男性の精管結紮術は女性の卵管結紮術よりもリスクが低く復元もしやすいこと、女性の側は常に、ピルやIUDで避妊に備えていることを期待され、コンドームを常備していればふしだらと言われ、していなければ無責任と言われ、それらのコストも副作用も痛みも、さらには望まぬ妊娠をした結果の多大な育児も負担していること、などが論旨明快に展開されます。

著者のガブリエル・ブレアは、伝統的なモルモン教徒で6人の子をもつ母です。その立場からの、望まぬ妊娠による中絶を減らすための提言は、軽妙ながら、これまでの議論の土俵を変える視点を与えます。
つまり、中絶禁止の議論のど真ん中に射精責任をもつ男性を据えるのです。
それでいながら、男女対立ではなく、ともによりよい関係を築くための可能性を提言します。
子どもがいようがいまいが、年齢・性別に関わらず、家父長的なカルチャーからくる男女観、中学の保健の授業で止まっている知識、SNSやアダルトサイトでのいびつなファンタジー、それらを正しくアップデートしていく必要性を強く感じます。

アメリカ連邦最高裁が覆したロー対ウェイド判決

ガブリエル・ブレアがこの本を書くきっかけになったのは、2022年に、アメリカの連邦最高裁で、1973年のロー対ウェイド判決が覆されたことに対する怒りがあります。
プロライフ派(胎児の権利を守り中絶反対、共和党寄り)、プロチョイス派(女性の選択を守り中絶容認、民主党寄り)、が大統領選の政争の具になり、女性の権利闘争の様相になりがちですが、そもそもその中絶の理由になる望まない妊娠をさせてるのは誰やねん、という話です。
望まない妊娠を減らせば、中絶する胎児も減り、胎児の権利と女性の権利の衝突も起きません。

中絶しやすさを免罪符にしてはいけない日本

ちなみに、アメリカでの中絶禁止の背景にはキリスト教の影響が色濃い一方、日本では、中絶という手段へのアクセスは難しくはありません
アメリカでは手術ができない州が増えて中絶難民が出ていますが、日本ではそのようなことはないでしょう。
ビバ・ジャパン!よかったね!!
・・・・じゃなーいっ!!!

それにより、男性が射精責任を負わなくてよい、ということにはなりません。
少子化が進む一方で、出生件数(2022年は約80万件)に対し、中絶件数はなんと15万件と20%近くになります。
産めなかった理由は様々でしょう。しかし、その一件一件ごとに、女性の身体は傷つき、心が傷つき、経済的にも社会的にも罰を与えられ、今でも1日400件繰り返されているのです。
また、望まぬ出産をしてからの嬰児放棄・殺人のニュースも珍しくはありません。
で、射精責任をもつ男性はどこに???
女性側が後始末も含めてよしなに処理すればいい、という考えが1ミリも変わらない限り、社会の進歩はありません。
だからこそ、正しい性教育が大事です。

行動に移そう

本書の最終章は「行動に移そう」です。
私はまずは食卓の目につくところにこの本を置きました。本に折りたたんで挟まれていたA4の「編集後記」なども、あえてそこらへんに置きます。とはいえ思春期の子どもが素直に読むとは思えないので、もっと広くバズってほしい。このnoteでの紹介も行動の一環です。
学校では、小5あたりから教材に取り上げてもらいたいと思います。小5は早い・・?いやいや、SNSに毒される前に、正しい知識をきちんと伝えるべきです。中学ではもう遅い。遅いんですよ、文科省。
最近、女性の健康施策にフォーカスしている企業も増えてきて、管理職(主に男性)が女性の生理について知る研修があったりします。もう一歩進めて、この本を管理職研修に使ってもいいのでは?あらゆる意思決定の場面で、無意識に働く男性優位の視点を振り返るきっかけになりますよ。
なんといっても、
男性にとって楽になるのなら、女性が苦しむのは構わない、という社会の暗黙の行動原理があり、
男性は、ほんのわずかに気持ちいいことのために、女性の人生を危険にさらすことは、道端に咲くタンポポくらいありとあらゆるところにあるのですから。
そして、オカモトさん、太田出版社とのコラボキャンペーンの延長で、#射精責任、という名前のコンドームを売り出しちゃったらどうですか?自治体は10代に配りましょう。男性が、僕はきちんと考えてますよ、と示す一助になると思いますよ。

もうね、初めてタイピングするワード満載でしたよ、今回は。。

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?