「ここ」から「未来」へ。 ゾウガニスタ 望月さんの物語。 - n.4(最終回)
フィレンツェで唯一、木象嵌細工を専門とする職人、望月貴文(Takafumi Mochizuki)さんにお話しを伺っています。今回は最終回です。
前回に望月さんが「昔からのスタイルで、新しいものを創る」と話されていましたが、イタリアで木象嵌は1300年代から教会の装飾として使われるようになります。現代の望月さんが製作するのとまったく同じ材料と工程です。
トスカーナの南に位置するモンテオリベートマッジョーレ修道院の教会。1300年初期に建立され、いまも毎日ミサがあげられます。木象嵌が、修道士の座る椅子の背もたれに施されています。
近づいてみると、シエナの市庁舎とマンジャの塔が見えます。両脇の装飾も、凝ってます。
半開きの扉の奥に置かれているものや、幾何学道具。数学的な法則で遠近法が確立されたルネッサンス時代に製作されたものでしょう。まるで絵画のようです。
こちらは、フィレンツェ市街にあるチェルトーザ(修道院)の教会。こちらも、背もたれは木象嵌で装飾されています。椅子の肘のところには天使の頭。
教会内部はこんな感じ。豪華です。豪華だけど、石やステンドグラスの冷たい感触を柔和するのが、木の温もりを感じる、このような木製の家具装飾です。
さて、現代に戻り、望月さんへ、さらなるお話しを伺ってみましょう。
どうしてもできないときは、どうしますか?
自分のなかでゴーサインを出だせないときは、もう、ぜんぜん手は止めないですね。
手は止めない?!
とにかくやり続けます。
自分のなかでのゴーサインとは?
オーダー頂いた方が見て、これだったら納得してもらえるだろうなっていうラインが、自分のなかのゴーサインなんです。
ゴーサインを出しても、夜に目をつぶっていると「ここが」っていう部分が見えてきて、もうこれでいいだろうな。のところから、さらにどこまでいくか。
ソーシャルメディアにはどのくらい時間をかけますか?
30分くらいですかね。土曜日はインスタライブやっています。
YouTubeも力を入れてやってたんですけど、始めちゃうと、1~2時間があっという間で、ちょっと時間がかかります。
ネット販売はやらないんですか?
ネット販売はいま全然やってなくて。
そこを含めてのモノづくりかなと。
自分もやっぱり楽しみたいので。
納品したときの、お客様の表情とか、そのあと話しをするところも含めて、全部かなと思っているので。
それに、今やりやすくなっているじゃないですか?
やりやすくなって、やっている人が増えて。みんながやっているなら、逆にやらなくてもいいのかな。と思っていて。
自分のお客さんの場合は、日本の方もそうなんですけど、フィレンツェ旅行込みでのオーダーなんです。
例えば日本でオーダーをして、来年フィレンツェに行くから、それまでにこんなものを作ってください。という商品を受け渡すまでの、すべてのパッケージが作品になっています。
お客様が日本で注文して、フィレンツェで初めて注文した作品で出会う。1つの作品への思いがずっと続くんですね。
なんかそこも含めてなのかな。と思っているんで。
それこそ、自分の価格設定って、ラグジュアリーブランドの財布と、あまり変わらないんです。
その分、時間の手間と材料と技術は、しっかりかけて、プラスアルファの、エンターテイメントじゃないですけど。
そのようなものを含めた価格と形で、同じくらいになっているなら、まあ、対抗はできるのかな。って。
一番もしくは特に影響を受けている人、受けた人は?
レナート師匠の影響は大きいですけどね。
ひとりに絞れなくって、フィレンツェの職人さんって、いろいろな職種の職人さんがいて、それぞれから影響を受けたんで、一人というよりは、フィレンツェの職人さん達っていうのは大きいですよね。
成長する過程でお世話になった人たちですね?
成長というよりは、ゼロからのスタートだったんで。
ゼロからみてきてくれている人たちなんで、ゼロのときに、スポンジみたいな状態で、どんどん、やるもの、見るもの、触るもの、中に入っていく感じがあったんですね。
そして実感があるんですよね。中に入っているな、吸収しているなっていう。
実感がものすごくあって、それが形になって出てくるので、しっかり中に入っているんだな。って感じれて、で、それを見てもらうと、やっぱり自分が感じていることと似たようなことを言ってくれたりして。
イタリアに住んで、両方の文化を見ることができますが、イタリアの良さを、どこに感じますか?
時間の感じ方とか使い方とか。
自分のやっている象嵌細工って、どうしても時間がかかるんですね。
早くやる方法もあるんですけど。
いま、ソレントとかは、イタリアの中だと唯一象嵌が産業として残っている街で、結構何回も行っているんですけど。
昔は自分と同じようなスタイルでやってたですけど、いまは70~80%レーザーカットで、一気にカットして作るっていうスタイルなんです。
だから、そういうのもあるんですけど、自分が好きなスタイルっていうのは、またちょっと違ってて、時間を使えるようにしたいなと思ってます。
時間がかかると必然的に値段も上がってくるじゃないですか。
そういう自分の作品をしっかり買ってもらえるように雰囲気も作んなきゃいけないし。そういうところから、色々やっている感じで、時間の感じ方が一番大きく違うかな。
東京生まれ東京育ちだから、より感じるのかしら?
実家は足立区の下町の方なんで、普通に高校とかは都心の方へ行っていたんで。そうすると、時間が早いじゃないですか。回転のスピードがやっぱり一番違って。
あのなかにいたら、たぶんこれ(木象嵌)はできない。なかなかフィットしないと思います。
僕は日本では家具メーカーで営業やっていたんで、納期が1日遅れると、結構大きな問題になって。時間との戦いがあって、そこでずっと普通に生活をしていたんで、その感覚が、やっぱり違うな。と。
早かったんだって、フィレンツェにきて、気づいた。
自分自身はもともと結構ゆっくりしている方なんで、その早いなかでも、たぶんゆっくりだったと思うんですけど、だから、余計、自分のペースとは、合ってなかったと感じたり。
1年に1回のペースで日本に帰るんですけど、電車だったり、ちょっと家から外でたら、時間の流れが違う。
工房の前に中学校があるじゃないですか。
子供のスピード感もぜんぜんちがうし。
「のんびり」とはまた違う。
独特な時間の使い方だったり、捉え方が違うなぁ。
時間をゆっくり使えるのが、本当に贅沢だなっと思って。
時空を旅できるとしたら、過去と未来、どちらに行きますか?
過去ですね。1200年から1300年代の過渡期。
どうやってやってたのかな。というを見たいですね。すごく伸びた時期なので、その時代に行きたいです。変革期を体験したい。
いま一番行きたい場所はどこですか?
スペインは行ったことないので、ガウディに興味があるのでバルセロナに行ってみたいです。
普段はイタリアンですか、日本食ですか?
半々ですね。
ランチはこの辺ですか?
お弁当です。
この辺で行くとしたら、ブリンデローネですね。
イタアンで好きな食事は?
肉好きだから、ビステッカかな(笑)
フィレンツェで特に好きな場所は?
サン・ミニアート・アル・モンテ教会です。
この教会は、わたしも好きなので、何度もnoteに登場しています。
理想の休日は?
最近は山歩きじゃないけですけど、のんびり家のそばを歩いています。結構、散歩道があるんです。
ゆっくり1日かけて、太陽の動きでぜんぜん見える景色が変わるんで、写真を撮ったりとか。そいうのが、いまはいいかなぁ。
サーフィンも暖かくなったら行きたいですね。
サーフボードに象嵌加工はしないんですか?
サーフボード作りで有名な職人さんがトスカーナにいるんですよ。ちょっと狙っています。
カヌーを作っているベニスの職人さんがいて、来年新しく作る予定があるから、どう?という話があったりして。
職種の違う職人さん達とのコラボレーションで、ひとつのものを作り上げるって、楽しそうですね。
どんどん職人さんと繋がりたいですね。
ワークショップの問い合わせとかも結構多くって。プライベートで、一人とか二人で、というのは何回かやっているんで。
目の前の中学校でも授業をやろうかというのを、コロナ前にしていて、いま中断しています。ちゃんと見てくれてて、いい意味で、一応考えてくれているようです。
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望月さんの課外授業は実現しました!
みんな興味津々。
子供達も望月さんも楽しそう。
小さい子って、結構好きなんですね。
コルシーニ家の職人展示のときも、30分くらいずーっと一人で見てて、今度は家族や友達を連れてきて、それを3回くらい繰り返してた子がいましたね。
呼んでもらうこともあるので、なるべく出るようにします。印象を残るようにしたいと思っていて。
将来の展望は?
遠い将来は、日本へ帰ってというのもありますが、この仕事って世界中どこでもできる仕事で。
自分のスタイルとしてやっぱり、手で切ってとか、特別な工具とか絶対この機械がないとできないということはないんで、だから、そのスタイルをある程度どこまででもできるので、いろんなところで、いろんなことをやってみたいですね。
象嵌の特徴として、世界中どこでも認知があるというか、ある程度しっかり認められる技術があるんで、言葉の壁以上に可能性はあると思っています。
イタリアは10年以上工房を持って仕事を続けていると、マエストロという制度があって、一応工房でオフィシャルとして生徒だったり弟子を持つことができるんですが、いま8年目なので、あと2年はやるつもりです。
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187センチあるノッポな望月さんは、帽子がトレードマーク。雰囲気のあるお姿と話し方に、じっと耳を傾けたくなります。
確固たる信念があり、ぶれない芯を持っていることが、柔和な口調のなかに見え隠れして、しっかり考えて、行動に移しているんだなぁと、感心しながらお話を伺いました。
知りたいことを貪欲に追求し、分からないことを質問し、ほかの人の意見を素直に聞く、望月さんは、みんなが応援したくなる方です。
だから、変化球を投げてもなかなか反応のこない、フィレンツェの職人さんからも、可愛がられているのでしょう。
「運が良かったんですよ」。と話されていましたが、それは、望月さんの、常に感謝する態度が、運に繋がっているように感じます。
きっといまでも、フィレンツェの職業カテゴリー「木象嵌専門家」は、望月さんお一人でしょう。
フィレンツェ人でも、イタリア人でもない、フィレンツェ唯一の木象嵌職人。これからの活躍を楽しみにしています!
望月さんが4年間勤められた家具メーカーAD Core Devise(エーディーコア・ディバイズ)にて、11月下旬から東京と大阪で個展が開催されます!工房に伺っていたときに、偶然知りました。なんという、ジャスト・タイミング。
望月さんも会場にいらっしゃいますので、ぜひ足をお運びください!
会場
AD CORE DEVISE ショールーム
東京
渋谷区広尾2-13-2 TEL 03-5778-3341
11月30日(水)〜12月3日(土)
11:00 - 17:00
大阪
大阪市中央区南船場2-6-12 SEDC PLACE 2F TEL06-6265-2060
12月6日(火)〜12月8日(木)
11:00 - 17:00
望月さんのnoteでもご案内しています。作品が出来上がるまでの工程も見ることができますよ!
本好きの望月さんの書く文章は、読みやすく面白いです。ぜひ、こちらもお読みください!
最後までお読みくださり
ありがとうございました!
次回、またお会いできたら嬉しいです!