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CAの世界にもある陰湿ないじめや意地悪の“人生に役立つ”切り抜け方を元チーフパーサーが伝授

 憧れの職業の一つであるCA(キャビン・アテンダント)。華やかな仕事に見えますが、実情は全く異なる、ある意味軍隊のような世界だと語るのは、日本航空に25年間CAとして勤め、チーフパーサーや、CA教官も務めた山本洋子さん。『一流のメンタル 100の習慣』(朝日新聞出版)を刊行した山本さんが経験してきた先輩CAによるイジメや意地悪とその対処法について寄稿してくれました。

■CAは実は軍隊のように過酷な世界

 時代と共に変わってきてはいますが、CAの職場環境は基本的には過酷です。職場での厳しい上下関係、理不尽なお客様への対応、万が一の不測の事態に備え、常に緊張も強いられます。国際線では時差と闘い、見えないウイルスとは常に隣り合わせ、砂漠のように乾燥した機内で夜通し化粧も落とさず笑顔を振りまくという、身体的にも美容的にも厳しい環境で毎日を送っているのです。

 そんな職場環境で、すべてのCAが折れないメンタルを身につけているかと言えば、そうではありません。なかには、人間関係に疲れ、体力的にも精神的にも追い込まれ、体調を崩すCAも少なくありません。裏舞台を感じさせず優雅に振る舞うには、少々のことでは凹まないメンタルを手に入れなければ身が持ちません。

 今でこそ私も、少々のことではめげない打たれ強いメンタルが身につきましたが、CAになりたての頃は職場の人間関係に疲れ、フライトに出るのが嫌になるような経験をしてまいりました。

 最初に経験するのが、先輩CAからのいじめです。私が新人の頃は、今より先輩後輩の上下関係が厳しく、同じ年に入社しても、1日でも早くCAとしてデビューした者が先輩として扱われる世界でした。同年に入社した450名が1クラス20名に分けられ、その20名が同期として共に訓練を受けるのですが、人数が多いため、入社時期も月単位で違っていました。そして、期番が1期でも違うと後輩は虫けら扱いです。

 同年入社の中ですら上下関係ができるのですから、年次が上の先輩の言うことは絶対です。直接反論をしようものならこてんぱんに攻撃されるので、言いたいことは言えません。かといって黙っていたらますます攻撃がエスカレートしていきます。

山本洋子著『一流のメンタル 100の習慣』(朝日新聞出版)

■ステイ先のホテルで、5時間の反省会

 つらかったのは、ステイ先ホテルの先輩の部屋に召集される反省会です。滞在時の自由な時間に、フライトでの振舞いを厳しく指摘され、反省させられるのです。そして次回のフライトの目標を述べさせられ、解放されると思いきや、続けて業務知識の確認です。

 当時のエコノミークラスはお酒や映画が有料で、機内で使用できる通貨も15種類くらいありました。ヨーロッパの通貨がユーロに統一される今から30年以上前のこと、フランスフラン、イタリアリラ、ドイツマルクなど国ごとに通貨が異なるので種類も多く、換算レートも一か月単位で変わります。だからその都度日本円とUSドルに換算しなければいけません。

「ビールはフランスフランでいくら?」とお客様に聞かれたら、即座にお応えしなければいけません。それを通貨ごとに表にして換算表を作るのですが、そこに先輩の厳しいチェックが入ります。ビールをフランスフランでいくら?はまだ可愛い質問です。

「今、2フラン残ってるんだけど、これで免税品を買いたいんです。足りない分はUSドルで支払います。おつりは日本円でお願いします」なんて言われると、たちまちパニックです。それを即答できないと、先輩に叱られるのです。ある種の拷問のような勉強会が長いときだと4~5時間、延々と続きます。

 今そのようなことをやってしまうと時間外労働で、逆に訴えられてしまいますが、当時は当たり前のように行われていました。

■ハンドバックにジュースが…

 勉強会はまだ仕事の役には立ったのですが、質の悪いいじめもありました。

 例えば、機内サービスで着用するエプロンを隠す、さらに悪質なものはハンドバッグにジュースを入れる……など目を疑うようないじめ行為です。

 髪型を変えても、「男性を意識したヘアスタイルに変えたのね」などと嫌味を言われる始末です。今では笑い話として受け流すことができるのですが、当時はつらく受け止めていた毎日です。

 エプロンがないとサービスにも支障がでます。この時は同僚にエプロンをお借りして事なきを得ましたが、このようないじめを受けて、落ち込み涙するCAもたくさんいるのです。

 理不尽ないじめへの対処法は、まともに取り合わないことです。悔しくても、仕返ししてやろうなどとは思わず黙ってやり過ごすのです。それは泣き寝入りではなく、稚拙ないじめに対しては同じレベルになり下がらないということです。私もエプロンを隠されても、何をされても、何事もなかったかのように振る舞いました。

山本洋子さん

■部下になった先輩CAに足を引っ張られる

 そして一番苦労するのが、自分の役職が上がり、先輩後輩の序列が崩れた時です。今の世の中、年功序列は崩れ、すべて順番通りに先輩から昇進するということはありません。どんな業界でも先輩であろうが、後輩であろうが、その役職に相応しくない人は昇進することはないのです。

 CAの世界でも当然起こり得る話です。6000人ほどいるCAが全員チーフパーサーになれるわけではありません。チーフパーサーは一機の長として客室の責任を任され、パイロットや地上係員と連携しお客様サービスにあたります。配下のCAの指導育成も任されます。いくらフライトの経験が豊富であっても一般のCAとは役割が違います。

 私がチーフパーサーに昇格したとき、部下にあたるCAのなかには、私より10年社歴の古い先輩を筆頭に、複数の先輩CAがいました。10年前に仕事を教えた後輩が、自分の上司になるのです。彼女達にしてみれば面白いわけがありません。

 自分の立場をわきまえた先輩が多いのですが、なかには「お手並み拝見」とばかりに難題を吹きかけてくる人もいます。

 今は機内エンターテイメントサービスが充実し、エコノミークラスでも各座席に個人用テレビが装着されていますが、私がフライトしていた頃は、個人用テレビが普及し始めた頃で、初期トラブルが頻発していました。

 画面がフリーズする、まったく作動しないなど、映画や音楽を楽しみにしていらっしゃるお客様にとっては、不満が募る状況が頻繁に起こっていました。故障は一気に起こります。一斉にコールボタンが押され、あちこちでクレームが噴出します。

 そんな時、CAは連携してお客様対応にあたるのですが、その先輩は我関せず知らん顔。他のCAがお客様にクレームされ、個人用テレビを回復させるために必死で駆けずり回っているときにも一人優雅に食事をしています。最後まで非協力的な態度で、クレーム処理はチーフの仕事だとばかりに手助けもせず、注意をしても、返事はするものの、指示通りには動いてくれません。

 同僚のCAには私の悪口を言う、私の上司には私についての告げ口するなど、やりたい放題です。さすがに精神的にも疲れ果てることが多かったのですが、相手を変えることは簡単にはできません。

■上司の職権を使うのではなく、平然とやるべきことに集中する

 上司だからと言って、職権を使いその場で言うことを聞かせたとしてもそれはその場しのぎです。職権を乱用すると部下との関係性はますますこじれていくばかりです。

 反抗する先輩の部下に対しては、ムキになったり感情をあらわにはせず、やるべきことに集中して、平然と振る舞うよう努めました。つらいことではありますが、その姿勢を貫くとまわりが味方してくれるようになるのです。そんな経験を重ねていくと、自然とメンタルは鍛えられていきます。

 多かれ少なかれCAは職場の人間関係にもまれ、お客様に気を遣い、気持ちが凹む経験を数多くしています。そういった環境に耐えられなくて早々に別の道に進む人も多いですが、実はCAの離職率は高くありません。精神的にも身体的にも過酷な職場ではありますが、長く勤める人が多いのです。

 それは、少しずつメンタルが鍛えられることによって、人間関係も仕事も、人生にも自信が持てるようになるからかもしれません。少しのことでいつまでも思い悩んでいることが無意味に思えるようになるのです。

 打たれ強いメンタルは、生まれつきの資質ではなく、経験によりレベルアップしていく「ビジネススキル」です。そうして手に入れた折れないメンタルは、どんな厳しいビジネスの世界でも生き抜いていく自信を与えてくれるのです。

(山本洋子:株式会社CCI代表取締役。接遇講師・キャリアコンサルタント)

山本洋子(やまもと・ようこ)
株式会社CCI代表取締役。接遇研修講師、キャリアコンサルタント。
元日本航空国際線チーフパーサー、客室マネージャー。 25年間JALに在籍し、国際線チーフパーサーとしてファーストクラスを担当。海部元首相や天皇陛下特別便、MLB選手チャーター便等など、国内外のVIPに接してきた。その間、客室訓練部での教官、CA採用面接官などを務め、サービス品質企画部ではCA評価システム構築に携わり、のべ6000人超のCAの査察評価・育成にあたる。 退職後は 外資系保険会社にて7年間コンサルティング営業に従事。2018年「株式会社CCI」を設立。ビジネスマナー研修や、経営者のためのサロン、キャリア育成講座など幅広く展開する。
HP https://www.carcreintl.com


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