マガジンのカバー画像

ほんの記事

422
朝日新聞出版から発売されている本にまつわる記事です
運営しているクリエイター

2022年10月の記事一覧

【試し読み】櫻木みわさんの最新作『カサンドラのティータイム』/「この物語を必要としていた」「心底励まされた」雑誌掲載時から共感の声が広がる話題作

カサンドラのティータイム 1 友梨奈  照明がまぶしかった。アナベルの花が雪のようにかがやいていた。北アメリカ原産の、アジサイ科の花だった。大きな霧吹きを持った美術係のスタッフが、花と葉に、水をたっぷり吹きかけている。照明の熱から守るための処置だった。花のあまい香りが濃くなった気がしたが、気のせいだったかもしれない。  戸部友梨奈は、カメラ機材の邪魔にならないよう後方のうすぐらい壁際に立ち、照明とカメラが向けられた先を一心にみつめていた。テレビ局の第一報道スタジオ。ニュー

水野美紀 例え雨合羽がパンツだけでも、自分は濡れても我が子は濡らさぬ…雨と親たちの戦い

 雨だ。  ママたちは天気に敏感にアンテナを張っている。装備が増えるからだ。  子供を抱っこして、びしょ濡れで移動しているママを見たことがおありか。ないと推測する。それは、ママがアンテナを張って、 「あめ……来るわ!」  と事前に察知して、しっかり武装しているからである。  私もママチャリのチャイルドシートとカゴには常にカバーを装着し、保育園バッグの中には子供の雨合羽、玄関には大人用雨合羽を準備している。  我が子との移動では、傘をさすという選択肢はない。傘で片手

【あなたの知らないパンダの世界】古代中国の伝承に残るパンダのような不思議な動物とは? 文献からたどるパンダの足あと

■パンダらしき生き物が文献に登場するのは3世紀ごろ ――今は、中国の動物園などに行くとジャイアントパンダ(以下、パンダ)は「大熊猫」「熊猫」と呼ばれていますが、昔からこのような呼び名が使われてきたのでしょうか。  どちらも古くから使われているような印象の呼称ではありません。日本語の「ジャイアントパンダ」や「パンダ」は、中国語からではなく、英語などにおける呼称をそのまま受け入れたものと考えられますが、中国語の「大熊猫」「熊猫」も欧米の名称の訳語であるという指摘があります。そ

いつも同じジャンル・作家の本ばかり読んでしまう方必見!「自分内予定調和」を外す本選び

■私の本との出会い方  あなたが今、読みたい本、気になる本はどんな1冊でしょうか。そのタイトルから、今の自分が見えてくるから不思議です。  仕事スキル系の実用書のように、明確な目的や目標を持ってセレクトする場合もありますし、自分のいる世界とはまったく別世界に誘ってくれる小説ならば、現実から離れたい気分なのかもしれません。  私の毎日に、本は欠かせません。仕事のための調べものをしたり、インタビューなどでお会いする方の著書を読んだりという読書もありますが、ちょっとした時間に

水野美紀がつい二度見… 保育園からの連絡に書かれていた我が子の驚くべき行動

  主食:完食   汁物:完食   主菜:完食   副菜:完食   果物:完食  毎日保育園から携帯のアプリにお知らせが届く。今日の様子、排便の有無、お昼寝の時間など、保育士さんが書き込んで送信してくれるのだ。  特にコメント欄は読むのが楽しみ。 「今日は園庭で遊びました。木の陰からヒョコッと顔を出して、『ばあ!』と、いないいないばあ遊びを楽しんでいました」  といったような、保育園での我が子の様子がわかる内容で、毎日お知らせが届く夕方4時くらいになるとそわそわして、

【あなたの知らないパンダの世界】実は消化不良でほぼフンに それでもパンダがタケを食べる理由

■食べたタケがそんなに素通りして大丈夫? 「パンダは何を食べる?」という質問に対して、今やほとんどの人が「竹」や「笹」と答えると思います。街を歩いていてもパンダのキャラクターが笑顔でタケの葉を食べているポスターやパッケージを目にしますし、子どもたちに絵を描いてもらってもきっとそういうシーンが多いでしょう。それほど「パンダ」→「タケ」というイメージが浸透していることがわかります。  そのイメージどおり、パンダは食べているもののうち、ほぼすべてがタケです。動物園ではリンゴやニ

「親バカにだけはなるまい」と誓った水野美紀 我が子の2度目のクリスマスツリーに懊悩する

 クリスマスが近い。  二子玉川に向かう道すがら、ベビーカーに我が子を乗せ、私は「親バカ」について想いを巡らせている。  我が子にとっては産まれて2度目のクリスマス。とはいえまだ1歳。クリスマスなんてまだ分からない。だから、うちでは特に何の準備もしていない。  ツリーを飾る予定もないし、プレゼントを渡す予定もない。小学校に上がるくらいの頃でいいだろう。  こんなちっちゃい頃から大げさに祝うのは、それこそ親バカだろう。  そんなことより、日々の、こんな何でもないお散歩

【パンダ来日50年】実物を見た日本人がほぼいなかったパンダが上野動物園のアイドルになるまで

■仰天したパンダ来日のニュース  パンダのオス、メス一つがいを贈られることになったとのビッグニュースを見て、上野動物園の浅野三義・園長(以下、役職は当時)と中川志郎・飼育課長はたいへん驚きました。パンダがどこの動物園で飼育されることになるかは発表されませんでしたが、上野が引き受ける可能性を考えてとりあえずパンダ受け入れの準備はしておこうと話し合ったそうです。  現在でこそ誰でも知っている人気者のパンダですが、当時、名前は知っていても実物のパンダを見た日本人はほとんどいませ

水野美紀 子どもが通う保育園に2週間不審者が多発した理由と感嘆した保育士の匠の技

 保育園周辺に、不審者が多発した。  窓の外から腰を屈めて教室を覗き込む者、散歩に出かける園児たちを、一定の距離を保ってつける者。電柱の陰から盗撮する者までいる。  それが、多い時には一度に5、6人も。そして、不審者同士、時々笑顔で言葉を交わしているではないか。  保育士たちは不審者の存在に気づいているようだ。気づきながらも、いつも通りの保育を続けている。  この由々しき事態。  これは、保育園の「公開保育」。学校でいうところの授業参観である。  保育園の授業参観

書店員さんから続々感想が!小川哲『君のクイズ』ついに発売

■『君のクイズ』書店員さん感想集 クイズ番組を見るのが好きだ。クイズは知っている、知らない世界で、そしてそれは時とともに正解が更新されていく。クイズは客観的な外側の世界だと思っていた。この作品を読んでむしろ人生を含む内側の世界じゃないのかと思えた。クイズを見る目が180度変わった。驚くべきミステリーの謎の真実となるほどと、心から感心させられる解釈。こんなことが存在するなんて。 やられた!面白すぎる。 (ジュンク堂書店滋賀草津店 山中真理さん) 『君のクイズ』、とても面白く

水野美紀が「子供抱えながら仕事して大変だね」に反論! もっと大変なのは…

 仕事に復帰して「あれ?」と思ったこと。それは、仕事がラクに感じるようになっていたことだ。  家にいると、常に我が子に目を光らせながら、 「ご飯、何にしよう?」 「食器洗わなきゃ」 「そうだ、ご飯何にしよう?」 「買い物に出なきゃ」 「ひとまず掃除機をかけよう」 「あ、洗濯終わった、洗濯物干さなきゃ」 「お風呂入れなきゃ」 「ワクチンの予約入れなきゃ」 「ああ、携帯チェックしなきゃ」 「セリフを覚えなきゃ」  と、常にてんこ盛りのタスクを背負い込んでいて、自分の睡眠も食