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サーファー、営業、そして職人。ゾウガニスタ 望月さんの物語。 - n.1
まずは、こちらをご覧ください。
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木の色と肌の風合いを活かし、組み合わせ、製作された、木の調和が響く作品。
木象嵌(もくぞうがん)という技術で製作されています。
イタリアでは1300年代に用いられ始め、ルネッサンス時代の1400年代には、遠近法を用いた図案で飛躍的に技術が進歩します。
そしていま。
機械という文明の利器で、あっという間に木を切れますが、そんな時勢に逆流するかのように、糸鋸を手に、ひとふり、ひとふり、木を切り、自身のデザインを手がけるひとりの職人がいます。
工房の前を通る近所の人たちは、『ちゃお!』と中にいる職人に挨拶する、フィレンツェの風景。
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ひとつだけ違うのは、職人が日本人だということ。
職人の街フィレンツェでは、靴職人、ジュエリー職人、かばん職人と、さまざまな職種で、日本人も活躍しています。
そのなかで、フィレンツェで唯一、木象嵌細工を専門とする職人が、フィレンツェ人でもなく、イタリア人でもなく、望月貴文(Takafumi Mochizuki)さんです。
アルノ川の向こう側という意味の、オルトラルノ地区にある望月さんの工房にお邪魔してお話しを伺ってきました。
望月さんの活動は前々から知っていましたが、22年4月に訪れたHome Faber(ホモ・ファーベル)で実演している姿をお見かけしたところから、今回のインタビューに繋がります。
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去年の秋頃から、住み慣れたフィレンツェを離れ、キャンティの田舎ライフを堪能している望月さん。
車での生活もしたいし、ゆっくりしたなと思って。町の人たちがすごく親切で、有名な美味しいお肉屋さんもあるし、人がいいんです。
オリエンタルの人がほとんど住んでない環境も気に入って。フィレンツェへはバス通勤で、奥さんが車を使っています。
イタリアって、フィレンツェスタイルもあるし、グレーヴェ(インキャンティ)のあの感じって独特じゃないですか。あの感じがすごく好きで、一度生活圏のなかに入って生活してみたいと思ってて。
オリーブ畑のなかに住んでいるみたいです。
小さいけど暖炉があって、帰るのが楽しみです。
フィレンツェに工房を構え、週末は奥様と散歩をしたり、車で遠出したり。いまの生活になるまで、どのような経緯があり、これからどこへ行こうとするのでしょう。
今回は、望月さんがフィレンツェに来られるまで、そして、来たばかりの様子を伺います。
大学は経営学を専攻され、大学を卒業してからインテリアの専門学校へ入り直したのは、なぜでしょう。
1年だけインテリアの専門学校に通いました。
その前に、大学3年4年と、みんなが就職活動をしているときに、バリ島に2年連続で行ってました。
変なきっかけというか、ずっとサーフィンをやってて、インドネシアのバリ島に2ヶ月行っていたことがあって、単純にサーフィンをしたいなと思って行ったんです。
バリ島って家具が有名なところで、2ヶ月いて、現地の人たちとすごい仲良くしてたんで。
なんかすごく楽しそうなんですよ。ものを作っているひとたちが。
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楽しそうなんですけど、決して裕福な国ではないな、というのはすごい感じてて。なんでこの人たち裕福じゃないのに、こんなに楽しめるんだろうと。
なんかすごい感じして、モノつくっている姿っというのがすごくカッコいいし、その頃から憧れみたいのが、すごい強くて。
とにかく魅力的でしたね。なんでこの人たち、こんなに楽しそうなんだろうって。
もともと家具やインテリアは好きだったので、ちょっと作る方をやりたいなと考えていて、専門学校へ通ってみて、でも、作る方はちょっと難しいな。というところで、家具メーカーに就職しました。
就職された家具メーカーでの営業のお仕事はいかがでしたか?
会社の社風も自分に合ってて、営業なんてできるかな。という感じだったんですけど、訪問営業じゃなくて、デザイナーさんとかプロ向けの家具だったので、訪問する先はデザイン事務所だったりしたので、結構面白い人が多くて。接待とかもなく、異色の会社だったんです。
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最初の2年間は向いているのかなぁ?と思っていたんですが、3年目から調子がよくなってきて。
3年と4年はあっという間で、営業としても成績がすごく良くて、4年目くらいに、大阪にも支店があるんですけど、大阪支店で店長でもやる?みたいな。
独身だったんで、そんな空気感がでていて。留学したいなと思っていて、大阪行ってはもういけないなと思ったんです。
アンティック家具とは、どこで出会ったのでしょうか。
3年目、4年目と調子がよかったので、良いお客様を紹介して頂いて、そいういう方のお家へ納品にいくと、見たことのない家具がいっぱい置いて合って。
でもメインテナンスの方法を知らない、という方が多くて。どこか直せるところがないかな。と相談を受けることが多くて、修復を勉強したら、仕事になるかな。という気もして、イタリアにきたんです。
学校というか、学べる環境というので一番行きやすかったのがフィレンツェでした。
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決めてから留学するまでの準備期間は、どのくらいかけたんでしょうか。
半年くらいですね。
友達に行くって、先に言っちゃって、あとひけない。
家具メーカーはイタリアと繋がりの深い会社で、毎年ミラノサローネには視察にきていて、僕も一度、視察と研修できたことがあるんです。
フィレンツェの語学学校に入り、工房を紹介してもらうようになります。望月さんの運命を変える、レナートさんの工房です。
工房での仕事はどうでしたか?
実際は3ヶ月のコースでしたが、師匠がひとりでやっていて、大きな仕事が入っていたので、じゃあ、手伝うよ。という流れで、結果、1年間いました。
師匠の工房は家具の修復をしていたので、全般をやったんですね。椅子を修理して、テーブルをやって。とか。
で、そのなかのひとつで、象嵌をやって。その象嵌の道具が糸鋸なんですが、すごい体にピタっとフィットして。
それまでに経験しなかった感覚。これは不思議な感覚だな。というのを持ってて。
イタリア中を回っているうちに、結構いろいろなところで象嵌をみる機会があり、これはすごい技術だなっと思って。
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ということは、木象嵌という存在を知らなかったんですか?
そうです。家具の修復で師匠のところへいき、糸鋸をもった、そこから象嵌。
家具の修復は2通りに分かれていて、彫刻系の立体系が得意な工房と、木象嵌ような平面系が得意な工房がある。師匠は平面の方が得意で、それの一貫として、象嵌をやる。
レナートの工房じゃなかったら、ぜんぜん別なことをやっていたかもしれない。
旅で出会った運命の象嵌
アッシジのサンフランチェスコ教会の祭壇の象嵌がすごい。びっしり象嵌で埋め尽くされている。なんだこの世界は。という感じで、あそこがきっかけでしたね。
アッシジのサンフランチェスコ教会の天井って華やかなブルーで、ジョットのフレスコ画が両面にあり、自分も行って、すごいなぁ。と見ているなかで、祭壇の部分にびっしりと聖人が何十体とあり、結構衝撃で、なんだその世界観は。
ジョットをみて、祭壇の方を振り向いたときに、目が象嵌にぶつかり、なんかすごい空気感だな。
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アッシジの
聖フランチェスコ大聖堂
ジョットのあの派手な感じだけだったら、たぶんすごく派手な教会になっちゃうんですけど、そのなかで、あの象嵌があるから、なんかこう、ぐーっとしまる。
独特の雰囲気をすごく感じて、なんかすごい技術だな。と思って。ああいう空気感を出せるものって、なかなかないだろうな。
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アッシジの
聖フランチェスコ大聖堂
面白いのは、木の種類で、エリアが分かれているんです。
クルミ木材を使われているところは神聖なエリアで、それほど高級でないLegno povere(レンニョ・ポーヴェレ) と呼ばれるオーク材とか栗材とか、ああいうものっていうのは、信者が座るスペースの木なんです。
だから、こっちの人って、木を見るだけで、自分たちがどこにいるのかがわかるんです。木の種類で感じ取る。そういうのをすごく感じて、木の素材の面白さというのが、すごく魅力的。
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主祭壇の木象嵌
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主祭壇の木象嵌
フランスやドイツもまわったんですが、どこでも木象嵌があって。
パリはフランスのスタイルがあって、時代のスタイルもある。アールヌーヴォももちろんあるし、ガウディも作っているし。
まったく知識がなかったんですけど、ルーブルやオルセーにも、ちゃんと部屋がある。わざわざ見に行く方っていないと思うので、ほとんど人がいないんですけど。
教会だけでなく、邸宅や別荘にも、木象嵌は必ず装飾としてあります。あとは家具ですね。家具のなかの装飾として入っているし、扉や天井もそうです。
少しづつ、いまの方向へ向かっていったんですね。
そうですね。とにかく、可能性を感じたんです。
いろいろな表現をできる技術だなって感じて、こんなにイタリアに長くいると思っていなかったので、3年くらいで日本へ帰れば日本も木の国なので、需要もあるかな。くらいに思ってたんですね。
そしたら、もうちょっと、もうちょっと、といって、長くなっちゃった感じです。
師匠のレナートさんを一言で表すとしたら、どんな方ですか?
寡黙な方ですね。
黙々と仕事をしているタイプの人です。
周りの職人さんが遊びに来ると、おしゃべりするけど、いわゆる、ザ・イタリア人とは、違うタイプです。
だいたい17時くらいなると、(職人さんたちの)大きな声が聞こえてきて「あ、きたきた」と思って。
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職人コミュニティに入るの、難しくなかったですか?
暖簾に腕押しのように、距離が縮まらない。
挨拶はしてくれるけど、まったく相手にしてくれない。そんなイメージがあります。
まったく相手にしてくれませんでしたね。
師匠は学校の先生だったので外国人馴れしているけど、周りの職人さんは、だいたい70代とか80代の人達だった。
そうなると、オリエンタルの人と話しをしたことがないという方が多かったんで、挨拶すらもしてくれませんでした。
1年経ったあとに、師匠に、自分の作品を作りたいとお願いしたら、やらせてくれました。
木象嵌に出会った旅のあとに、取り掛かった望月さんの初めての作品『富嶽百景』ですね。
はい。そうです。
それをやっていると、傍から見てて、これなに?という話しから、少しづつ距離が縮んでいきました。
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本当に貴重な体験だと思います。向こうもですが、自分も面白がって話しを聞きにいってたんで。
2007年に留学に降り立ち、2014年に工房をオープンしますが、レナート師匠は応援してくれましたか?
レナートは、最初は止めていました。自分が難しいのを分かっているので。息子さんもやり始めていたけど、すごく難しいと感じて、別な仕事を始めていた、というのもあったんで。本当にやんの?って言われました。
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今回は、望月さんがフィレンツェに留学し、師匠の元で習うところまでをご紹介しました。
ゾウガニスタという名前の由来も、次回へ持ち越しです。
短期留学のはずが、あれよあれよと言う間に時間が経ち、ご自身の工房を立ち上げるに至ります。言葉にするとほんの1行ですが、次回は、その紆余曲折を語って頂きます。
望月さんが4年間勤められた家具メーカーAD Core Devise(エーディーコア・ディバイズ)にて、11月下旬から東京と大阪で個展が開催されます!工房に伺っていたときに、偶然知りました。なんという、ジャスト・タイミング。
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望月さんも会場にいらっしゃいますので、ぜひ足をお運びください!
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会場
AD CORE DEVISE ショールーム
東京
渋谷区広尾2-13-2 TEL 03-5778-3341
11月30日(水)〜12月3日(土)
11:00 - 17:00
大阪
大阪市中央区南船場2-6-12 SEDC PLACE 2F TEL06-6265-2060
12月6日(火)〜12月8日(木)
11:00 - 17:00
望月さんのnoteでもご案内しています。作品が出来上がるまでの工程も見ることができますよ!
次回も望月さんの工房にてお会いしましょう。
最後までお読みくださり
ありがとうございました!
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![イタリアのモノづくり | ようこ](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/59203516/profile_54e066bf9ec1bef900b11d1776de76b4.jpg?width=600&crop=1:1,smart)