3月「ヨモギが芽吹く頃に」
早春の森を歩いていると、足元に芽吹きはじめたヨモギを見かける
指先でつまむようにそっと触れる
薄黄緑色のとても柔らかい葉
和菓子のような―誰もが良く知っている―春らしい香りがする
ヨモギは草餅に炒め物、汁物の薬味など料理に
煎じてお茶やうがい薬に、そしてヨモギ蒸しと、薬草としても利用される
また、葉の裏には毛が生えていて、それをあつめたのが艾(もぐさ)
日本にヨモギがやってきたのは平安時代
仏教とともに伝来した艾(もぐさ)だったそうだ
魔除けや火薬の原料だった時代もあり
百人一首のなかにも登場していた
渡来してからというもの今に至るまで、とても身近なヨモギ
雛の節句や端午の節句に、草餅を食べた懐かしい想い出がある人は多いだろう
私も子どもの頃は、祖母と一緒に河原へ摘みにいったものだ
大きなザルで洗うと、祖母の手でたくさんのヨモギ餅になった
祖母はいいかげんな歌詞で童揺を歌いながら
楽しそうにヨモギを摘んでいた
適当な祖母のことだ、見分け法など自覚なく、ほぼ直観だったに違いない
それでも、これとあれは違う、それとあれは同じと教えてくれた
私は今でも
幼いころの習慣に従って、ヨモギを摘む
何でも買えば済むこの時代でも、ヨモギだけは摘んでくる
なんとなくそう決めているのだ
人は何かを決めるとき
知らず知らずのうちに想い出に従っていることも、多いのかもしれない
それはやがて習慣となり、マイルールになっていくのだろう
そうすることで想い出を大切にしているのだ
私もきっとそう
ヨモギが芽吹く頃に、祖母を想い出せるように
――
「大切にしたい想い」が守られますように