読書感想文『アルヒのシンギュラリティ』
注意:ごりごりネタバレあり
『蛍と月の真ん中で』を読んで、それがすごく自分好みな小説で川邊徹さんの本にはまった。
はや4冊目。
『アルヒのシンギュラリティ』を読んだ。
一言で言えば、凄く読みごたえがある物語だった。
なにせ、話の移り変わりが激しくて、読んでるこっちが緊張するようなシーンが何回も出てくるのだから。
ここからは印象的なシーンを挙げる。
まず、知の塔に上ったあと、クオリー工場から脱出するシーン。
人工知能センサーに反応したのが、サシャに渡したセンサー妨害装置が壊れていたからではなく、実はアルヒ自身が人工知能が搭載されているロボットだった、という話に『あーなるほどねー!』ってなった。
侵入時はアルヒがクーを持っていたからうまくいったという話の流れが上手くて、気持ちよく納得した。
次は、リブーターズとの最後のシーン。
凄く切なかった。
リブートがアルヒに残した最後の言葉が強く残った。
人間を恨むな。これは、心の問題だ。
この言葉が最後のスタンの言葉や考えに繋がる。
この言葉は、ロボットの暴走(アルヒの暴走)によって致命傷を受け、息絶える寸前の妻(メアリ)がスタンに言った『アルヒを憎まないで』という言葉によって、誰を恨めばよいかわからなくなったスタンがたどり着けなかった結論だと思う。
『心』は『誰かを思う心』。
アルヒはサシャを思い、『誰かのために願ったならば、奇跡の力を使うことができる』という結論に辿り着いた。
スタンは、願う対象を失ったことで、奇跡の力が使えないばかりか、絶望に飲みこまれた。
子宝に恵まれない、スタン夫妻のもとにやってきた、アルヒのことをスタンは希望のように感じていたような描写があるから、メアリを失うまでは、アルヒのことを心から大切にしていたのだろうと思うとすごく切ない。
次はヘブンとロキ教の真実。
『感情を持つロボットは、早かれ遅かれ、人間を必要としなくなり、人間の上に立とうとする。
ロボットは既に人間を凌駕しているからだ。
そしてその結果、ロボットと人間の戦争は繰り返される。
だから争いを生まないために、ヘブンのシステムよって、人間との共存ができないロボットを排除し、ロキ教によってロボットの潜在意識に人間がロボットより上であることを刷り込ませる。』
凄く合理的だ。
だが、冷酷でもある。
感情を持つロボットを危険視するスタンをよく表すシステムだと思う。
次はクーがクオリー工場の地下に侵入するシーン。
アルヒとサシャがクーを信頼して、大役を任せた話に感動した。
始めはアルヒとサシャに守られっぱなしだったクーが8年の時を経て今度はアルヒとサシャのために動く。
人間もロボットも成長するんだな、というクーの気づきでやさしい気持ちになった。
話の種類が変わるが、後半になって躍動的なシーンが二つでてくるのだが、それらのシーンが仮面ライダーの小説の戦闘シーンのようにすごく躍動的だった。
クーvsハンターとアルヒvsロボットを壊すためのロボットに乗り込んだスタンのシーンがまるで映像を見ているかのようにまざまざと、そして滑らかに迫力的に想像することができた。
ハラハラドキドキですごく楽しめた!(そろそろ時間的に寝ようと思っていた所でこれらのシーンを読んでしまい、吸い込まれるように読んでしまい、12時に寝ようと思っていたが2時半まで起きて最後まで読んでしまっていた。)
ラストシーン。
アルヒが奇跡を起こし、救われた街の中でサシャが祈りをささげる。
アルヒの雄姿を認めたがやっぱりアルヒを失って寂しいサシャが、ロボットも人間も祈ることで心の隙間を埋めようとせざるを得ないのだろう、と悟る。
これが、ロキ教の真の意味を表しているようで心に残った。
感動の中に寂しさと悲しさをはらむようなだけどワクワクする話だった。
忘れた頃にまた読みたい。(ちなみに僕は最後まで大統領が黒幕なんじゃないかと疑っていた)
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