見出し画像

KSJ2023北海道大会の全テキスト公開~はじめてのKSJに向けて

こんばんは。朝伊ミチルです。
ついにKSJ(コトバスラムジャパン)北海道大会まであと一週間というところに迫ってきました。
今日は2022年の全国大会を観て、大会を理解し、ライバルを研究し、やる気モチベーションを上げまくってきたところです。
さて、KSJではほぼ新参者の私。テキストをこの場で全文公開する前に、簡単に自己紹介したいと思います。

私はプロの小説家になりたいと志し、文芸誌の新人賞など全国や全道の文学賞に作品を書いて応募し、ローカル新聞の賞ですが十勝毎日新聞社の「郷土作家アンソロジー」にて二回、優秀受賞し、十勝毎日新聞に掲載されました。まだまだ志半ばです。KSJが終わったら、そろそろ投稿用の中編小説でもまた新しく書かなきゃな、といったところです。
去年と今年は、各地の文学フリマに出店していました。5月に文学フリマ東京、6月に文学フリマ岩手、そして7月に文学フリマ札幌。大忙しでした。
うまくいくことも、うまくいかないことも、たくさん経験しましたが、とにかくアウェイな場所であっても自分の作品を世に問う体験の繰り返しです。

詩を書き始めたのは、小説を書きだす前にも音楽活動をしていたこともあって多少やっていたのですが、本格的に小説を書くようになって文学フリマなどに出店するようになってからも「朝伊さんの作品には興味はあるけど自分は小説を読むのが苦手」という仲間が少なからずおり、そういう人たちにも自分の表現を届けられないか、と思ったことがきっかけです。
おもに、KSJ北海道大会の舞台でもある「俊カフェ」さんが出している冊子「ツヅル」に作品を寄稿していて、第06号、第07号に掲載されています。また、「詩展(うたよみに与ふる處)」という詩の展示にも作品を出して、札幌だけでなくオホーツク、釧路でも出展させていただきました。

朗読の経験については、詩展のパフォーマンスをはじめ、過去に「北の病展」というアートの展示に何年も出展させていただいており、その際に札幌の即興音楽シーンのミュージシャンとセッションしながら、自作小説の朗読パフォーマンスを披露していた経験があります。しかし、KSJ北海道大会に出る他の皆さんに比べれば、まだまだ経験値が低いと言わざるを得ません。

過去には大学生の頃、オルタナティブロックのバンドを組んで活動をして作詞作曲をしたり歌ったり、コロナ禍の前くらいまではギター弾き語りでオープンマイク活動をやったりもしていました。そのとき「作詞」をしていたことが、詩を作るうえで大きなヒントや経験になっています。

そんな私の作品をいよいよ公開していきます。



アガル(コトバスラムバージョン)

まるでうちのめされた気分でも高く飛ぶことができる
って ブンブンサテライツが静かにうたったから
内輪受けで中途半端な住み慣れた街がいい加減イヤになって
今すぐにここから飛び出すって決めたんだ
想いを下手くそなパッキングでスーツケースにめいっぱい詰め込んで
慣れない飛行機で ガイドブック片手に 東京にやって来た
東京の街の中で一人きりで盛大に迷子 それでも あきらめないのは
あり得ないことをさんざん並べ立てたあとからの
なぁ そうなんないなんて誰が言える?
って クレバがラウドにうたったから
一万人の来場者が大手のブース目がけてすり抜けてった
全ての努力は空回りで独りぼっちのブースで皆がすり抜けてった
だけど こんなちっぽけな私を信じて来てくれる人もいたのは事実なんだ
うちのめされ、地に突きつけられても 東京への憧れが消えなかった
心のままに生きられる場所 それがもしこの街じゃなくて東京なら
強い野心を殺すな 今住み慣れた街で嫌われることを恐れるな
誰にも嫌われないように常に自分を抑えて生きていくのはもうやめちまえ
東京が夢の到達点で何もかも叶うとは思わないけど
もし迷ってるなら チャンスが来たら なりたいって思う方のものを選べ
自分の非力さを知ってうちのめされた今 それでも突き上がるこの夢は
高く高く飛びたいという願いは もう誰にも止められやしない

歌詞の引用 
BOOM BOOM SATELLITES ANOTHER PERFECT DAY
KREVA ストロングスタイル


まずは一回戦突破をめざす作品の一作目「アガル」。
去年、今年と二度にわたり東京に行き、文学フリマで作品を出したときに思ったこと(主に悔しさや上昇志向)を詩にしたものです。
タイトルに「コトバスラムバージョン」としてあるのは、東京に対しての気持ちやこれからの夢がまだまだいろいろ膨らんでいる最中、揺れている最中で、これから更新するけれどKSJ北海道大会ではとりあえずこれでいきますよ、といった意味です。
「ツヅル」最新刊に寄稿する予定ですがおそらく今書いたようにまだまだ推敲します。KSJ北海道大会に出るまでにも細かい部分を変える可能性があります。(7月30日、改稿しました)
ちなみに、BOOM BOOM SATELLITESの楽曲からタイトルをお借りしてつくった短編小説『ANOTHER PERFRCT DAY』を、文学フリマ岩手のアンソロジー『イーハトーヴの夢列車 三号車』に寄稿し、掲載されています。各地の文学フリマで見かけた際にはよろしくお願いします。

故郷のメロディ

故郷のメロディ 流れてくるよ
さわがしい都会での戦場のような暮らしに疲れたとき
不意に訪れた 生まれ育ったこの町で
流れ落ちる涙のようなささやかな旋律
若かりし頃の苦しかった無数の思い出は
いつしか記憶や輪郭が薄らいでいって
例えば学校の近くのスポーツセンターで
ソフトテニスをしているときに流れた 十八時を知らせる鐘の音や
あの学び舎や あの町役場や 新しく建ったサウナまである町営浴場や
夭折の木彫り職人が彫ったクマのいるホテルや
皆で遊んだ川辺や 森の中や
そんな旧くて新しい町の中に 流れるメロディ
例えばこの町で私が子どもを育てたら
きっとたくさんの町の人が助けてくれるだろう
例えばこの町で大切な人と一緒に暮らしたら……

私には都会で成し遂げたい大切な夢があるから
ここに今 暮らすのは後回しにする
けれどもう少ししたら 夢への旅がひと段落したら
きっとこの懐かしくて知ってる大切な町に戻ってきて
人生を引き受ける

故郷のメロディ 今、そっと口ずさんでみる

続いては「アガル」と対になる作品で、「ツヅル」の最新刊に寄稿する予定の作品「故郷のメロディ」。こちらも一回戦にて披露する予定です。
この作品は、私の父で木彫り職人・伊藤幹男(みきおさん)の三回忌の際に北海道・十勝管内上士幌町という私の故郷に戻ったとき、芽生えた気持ちを書いたものです。
東京、岩手と遠征が続き、特に岩手に行った翌週に上士幌に帰るという超ハードスケジュールで、それが終わったらすぐに文学フリマ札幌の準備に取り掛からなければならないという、心身ともに疲弊しきったタイミングで帰省した故郷に対して覚えた感慨をうたいました。


みきおさんの詩(うた) ~亡き父・伊藤幹男に捧ぐ~

一九五〇年二月十日 
北海道の十勝管内新得町という とても寒い町で みきおさんは産まれた
木の幹に男と書いて みきおさん
この世に生を受けた瞬間に 人生は既に決まっていた

すくすくと育っていくみきおさんが
彫刻刀を手に取り 木を彫り始めるのは すぐだった
あっという間に木を彫ることにのめり込み
上士幌町の木彫りの先生に師事し 通信制の高校を卒業して
木彫りのクマやフクロウの作品を阿寒町のお店に売るようになった
そして小さな一軒家を建てるまでになった
大きな薪ストーブにソファ ささやかながら草木生い茂る庭
離れには仕事場の小屋を作った
やがてお見合いで奥さんをもらって 二人の子どもが産まれた
何もかも手にしたようなみきおさん
毎日夢中で 木を 彫って 彫って 彫りつづけた

四人家族で生活していくにはもっともっとお金が必要だから
生活のため 木を彫るだけでなく 木こりになって木を切るようになった
毎日朝から晩まで木を切って 切って 切りつづけて働いた
木を彫る時間は疲れきって帰った夜と週末しかなかった
それでも生活のため 周りの人のため 土曜日、日曜日にも働いた
木彫りのクマにはいつしか 古臭い、悪いイメージがついていた
誰もみきおさんの本当の仕事を知らず 見に来る人もいなかった
木彫りをしている人も 近所の人も みきおさんのことを知らなかった
それでもみきおさんには木を彫り続けることしかできなかった
毎日夢中で 木を 彫って 彫って 彫りつづけた

人一倍元気だったみきおさんはやがてがんになり
気がついたら手の施しようもなくなっていた
そんなとき みきおさんの仕事場に木こり仲間の青年たちがやってきて
「みきおさんの本を作りませんか?」と言ってくれた
話は膨らみ 本はもちろん 帯広市の六花亭で個展を開くまでになった
みんながみきおさんの木彫りのクマを求めてやってくる
そんなときみきおさんの命はあとほんの少ししか残されていなかった
新聞に載って「こんな人が上士幌町にいたんだね」と評判になった
七十一歳で息を引き取るまで 木を 彫って 彫って 彫りつづけた
みきおさんは 出来上がった本でこう言った
「皆さんも、自分の好きなことは、ぜひやりつづけてください。
いつか必ず、いいことがあると思いますよ。」

全てを失い 命を捨てようと身を投げかけたそのとき
不意にみきおさんの言葉を思い出した私は みきおさんの娘である私は
生きることをやめることをやめて 書きつづけることを選んだ
みきおさんが彫りつづけたように 私も今 書いて 書いて 書いている

参考文献 『みきおさんのクマ本』
出版:ワンズプロダクツ 文:コジマノリユキ

この詩はさきに書いた、私の父で木彫り職人の伊藤幹男(みきおさん)の人生をうたったものです。
ツヅル07号に掲載され、詩展にも出展し、札幌、オホーツク、釧路などで多くの方にささやかながら「感動した」と言っていただけた作品です。
披露するタイミングは今のところ決勝戦に出られたときを考えていますが、もしかしたら一回戦で出すかもしれません。
多くの人の前で「みきおさんの詩」を読みたい、全国に届けたい、というのが、ライム未体験でKSJ北海道大会に出るという大きな決断をするきっかけでした。

十二月二十日

全てを失うのとこれからはじめるのが表裏一体

十二月二十日に私は生まれた
冬に慣れすぎる前 冬服が着られる時期 冬が物珍しい時
クリスマスと年末年始に誕生日が混じるワクワクするような時
寒風吹きすさぶ容赦ない季節
そんな厳しくて混沌とした頃に 私は生まれた

何か大きなワクワクするようなことがしたかった
漫画家になりたかった ミュージシャンになりたかった
漫画を描いて 歌を作って歌って
十勝の小さな田舎の街と閉塞的な家庭から抜け出したかった
大学進学で札幌に出て 壁にぶつかった
漫画家にもミュージシャンにもなれないままで
就職氷河期で正社員の職にもありつけず 職を転々とする日々
やがて心身を病み 働けなくなって 転落した私は
堕ちて 堕ちて 堕ちるところまでまっさかさま
十年あまりをかけて心身のリハビリに挑み やっと人並みに近づいたけど
貧困からずっと抜け出せないままで
職場では周りからいつも腫れ物扱い 毎日ひとりぼっち
誕生日を重ねるほどに もう若くもなくなっていって
感情の起伏が激しくて自分を制御できないままで
もうこの人しかいないと信じた人にも捨てられた
赤子のように泣いて泣いても足りないほどの絶望
もう死んでやる そう決めた
もう明日なんていらないとマンションから身を投げようとしたそのとき
私の小説が 小さな文学賞を再び受賞したという報せが届いた

全てを失うのとこれからはじめるのが表裏一体

新しく塗り直す 生まれ直す
キリのよい頃合いで 私は人生のちょうど折り返し地点を迎える
四十回目の誕生日
もうこれ以上苦しくなりようもない 苦しみのどん底が底を打った感じ
そしてもう人並みに恋愛しようとか結婚しようとかもがかなくてもいい
人並みなんかもう目指すな 自分は自分でいい 感情的なままでいろ

この苦しみには価値がある
この止まない寒さに意味があるように
寒風吹きすさぶ星の下に生まれ落ちたのだから
きっと死ぬまで苦しいままだ
それでも 死ぬまでこの苦しみを 十二月二十日の凍えるような痛みを
抱えて抱きしめて生きていくのだろう
死ぬまで 気が狂うまで生きてやる
心の中に飼ってる獣を氷の上に解き放って舞い踊れ 踊り狂え
命の灯 燃やし尽くして 雪原の大地に還すまで

頭の中は常にパーティーピープル
何か大きなワクワクするようなデカいことやってやろうぜ


この詩は、ほかの作品に比べれば拙い出来なのですが、朗読してみるとライムの場と相性が良さそう、エモーショナルに読めそう、と感じて引っ張り出してきました。
十二月二十日、私の誕生日に思ったことをうたいました。
私の自己紹介のような詩です。

今回披露する私の詩は、「みきおさんの詩」がツヅル07号に掲載されて俊カフェさんで入手できるほか、「アガル/故郷のメロディ」はこれからつくられるツヅルの新刊に寄稿する予定で準備を進めています。
「みきおさんの詩」「十二月二十日」の二作品については、私が同人誌として制作し、文学フリマ札幌で初発した冊子「朝伊ミチル 短い文」に掲載しました。(今現在まだ作業が進んでませんが)BOOTHにて販売していきます。もしうっかり忘れなければ何冊か、KSJ北海道大会にも持っていこうと思っていますので、読んでみたい方、欲しい方はぜひお声掛けください。
作品を手に取りたい方、よりじっくりと読みたい方はそちらもよろしくお願いします。

最後に意気込みを。
一回戦で、全国大会に何度も出られている方と一緒になり、その壁を破ることは99.9%くらいは難しいのではないか?と思っています。
しかし皆さんの応援でその「0.1%」を起こせないか?と努力や研究を重ねているところです。仮に北海道大会が一回戦負けでも、敗者復活戦大会に出られないか?と考えています。
なんといってもこれが初挑戦。
勝手もわからないまま一人で東京や岩手に行って文学フリマで売れない自作小説を山ほど抱えて飛び出すよりは少しはマシなはずです。
とにかくやってみようと思います。
一回戦のライバルのお二人の胸を借りるつもりで、できればぶっ潰すつもりで、少しでも爪痕を残せるよう挑みます。

よろしくお願いします。

この記事が参加している募集

いつの日か小説や文章で食べていくことを夢見て毎日頑張っています。いただいたサポートを執筆に活かします。