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〈「本」をめぐる旅③〉透明書店@東京 蔵前
都営大江戸線の蔵前駅から、歩いて1分ほど。ガラス張りの外観がスタイリッシュな「透明書店」が見えてきます。
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店内に一歩入ると、並んでいるのは約3,000冊の書籍。数人のお客様が、思い思いに本を手に取ったり、背表紙を眺めたりしています。
ふと目についたのは、入口横にある「くらげAI」のモニター。
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キーボードでメッセージを打ち込むと、透明書店のキャラクターであるくらげとのチャットを楽しめるようになっています。天気などの雑談ができたり、おすすめの書籍を提案してくれたり、探している本の情報を詳しく教えてくれたり。接客などをサポートする「副店長」として活躍中です。
ここ透明書店は、クラウド会計ソフトなどを提供するフリー株式会社が始めたお店。「スモールビジネスをより深く体感したい」という思いから、さまざまな実験の場として透明書店を活用しています。くらげのAIは、その代表的な例ともいえるユニークな取り組みです。
◆キーワードから連想される本棚
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さて、本を見ていきましょう。
店内中央に見つけたのは、透明書店をあらわす書籍を並べた棚。「透明」「楽しさ」「自由」「スモール」などのキーワードから連想した本が並びます。
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さらにぐるりと見回すと、他の書店とはちょっと異なるラインナップに気づきます。リトルプレスやZINEがたくさん並んでいるのです。
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「リトルプレス」とは、 個人作家や少人数の作家グループなどが、制作から流通までを手がける書籍や雑誌のこと。取り扱っている書店が限られているので、他ではなかなか手に入らない1冊に出会えそうです。
◆ベーシストから店長へ
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店長の遠井大輔さんに、お話を聞きました。遠井さんは、透明書店の店長になるまでは音楽業界にいたそう。ベーシストから書店員という異色の転身は、本好きの遠井さんにとって念願でした。
遠井さん:
「学生時代から人文系の書籍や現代文学が大好きだったので、いつかは本屋で働きたいと思っていたんです。新型コロナウイルスの影響もあり、音楽業界から一旦離れようかと考えていたときに、透明書店の求人に出会いました」
まずは下北沢にある独立系書店「本屋B&B」で“研修”として勤務。学んだノウハウを活かしながら、より魅力的なお店になるように試行錯誤を重ねてきました。
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遠井さん:
「透明書店は、2024年4月で1周年を迎えました。この1年、棚の配置を変えたり、さまざまなイベントを行なったりしながら、透明書店らしさを探ってきました。最近力を入れているリトルプレスも、当店がたどり着いたひとつの個性です。
リトルプレスは、取次会社を介さずに独自で仕入れるので、やりとりにひと手間多くかかります。しかしその分、発行者さんや作家さんの思いを直接聞けるのがいいところ。リトルプレスを扱う醍醐味ですし、なくしたくない手間です」
最近は、作家さんがお店に直接持ち込んで「このリトルプレスを取り扱ってくれませんか?」と相談してくれることもあるそう。透明書店の個性が、じわじわと浸透しています。
遠井さん:
「この1年、本当にたくさんのお客様に支えられてきました。振り返ると、店長になったばかりの頃は、すごく大変でしたね。スタートして半年ほどは、夏という季節柄もあってか売上が落ち込んでいていて、自分たちがやっていることが全然届いていないんじゃないかと不安になることもありました。
でも最近は、定期的に来てくださるお客様も、初めて来てくださるお客様もたくさんいらっしゃいます。「ここで本を探すのが楽しい」と言ってくださる方もいて、店長としてすごく嬉しい。お客様のお陰で、自分がお店をやっているという実感が、ようやく、本当の意味で得られるようになってきました」
◆そんな遠井店長の「おすすめ本」は!?
最後に、そんな遠井店長に、おすすめ本を聞きました。
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遠井さん:
「今のイチオシは、秋峰善さんの『夏葉社日記』(秋月圓)です。著者の秋(しゅう)さんは、もともと出版社に勤めたのですが思うようにいかず、少しのお休みを経て、大ファンだった島田潤一郎さんがひとりで営む出版社である「夏葉社」で働きはじめました。この本は、夏葉社で働いた約1年間の日々を綴ったものです。ブログで公開していた各エピソードを加筆修正し、編集も手掛け、しかもご自身でひとり出版社を立ち上げた上で世に出したんです」
遠井さんはある日偶然、秋さんのブログを見つけて、そのなかに描かれる島田さんやその周囲の人々の言葉、そして秋さんの率直で熱い気持ちがこもった文章に夢中になったそうです。
そのため書籍化されると聞いてすぐに注文し、透明書店でのイベントの開催も決まりました。ぜひ、店頭で手にとってみてくださいね。(※現在品切れ中、4/27頃再入荷予定。イベントは5/11→自分の頭と体と経験のすべてを -『夏葉社日記』(秋月圓)発売記念 -)
◆「棚貸し事業」もスタート!
1周年を迎えた透明書店。周年企画としてこれまでの売れ筋本を展開したり、イベントを開催したり、盛り上がっているところです。さらに、棚主を募り各々が選んだ書籍を販売する「棚貸し事業」も始める予定。かたちを変えながら、これからも動き続けていきます。
浅草の喧騒からすこし離れたエリアに足を伸ばしたら、和やかでほっこりする時間を過ごすことができました。
(文責:安岡晴香)
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