[推し本]Hillbilly Elegy/アメリカの分断の底にあるもの
なぜトランプ政権が生まれたか、その背景にあるラストベルト(Rust belt)地帯の白人労働者階級のリアリティを浮き彫りにする一冊。
貧困、虐待、ドラッグ、低い進学率、離婚再婚を繰り返す複雑な家族関係の蔓延という、裕福な知識階級には想像できなくても、一部に確実に存在する社会で育った子供たちがどう希望をすり減らしていくかが生々しい。
著者の人生を変える大きなきっかけが、海兵隊を経てのオハイオ州立大入学。それがなければその後のイェール大学ロースクールも選択肢になかっただろう。
今や上位1%の仲間入りを果たした著者に付きまとう過去の悪夢や、ドラッグを繰り返す母親の影が、アメリカを分断している病巣の深さを示している。
オバマ政権時、ラストベルトの白人労働者は彼との共通点を何も見出せなかったという。
それはアイビーリーグという学歴であり(ヒルビリーで望めるのはせいぜい地元のコミュニティカレッジ)、スマートなスーツであり(自分たちはオーバーオール着てブルーカラー)、訛りのない英語であり(南西部アクセントでなく)、シカゴという都会育ちであることなど、それはオバマさんのせいでもなんでもないが、別の惑星の人と思うからこそ信じられないようなデマのフェイクニュースを信じたという。
トランプの聖人君子でない発言や振る舞いこそは、地元の酒場でいそうな親近感を覚えさせたのかもしれない。
Make America Great Againなど、少ない(貧相ともいう)語彙で、小難しいことを言わないのが受けてしまうのだ。
この反知性的なものが受けて勢いを持ってしまう傾向は、SNSでさらに加速している。バイデン政権になってすぐの議会襲撃事件は最たるものだ。
2023年8月現在、トランプがまた再選されるのかは未知数ではあるが、これからもミニトランプ的な候補者は、よりSNSやAIを駆使して、より洗練された形で出てくるだろう。
現に著者J.D.ヴァンスは、今やれっきとしたトランピアンで、2022年のオハイオ上院選で共和党から選出された。
持てる者と持たざる者、共和か民主のどちらでもないZ世代、移民問題、中国との覇権争い、自国ファースト、高インフレ、、、アメリカでの分断は広がりこそすれ、歩み寄りには大きなチャレンジが待っていると思う。
ところで、本に登場するイェール大学で著者の将来を左右するミリオンダラーアドバイスをくれることになるAmy Chuaは「Battle hymn of Tiger mother」の著者。
彼女も中華系の移民の子で、一族の期待を背負ってものすごい努力と実力でイェールの教授にまでなった豪傑で、こういう人を母に持つ子は大変という親子バトルの話がTiger motherで超面白い。
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