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家具づくりの現場から②家具から循環を考える
総合建設会社の淺沼組は現在、築30年の名古屋支店をGOOD CYCLE BUILDINGとしてリニューアル中。その現場では「人にも自然にも良い循環を生む」というコンセプトのもと、様々なことに取り組んでいます。このnoteでは、プロジェクトに関わる人の思いや、現場の様子をリポートします!
家具から「循環」を考える
いよいよ竣工に向けたラストスパート。今回は、家具づくりの現場からリポートいたします。
淺沼組名古屋支店改修プロジェクトは、「人にも自然にも良い循環を生む」というコンセプトを、家具でも実現することに取り組みました。
働く環境の中で、自然を感じることができる空間をつくり出すということに、家具からどのようなアプローチができるのか。
建物だけでなく、家具でも「循環」に取り組むという挑戦が行われました。
「これまで」と「これから」をつなぎ、循環を生む
今回、家具のデザインを行って頂いた、TAKT PROJECTの吉泉聡さんと本多敦さんが、家具製作の視点から「循環」を捉えたとき、
「「これから」のサスティナブルな家具を考えるときに、「これまで」のマテリアルの使い方に向き合う事も同じぐらい重要と考えた」
と言います。
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オフィスは、引っ越しの度に家具が新しく取り替えられるのは一般的なこと。今回のプロジェクトでは、自然素材を家具にも使うということに加え、不要なもの→廃棄ではなく、「これまで」のものを資源としてアップサイクルし、使い続けることを同時に目指しました。
それは、「これまで」に「これから」の技術を取り組んで、つくり替えること。
また、新しくつくる家具の素材も、できるだけ自然素材を細やかなところまで使い切よう工夫するなど、変化することを楽しみながら使っていける家具が考えられました。
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1〜2Fは自然素材を使った家具、3〜6Fは個性を持つ基準階、そして7Fは「これまで」に向き合う空間。
自然素材は、建物と同様に、「土」や「木」をふんだんに使った家具が考えられ、建設残土を利用した椅子やテーブル、そして今回のプロジェクトを通して発生した端材を使って社員がワークショップで組み立て、テーブルの製作を行ないました。
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端材を寄木のように組み合わせてつくったテーブル。
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階段サインも、端材を使って製作。
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そして、執務スペースとなる基準階は、自ら使う社員たちの手でデスクの塗装を行いました。
吉野杉の集成材を利用したデスクは、3〜6階まで、各階で異なるように色分けされました。これは、ともすれば単調になりがちな執務スペースに個性を持たせ、工業的な素材ではない、天然塗料を使用した「自然的な色」を取り入れています。
オフィスはオフィスらしくなくても良いという考えのもと、自然の光や風を取り入れるオフィスに、家具もできるだけ自然のものを使い、住宅のような心地よさがあるオフィスを目指します。
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(吉野杉の集成材を利用してつくられたシンク台)
そして、1Fのアップサイクルの応接室と7Fに設置された「これまで」に向き合う家具は、淺沼組技術研究所チームと共に、既存の家具をアップサイクルして製作されました。
「これまで」に向き合う①
建築の石をアップサイクルした家具
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改修前、エントランスで使用されていた石材。改修した際には、トイレの内装材として使用されることになりました。
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(改修後トイレ)
そして、内装材として使用できない端材は、細かく砕き、家具のデザインとして使用することになりました。
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こちらは、前回の記事「家具づくりの現場から」で森の端材を集めた天板製作と同様に石膏で固められ、テーブルや椅子の部材として使用されました。
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かつて使われていた椅子を再利用。
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砕いた石を、水性アクリル樹脂「ジェスモナイト」と混ぜ合わせ、固める作業を行います。
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固められて削り出されたものを組み立て、椅子やテーブルとして完成しました。
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「これまで」に向き合う②
廃プラスチックをアップサイクルした家具
また、今回、廃プラスチックを再利用した家具の製作も行われました。
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廃プラスチックの製作について、TAKT PROJECTの本多さんは
「近年、海洋プラスチック問題で悪いイメージが強くなってしまったプラスチックですが果たしてそこだけを切り取って良いものか疑問があります。
プラスチックが安価に大量生産に向いた材料であるが故簡単に捨てられてしまっている。それはプラスチックそのものが悪いというわけではなく、人の最終処分の仕方が悪いとも言えます。
そうした廃棄されるプラスチックをリサイクルし価値のあるものに生まれ変わらせる「プレシャスプラスチック」という活動が2013年からオランダで行われています。
製作用の機械の設計図をオープンソースで公開し、マテリアルを販売したり機械製作が得意な人が機械を販売したりとコミュニティーが広まっており、現在はヨーロッパ各地で行われています。
このプロジェクトに共感し、何か取り入れることができないかと考えていたところ、陶芸の釜のようなものがあれば十分に成形できることがわかりました。
それには淺沼組技術研究所の高温乾燥炉が使えるのではないかと実験を重ねた結果、なんとか廃プラスチックをもう一度マテリアルにすることに成功しました。」と言います。
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会議室で使用されていた既存のテーブルに天板として使用しました。
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廃プラスチックの色の配合、加熱した時の状況により、1つとして同じものがありません。
「まるでアートピースのように生まれ変わることで、これまでのプラスチックとの向き合い方とは違った向き合い方が生まれるのではないかと期待しています。」と本多さん。
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「これまで」に向き合う③
ニットを着た椅子
また、会議室テーブルと一緒に使用する椅子についても改修前の椅子にひと工夫加えられました。
既存の会議室用の椅子に、
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ニットが着せられました。
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これまで使っていた会議室のオフィスチェアを廃棄せずに有効活用するため、座面と背もたれを包み込むカバーのみ再制作しました。
ホールガーメントという技術で作られたカバーは製造上のロスが少なく、さらに使用されている糸はペットボトルからリサイクルされた糸を使用しています。
椅子が「劣化する」存在から、経年変化を「楽しむ」存在へ。
擦り切れた部分は今後刺繍するなどすれば、デザインの変化を楽しめる椅子になります。
再生ペットボトルを使用したカーテン
また、プロジェクトにはテキスタイルデザイナーの堤有希さんの協力で、カーテンもオリジナルで製作を行いました。
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再生ペットボトルを原料とした繊維によるオーガンジーを、クラッシュ加工してつくられたカーテン。
カーテンを通して、光や風を感じられる空間に。
堤さんはプロジェクトについて、
「循環のしっかりしたコンセプトの建物なので、テキスタイルでポリエステルを素材にする場合も回収したペットボトルからできている繊維を用いたり、オフィスビルでは使われることが少ないのですが、出来るだけ天然素材を使って環境負荷の少ないものを目指しています。
メンテナンスを考えると、オフィスではカーテンは避けられがちではあるのですが、この建物では、素材のストーリーや風合いを良さとして使っていただけることになりました。」
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(社員と一緒に、クリエイターも土壁を塗ることにも参加した時の堤さんの様子)
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(麻のカーテンと社員が塗装した打ち合わせ用デスク。)
様々なクリエイターとの協働で、「循環」を建物と家具に落とし込み、「人にも自然にも良い循環を生む」ことを目指したオフィス。
9月16日、いよいよプロジェクトが完成を迎えました。
竣工の様子は、次回の記事で!
text, photo by Michiko Sato
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