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北九ブッカーズ

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北国の人間が一度も行ったことのない北九州の写真を見ながら様々な妄想を抱いていく異色プロジェクト。 参考写真:http://kitaq-gmtfoto.blogspot.jp/20…
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#短編

門司港駅の怪人

門司港駅の怪人



 まことしやかに、うわさが立った。最初はとても曖昧だったが、徐々に見る者も多くなった。うわさが尾びれをつけるものとは明らかに違う。

 門司港駅の駅員の間で、ホームに日に二度、赤いコートの女が立つとのことだった。

 何故一乗客のことが噂になったかと言うと、春夏秋冬決まってコートを着ている、と言うのだ。だが夏近い頃と、秋ごろには出てこないのだと言う。

 冬や春先、秋の終わりならばコートも気に

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にゃんとした生き方

にゃんとした生き方



 一匹狼。いや、一匹猫だった。
 影からそろりと日向に出る。ビルや建物の直線が切り取り彩った影と光の中、一瞬だけ自分を押し殺したように歩いていく。
「そういや、最近ミケのやつを見かけにゃいな。俺にも何度も突っかかってきやがって。随分と目つきの悪いやつにゃったが……。あんな見てくれから喧嘩っ早そうなにゃつは、どっかのボス猫にでもコテンパンにされて街を去ってるだろうにゃ」
 一匹猫は斜に構える。音

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向日葵(中文版)

向日葵(中文版)



 我亲爱的弟弟。你看过我的作品了吗?璀璨的世界照射着人们、树木、鸟儿和我。
 在这耀眼的世界里,我的烦恼终于渐渐加深。毫无疑问,你看过的这幅作品是我这一生中最杰出的画作。
 在这美丽的世界里,我抑制不住地想要成为丑陋的存在。
 为何无人理会我的作品?我的有些朋友,像是阿谀奉承似的地夸奖了我本人,却对我的作品毫不理睬。我的生活已经逐渐达到痛苦的巅峰。
 难道说,艺术不值得人们付出金钱吗?在这个任

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序



我在思考,「旅人」和「旅行者」二者之間有怎樣的區別。
這兩個詞在字典上的意思是相同的。然而,當「旅人」這個詞讀作 たびにん 的時候,它的釋義中出現了「賭徒」和「江湖商人」等詞語。
「江湖商人」又被稱為「攤販子」。現在提起「攤販子」,我們可能會想起那些在祭典上經營章魚燒和炒麵小攤的小販。他們長得有點像黑社會的人,還因「賣蟾蜍軟膏」等事為人們所熟知。
那麼,舊時的「賭徒」和「江湖商人」擁

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優しさの花

優しさの花



 打ちのめされた精神には、立ち上がるための気力さえもなかった。
「何故正しいことをしようとしたのに、逆に排せられなければいけないのか」
 太が考えた「正義の代償」は、窓際族よりも激しい差別だった。結局、仕事を続けることもできず、会社を退社することになった。
 体が重かった。歩くのも、体を引きずっているようで心が重力を何倍も感じているようだった。地面に擦り減った体のシミがべっとりとついていくよう

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秘め蛍

秘め蛍



 将和は努力や実力を中心とした成果主義の場所で生きてきたため宗教的な慣習、初詣すらも行かない人間だったが、前の仕事を突然辞め、北九州に響子と一緒に暮らすようになってからは休みの日を利用して、よく出かけるようになった。
 妻の響子は結婚当初から子供が欲しいと願っていたが、十二年間叶わず仕舞いだった。いつか、とは思っていたが多少の焦りもある。しかし一度決めたら変えない夫の性格を思うと強くは伝えられ

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途切れた雲

途切れた雲



  門司港が旅の終わりだった。

  ただ一作。中編の小説で、生涯名の売れなかった作家が残したものだった。

  祖父が老衰でついに亡くなり、遺した一軒家に僕が移り住むことになったのだけれど、家の中を掃除している時に階段下の物置からダンボールが見つかった。

 中には母親の中学生時代の日記。

  まさか自分より年下の時の母の日記が読めるとも思わず、いけないと思いつつ読んでいったけれど、随分と

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写真家の感性

写真家の感性



 高梨写真スタジオの高梨徹は魚町銀天街の西側、柴川添いに店を構えていた。

 今は携帯電話やデジタルカメラが日常のものとなり、皆が写真を撮るようになったため、スタジオだけで食っていくには厳しく、結婚式や各種催事への出張等で凌いでいた。

 たまに個展を開いたり写真集を出したりするが、生活の足しになる程度だった。

 高梨は昼休みには必ず小倉城へ散歩に行く。

 スタジオから歩いて十分ほどで着く

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うなずくはまゆう

うなずくはまゆう



 一度覚えてしまった悦びは、消えることなく。

 足りず求めてしまう衝動を、唇を噛んで耐え切って。

 心配がないにもかかわらず、最後に会った日から初めての生理に、少し残念になったり、ほっとしたり。

 夏も感じられる熱の中、はまゆうの花が咲いていて、彼岸花に似たその花は、白く吹き出たように花びらを垂らしていて、あなたの熱を思い出す。

 どこか遠くへ行ってしまいたい。あなたと。

 潮風に揺

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恋と秋桜

恋と秋桜



 お父さんから聞かされても圭吾はイマイチわからなかった。

 電子レンジで温められた、いつものウナギを食べさせられたが、お父さんが買ってきたウナギ以外は食べたことがない。

「お父さんな、圭吾が生まれる前から、このウナギ屋さんで買っててな。ここ以外のは買わないって決めてたんだけど、閉店で、もう、買えなくなっちゃったんだ。せっかくおいしいウナギだったのにな。残念だな。食べられなくなっちゃうんだな

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彼岸甚远

彼岸甚远



  渡河到對岸是費力的。

河水的流速快時,渡河本就艱難。而流速看似和緩時,由於河床地勢起伏,偶爾會出現水流翻騰的地方,即使是游泳健將也有受困之時。

淺水處也有溺水的危險,正是在那些看不到的地方,潛藏著令人無法想象的東西。

在觀察從未見過的事物時,我們會想象。拼命地想象,比如說,有些人深信,彼岸存在著與此岸截然不同的某種事物。

時代的變遷帶給人類便利,使人們對於彼

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無頓着な女

無頓着な女



 おしゃべりで悪意はないはずなのに、人の秘密を共有することで皆運命共同体のように勘違いする女がいた。

 成宮璃理は一人っ子で友達の作り方がわからなかった。父母とも仕事で留守をしがちなのに、幼稚園の頃から家事はおしつけられるようにして受け持っていた。嫌われないことが一番居心地がいいと知った。

 小学二年生の頃、誰かの秘密を一番有力な女子グループに打ち明けることで、小さないじめを避けられたこと

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老いてもなお咲き誇り

 JR小倉駅から十分も歩けば勝山公園がある。

 中には慶長七年(千六百二年)に細川忠興が築城した唐造の城がある。この「唐」とは、海外の新しい様式という意味だ。石垣は自然石をそのまま積む「野面積み」の技法である。

 しかし天守閣は失火により焼失し現在は鉄筋コンクリートとなっている。

 四月にもなると堀の周囲などに植えてある桜が咲き乱れ、花見客で賑わう場所となるのだが、白髪交じりの男二人、丸太に

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向こう岸までが遠く

向こう岸までが遠く



 向こう岸に渡るには労力がいる。

 川の流れが速かったら大変だし、流れが穏やかに見えても深さがあると、川底の地形によって流れが妙にうねる場所があり、泳ぎの達者なものでも足が取られたりする。

 浅く見えても時に溺れる時だってあるから、見えない場所にこそ想像できない何かが潜んでいるものだ。

 見知らぬものを眺める時、俺たちは想像をする。懸命に想像をして、例えば向こう岸にはこちらとは別の何かが

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