『DX CX SX』 作者:八子 知礼
世は万物流転。
「ビッグデータ」と言う言葉が散々喧伝されたのは2010年代前半のこと。一昔前だ。
兎に角、何かの役に立つかもしれないからデータは採っておけ。そういう「何がなんでもIoT」と言う時代は過ぎ去った。「データ主導」ではなく、目的ありきのデータ収集でなければ、活用化されることなく無駄骨になり、更には、維持管理するコスト増をいたずらに招くこととなる。
そして目的は、部分最適より常にビジネス全体最適に重きを置くべきだ。理由は簡単な話。部分最適だけでは、工程のどこかで1点でも最適化漏れがあれば、そこがボトルネックとなる。その箇所に合わせて全ての工程がペースダウンしてしまうからだ。
現代の社会では様々なモノゴトがネットワークで繋がって、データが相互にやりとりされることで成り立っている。一部分にこだわっていては問題は解決しない。
そして、DX(デジタル・トランスフォーメーション)を、単純なデジタル活用や、今までのIT化の延長と混同してはいけない。
DXの本質とは、企業やビジネスを様々な外圧や変化に耐えられる様に柔軟に変化出来る姿に「トランスフォーム(変革、変容)」することであり、「デジタル」は、その手段に過ぎない。デジタル技術を活用してビジネスモデルや商材、業務プロセス、企業カルチャー、そして企業のあり方そのものを変えることがDXなのだ。
先行きが分かり難いVUCA(Volatility 〈変動性・不安定さ〉、Uncertainly 〈不確実性・不確定さ〉、Complexity〈複雑性〉、Ambiguity〈曖昧性・不明確さ〉)の時代だからこそ、「ダイナミック・ケイパビリティ(環境や状況が激しく変化する中で、企業がその変化に対応して自己を変革する能力)」を企業は備えるべきなのだ。
と、まぁ、著者は、これまでの経験も踏まえ、DXに関する総論、各論、手法、具体例、さらには取り組むに当たって起こり得る問題や障害と、その解決策についてもあれこれ詳述する。
その内容は実に細やかで真摯だ。
また、著者が類推する、今後20年のトレンドを読む上での観点は、以下の5つに大別出来るそうだ。
1.現実世界の仮想化
2.仮想世界のリアル化
3.業界の境目がなくなる
4.リモート化が進行する
5.SDGsとESG経営
そして、幾つかの強調される言葉やツールも非道く印象的だ。
「デジタルツイン」
「魔のデッドロック」
「境目」
「バックキャスト」
なかでも、あらゆるビジネスシーンでデジタルツインが実現すると「業界」という定義が無意味なものになる、と言う見方は実に興味深い。
そして、DX化を進め、まず社内で活用し、そのデータ、システム、技術などを外販出来る様にまでなれば、新たなプラットフォームを生み出し、自らの事業領域を拡げることも可能となるのだということは、なかなかDX化を推し進めることが出来ない企業には僥倖だろう。
人口減少の一途を辿る日本。だからこそDX化は必然だ。
なぜデジタル化、どうしてDX化をすべきなのか。
本書はそれをロジカルに教えてくれる。
「唯一生き残るのは、変化に適応して変化するものである」(チャールズ・ダーウィン「種の起源」より)
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