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エンターテインメント・ロイヤーズネットワーク編
エンターテインメント法務Q&A〔第3版〕
株式会社 民事法研究会 発行

より許諾を得て抜粋
協力:エンターテインメント・ロイヤーズ・ネットワーク


Question

 動画配信サイトでゲームプレイの実況を行うときの注意点は何か。

Point

① ゲーム実況の特徴
② ゲーム画面の権利と著作権
③ ゲーム実況が許容される場面


Answer

1.ゲーム実況とは

 動画配信サイトで人気のコンテンツとして、ゲーム実況の配信は確立した感がある。YouTubeやニコニコ動画、ニコニコ生放送のみならず、ゲーム配信に特化した配信サービス等、数多くの配信プラットフォーム上で、昼夜を問わず、動画投稿・ライブ配信が行われている。あまたのユーチューバー、バーチャル・ユーチューバー(Vチューバー)が、チャンネル登録者獲得の手段として、ゲーム実況に参入しており、数百万の登録者を抱えるチャンネルも登場している。
 ゲーム実況で実況されるゲームは、基本的には、配信者が得意なゲームタイトルであることが多いが、近年は、むしろ発売直後の人気タイトルに一気に多くの配信者が集中する傾向が強い。ゲームのジャンルとしては、近時はFPS(ファーストパーソン・シューター。主人公の本人視点で3Dコンピュータグラフィックで表現されたゲーム中の世界・空間を任意で移動でき、武器もしくは素手などを用いて戦うアクションゲーム)が人気だが、パズルゲーム、アクションゲーム、RPG(ロールプレイングゲーム)、格闘ゲームなど、多岐にわたる。
 「実況」の内容としては、配信者自身がゲームをプレイしながら、ゲームの攻略状況を中継・解説するものが多いが、それだけにとどまらない。恋愛シミュレーションゲームの主人公のセリフ(恋愛シミュレーションゲームではゲームの性質上、主人公のセリフはボイス収録されていない、あるいは、設定でオフにすることができるものが多い)を主人公になりきって読み上げる配信者もいれば、ゲームはプレイしながらも、配信の視聴者たちとチャット欄を通じて、ゲーム内容とは直接関係のない雑談を繰り広げる、人気配信者もみられる。
 このようにゲーム実況のスタイルはさまざまであるが、共通しているのは、ゲーム画面をキャプチャーし、撮影した動画を投稿し、あるいは、リアルタイムで生配信している点である。

2.ゲーム画面の権利と著作権侵害

 ゲーム画面の映像による表現は、中古ゲームソフト販売の可否をめぐる裁判を中心に議論が続けられてきたが、現在は、「映画の著作物」(著作権法10条1項7号、2条3項)として保護されることが実務上確立されている。
このゲーム画面をキャプチャーして、ゲーム実況動画に取り込むあるいはライブ配信する行為は、著作権法上の「複製」(著作権法21条)に、制作したゲーム実況動画を動画サイトに投稿する行為は、著作権法上の「公衆送信可能化」(同法23条)に、ライブ配信する行為は、著作権法上の「公衆送信」(同条)にそれぞれ該当するため、いずれも著作権者の許諾を受けずに行うと著作権侵害となるのが原則である。
 例外的な場面として、「複製」に関しては、家庭内で趣味のゲーム実況動画を作成して、自分自身で楽しむだけであれば、「私的複製」として許容され、著作権侵害には該当しない可能性はある(著作権法30条1項)。もっとも、私的複製と認められるためには、動画制作者が自ら使用すること、または家庭内その他これに準ずる限られた範囲内(たとえば、緊密な人間関係のある10人程度の少数グループなど)で使用するという主観的な目的である必要がある。動画投稿サイトへの投稿またはライブ配信で不特定多数の視聴者に閲覧させる目的の場合は、これに該当せず、著作権侵害となると考えられる。
 また、ゲーム実況の動画投稿の場合、撮影した動画を見やすくする、あるいは、視聴者へのアピールを高めるために、ゲーム画面を一部加工する、といった事象もみられる。このような改変に対して、著作者から、「意に反する改変」であるとして、同一性保持権侵害を主張される可能性もある(著作権法20条)。

3.ゲーム実況が許容される場面

 それでは、動画投稿サイト上での、ゲーム実況の動画投稿・ライブ配信は、およそ不可能なのだろうか。従前は、権利処理が適切になされないまま違法状態で投稿・ライブ配信が行われているケースも多かったようだが、近時、ルールの整備が進みつつある。
 現在、ゲーム実況が許容されるのは、主に以下のパターンが想定される。
 ① ゲーム機本体に搭載されている、録画や投稿機能を利用するパターン
 ② ゲーム会社の設けたガイドライン等で、ゲーム実況が明示的に許容さ
  れているパターン
 ③ ゲーム会社から包括的または個別のゲームソフトごとに許諾を得るパ
  ターン
 上記①については、ゲーム会社側が、録画・投稿機能に対応している必要があるため、著作権者が正式に許諾していることが前提となる。
 上記②については、あくまで、ゲーム会社のガイドラインの範囲内で、投稿・ライブ配信を行う必要があるので、慎重な対応が求められる。近時公表されたガイドラインでひときわ大きな着目を集めたのが、任天堂株式会社による「ネットワークサービスにおける任天堂の著作物の利用に関するガイドライン」である。同ガイドラインは、あくまで、ゲーム実況における一定範囲の利用に限って、任天堂が著作権者として、権利行使をしないことを明確にしたものである。同ガイドラインでは、営利を目的としない、個人による収益化を伴わない投稿・ライブ配信のほか、収益化を目的とする投稿・ライブ配信についても、特定の動画投稿サイトに限っては、著作権侵害を主張しない意向が明確に示され、ゲーム会社にとっては、営利を目的とするか否かがポイントの1つであることがうかがわれる。
 上記③は令和2年に入って新たにみられるようになったパターンである。任天堂株式会社は、同年6月1日に、上記ガイドラインを改定し、Q&Aにおいて、法人によるゲーム実況は同ガイドラインの対象外であることを明確にすると同時に、ユーチューバー事務所やVチューバー事務所数社に対し、同社のゲームソフトについて配信を許諾したことを公表した。このアナウンスは反面、許諾先として名前のあがっていない法人は、無許諾で同社のゲームソフトのゲーム実況を行っているのではないかとの疑念を想起させるものであったため、一部の配信者の所属事務所には問合せが殺到するなどした。その後、同年8月1日にはVチューバー事務所である数社が追記された。ゲーム会社の対応は厳格さを増しており、ゲーム実況を配信するプラットフォーム事業者や配信者にとって、権利侵害のリスクは現実のものとなってきている。

4.ゲーム内の音声・音楽

 ゲーム実況においては、ゲーム内の音声・音楽についても、映像とともに、そのまま投稿・ライブ配信してしまうことが多い。映像について著作権者であるゲーム会社が許容している場合はゲーム内の音声・音楽についても、投稿・ライブ配信が許容される場合が多いが、音楽の権利処理に関しては、必ずしもゲーム会社のみが権利を有するとは限らないという難しさがある。あるゲームタイトルでは、ゲーム内で流されるカーラジオの音楽が問題となったケースもあり、音声・音楽については細心の注意を払うべきである。

5.その他の留意事項

 ゲーム実況のゲームタイトルの選定において注意すべき事項として、ネタバレへの配慮がある。ゲームタイトルによっては、国外でも販売されるものもあるが、国によって発売のタイミングが異なることも珍しくなく、他方で、ゲーム実況の動画投稿・ライブ配信のプラットフォームは、グローバルにサービスを提供している場合も多い。結果として、ある国で、エンディングまでのゲーム実況の動画が投稿あるいはライブ配信されてしまったものを、当該タイトル未発売の国の同タイトルのファンが目にしてしまう事態も想定される。ゲームをはじめとして、エンターテインメントコンテンツのネタバレは大きな反発を招きやすいことから、著作権者も非常にセンシティブになっており、投稿やライブ配信を行うことに際しては、十分な注意が必要である。エンディングまでの投稿・配信を行うに際しては、タイトルの選定のみならず、視聴者への十分な注意喚起も欠かせないところである。

執筆者:中崎 尚


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