19世紀「ジャポニスムブーム」が西洋の巨匠たちに大きく影響?!5作品をご紹介!
ジャポニスム(Japonisme)という言葉を聞いたことはありますか?
19世紀に生まれたフランス語で「日本趣味」という意味の言葉です。
19世紀に欧州で開催された万国博覧会での日本美術出品などを機に、それまでの西洋にはなかった美的感覚を持つ日本美術に注目が集まるようになりました。
その風潮はヨーロッパ広範囲に及び、絵画や家具、ファッションなど、身近な暮らしの中に取り入れられるように。
画家や美術評論家、工芸を専門とするデザイナーなど多くの人々に影響を与えたジャポニスム。では、彼らの作品の中でジャポニスムがどのように影響し、作品に取り入れられたのでしょうか。
実際に、5人の巨匠が「ジャポニスム」をどのように描いたのか紹介します。
キャンバスいっぱいに日本を描いた作品2選
日本で著名なゴッホやモネの巨匠2人は、人生を楽しむ趣味としてジャポニスムを愛したようです。その影響が作品にも全面に表現されています。
作品の背景全面に浮世絵を描いたゴッホ
あの有名なヴィンセント・ヴァン・ゴッホも浮世絵に魅せられた画家の一人です。オランダからパリへ移住後、何百枚も「浮世絵」を収集した彼ですが、そもそも、浮世絵が欧州に知られたのは焼き物などを破損から守るクッション材として箱に入れられた浮世絵がきっかけだったのだとか…。
そんな彼の浮世絵への熱意は作品の収集だけでなく、自身の作品でもジャポニスムを取り入れるようになります。
こちらの作品名《タンギー爺さん》は、ジャポニスムをキャンバスいっぱいに描いた作品のうちの一つです。
ゴッホと親交が深かった画材屋のタンギー爺さんの背景は、富士山や歌舞伎役者、桜などの浮世絵で埋め尽くされています。
また、彼は浮世絵にみられる日本的なモチーフを模倣するだけでなく、浮世絵にみられる「静寂さ」にも関心を寄せていました。
タンギー爺さんをキャンバスの中心に置き、両手を腹部の前に置いたポーズも意図的なもので、穏やかで瞑想を彷彿とさせる様子を描いたのだそう。
一方、平坦な色面が印象的な浮世絵とは対照的に、油彩画の厚みある独特の質感を活かしているため、どこか重厚感を感じます。
日本のエッセンスと彼の独自の手法が取り入れられた作品です。
「西洋版見返り美人」を発表したモネ
印象派を代表するクロード・モネもゴッホと同様に浮世絵を愛した画家の一人です。《睡蓮》で有名な風景画も実は日本庭園からインスピレーションを受けて造園されています。
彼は、自身の多くの作品の中でジャポニスムを取り入れていますが、その手法は様々。日本の小道具を取り入れるだけでなく、彼のジヴェルニーの庭で描いた《睡蓮》の中にも、日本画から影響を受けて反映された構図が隠れているのです。
今回は、ジャポニスムを彷彿とさせるアイテムをキャンバスいっぱいに描いた作品《ラ・ジャポネーズ》をご紹介します。
作品を見るとわかるように、日本の文化を象徴するアイテムをふんだんに使っています。
モネの妻のカミーユは重厚感のある着物を身につけ、右手には扇子を持ち、まるで見返り美人のようなポーズをとっています。実のところ、彼女の地毛はダークカラーですが、ここでは敢えてブロンドカラーのかつらを被っています。また、扇子の色は、青・白・赤のフランスの国旗のカラー。
一方、悠々とした、しとやかな振る舞いをするカミーユとは対照的に、着物に描かれた侍は、黒髪で刀に手をかけ怒っている様子です。色彩や人物の表情に誤差を作ることで、西欧人であるアイデンティティを主張しつつジャポニスムを取り入れ、西洋と日本の2つの要素を組み合わせているのです。
暮らしの身近にジャポニスムが溶け込む様子を描いた作品3選
ジャポニスムの風潮が西洋に広まると、家具、ファッションなど、身近な暮らしの中にも取り入れられ、当時の暮らしの様子を描いた風俗画の中にもそれが散見されます。どのようにジャポニスムが西洋の暮らしに浸透していったのかを感じられる作品を3つご紹介します。
室内着としてのキモノを描いたステヴァンス
アルフレッド・ステヴァンスはベルギー出身で、その後フランスで活躍した画家です。彼も日本の美術品を、ジャポニスムブームが西洋で広まる初期の頃から収集していたうちの一人です。
こちらの作品は《着物を着たパリ娘》。
鏡の前で青い着物を着て右手にうちわを持つ女性。描かれるモチーフは女性と花瓶、屏風というシンプルな構図ゆえに、中心に描かれた女性の存在が作品のなかで際立ち、視線は自然にモデルと彼女のカラフルでエキゾチックなドレスに注意が向くように描かれています。
ここで、女性の着物の身につけ方を見ると、日本と随分違うことがわかりますよね。実は、着物が西洋に渡り、認知されるようになった初めの頃は、着物はオシャレな女性の間で室内着として用いられていたのです。
ですから、こちらの作品でも鏡に映った女性の前面からは、下着が少し見え、着物も羽織るようなかたちで身につけ、帯は簡易に結ばれているのです。着物が西洋ではエキゾチックでセンシュアルなものとして取り入れられていたことがわかる作品です。
遠い異国、日本の工芸品を細部まで描いたティソ
ジェームス・ティソはパリやロンドンで活動したフランスの画家で、社交界のエレガントな暮らしを描いたことで有名です。
彼の作品は印象派のような空気感のある作風というよりも、どれも細部まで丁寧に描かれていて写実的です。そのため、作品に描かれる家具、服の生地やデザイン、小物などから、その当時のパリのモダンな暮らしを知ることができます。
また、彼は日本の芸術やファッション、美学に影響を受けていました。日本の工芸品を多くコレクションした彼のアトリエは、パリでは有名な目新しいスポットとして知られていたのだとか。
ティソは二人の若い女性が日本の工芸品を眺めている作品を3作品描いています。
こちらの作品《日本の品々を眺める娘たち》はそのうちの一つです。後ろには、ひな人形が飾られ、提灯のような飾りもありますね。二人の前の工芸品が置かれたテーブルには、鶴の模様が描かれたクロスと、その手前には東洋的な陶器に植物が置かれていています。
室内は細部まで日本の工芸品があり、ジャポニスムが色濃く感じられる作品です。
作品に非対称の要素を加えたルノワール
印象派を代表する画家オーギュスト・ルノワール。
都市の風俗を生き生きと描いた作品や、明るく多様な色彩で描いた官能的な裸婦像や美しい花、愛らしい子供などを穏やかなタッチで温かく描く彼は「幸福の画家」とも呼ばれています。
元々磁器の絵付け職人をしており、その後画家へと転身した彼は、当時流行していた日本の工芸品にも興味を持ち、作品の中にも取り入れています。
作品 《うちわを持つ女》は、女性がうちわを片手に持って、こちらを向いているところです。背景には、当時の流行の花でもあった日本の菊を思わせる花々も描かれています。
一見うちわだけがジャポニスムを示しているようですが、興味深いことは、構図にもジャポニスムを取り入れており、非対称の要素を加えていることです。立体的なボネ(帽子)と平面的な日本のうちわ、背景は右側のストライプ柄の直線と、左側の有機的な丸い花々といったように、構図に均衡を持たせずに、あえて非対象にしています。
これにより、浮世絵に見られる、左右非対象、不規則、不均衡といった要素を表現しているのです。構図に目を向けてみると、それまでの西洋の美的感覚にはなかった非対称の美しさを取り入れているのがわかります。
いかがでしたか?
誰もが知る有名な画家の作品5点から、浮世絵や扇子、雛人形、着物といった日本のものが描かれているだけでなく、日本の美的感覚や精神的な部分も取り入れられていましたね。
19世紀後半の頃というと、日本は大政奉還によって江戸から明治へと移り変わり、長い鎖国から海外との交流が盛んになった頃です。それまで知られていなかった日本の芸術は、西洋の画家にとっては、目新しさに溢れていたのでしょう。
画家ごとに、日本のモチーフを自身の作品に落とし込んでいる様子が見られるだけでなく、室内着として使われる着物や小道具のうちわなど、日本のものがどのように西洋に取り扱われていたのかを知ることもできたのではないでしょうか。
また、日本文化が西洋へと渡ることで二つの要素が融合し、新たな作品を生み出した作品からは、様々な発見やご自身なりの印象を抱くことができ面白い体験となることと思います。
5人の巨匠の展示をご覧になる際は、ぜひジャポニズムを頭の片隅に置いてどう作品に影響しているのか、ぜひ参考にしてみてください!
【おすすめの記事】
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?