
2024年 Homo Faber n.4 * 日本の工芸家が創造する、美の意識。 Journeys to Afterlife.
ベニスのサン・ジョルジョ・マッジョーレ島で開催された、Homo Faber(ホモ・ファーベル)の様子をご案内しています。
1回目と2回目は『世界』の作品でしたが、3回目からは『日本』の工芸家の作品をご案内しています。
前回まではこちらです。
素晴らしい作品が勢揃いの日本編の続編です。
人生の『はじめとおわり』をテーマにしている今回のホモ・ファーベル。4回目はLove(結びつき)からです。
Birth(誕生)→Childhood(幼少期)→Celebration(祝賀)→Inheritance(継承)→ Love(愛)→ Love(結びつき)→ Journeys(旅)→ Nature(自然)→ Dreams(夢)→ Dialogues(対話)→Afterlife(死後の世界)
テーマの説明は1〜2回目までの投稿をご覧ください。
Love(結びつき)
文化や国を超えた愛と絆の「結びつき」を表現しています。
直接に拝見することができて幸せです。

Twitter(X)で目に留まったのがきっかけ。ベニス近郊で作られるお酒にアマローネという赤ワインがあります。そこの有名なセラーのためにラベルを担当したと耳にしたのも同じ時期。輪島の震災のときにも尽力されたおひとりです。

浅井康宏氏(京都)
2年前も出展されていました。着物は華がありますね。周囲がぱっと明るくなります。おめでたい文様が描かれた色打掛は友禅染めです。

1555年創業。継承と革新を繰り返されたであろう470年の歴史。唯一無二の存在です。
千總(京都)
「結びつき」がテーマだけあり部屋はピンク色。写真を撮るのが難しく、美しい木目を写せなかったので、公式サイトより案内します。

Melting pot(メルティングポット)というタイトルの作品です。様々な要素が混ざり合うことで新しいものが生まれ、アイデアや価値観が融合する。という意味も持ちます。
銀、銅、銅と金の合金、銀と銅の合金の25層で構成しており、素材となる金属の一部は、電子機器のリサイクル素材や廃金属なども用いられているそうです。彫刻のような立体的な形や金属で表現するグラデーションは、アートに繋がる美しい立ち姿です。
佐故龍平氏(岡山県)
艶やかにお化粧された小瓶は伊万里焼です。日本らしい色彩で装飾された細やかな植物模様は、ジュエリーのような凛とした気品を帯びています。

伊万里焼や有田焼など、大雑把になんとなくわかっている気になっていますが、窯元の公式サイトには「伊万里鍋島焼を育む秘窯の里、大川内山」と記載があります。
『鍋島焼』と『大川内山』という2ワードがまるで分からない。

伊万里市の大川内山は、 延宝3年(1675年)から廃藩置県(1871年)まで鍋島藩御用窯が置かれ、将軍家や諸大名、朝廷等への献上品として、日本磁器の最高峰と称される「鍋島」を生産し、三百有余年の歴史と伝統を受け継いでいます。
知らないことが多過ぎて嫌になります。でも知れて良かった!いつか訪れてみたいです。
エスプレッソのコーヒーメーカー「イリー社(illy)」では、コレクションシリーズを展開してます。イリーとコラボレーションした作品が見てみたいです(夢想)。
畑萬陶苑(伊万里)
伊万里鍋島焼協同組合
Journeys(旅)
日本の作品は出展されていないので、海原を超え、次の部屋へと向かいます。
Nature(自然)
自然の素材を用いたり、自然から着想を得た作品が展示されています。

このテーブルに展示されているほとんどが日本工芸家の作品です。すべての作品に共通している素材は「竹」です。
同じ材料を使っているのに、表現方法や製作の違いが個性に結びついています。すごく面白い。近づいては離れ、離れては近づき、視点を変えながら鑑賞を楽しみました。
竹という存在を忘れるような、それでいて竹という、しなやかな素材を活かした、曲線が渦巻くような作品。

竹のイメージを覆すような独創的な作品は、アートオブジェとしての存在感があります。光が落ちた、透き通るような陰も美しいんです。

中臣一氏(大分県)
竹の特徴を汲み取り、竹の声を聞きながら編んだような作品。実寸は手に抱えきれないほどの大きさです。

優しい風合いの漆と曲線が美しく、竹の魂が静かに輝いていました。

作品名は「Bountiful Spirit」。豊かな精神。含蓄のある奥深いタイトルです。
竹と自分の気を合わせることをすごく意識するようになりました。竹はシンプルな素材なので、そうやって気を合わせ、気を入れてつくると、見る人はちゃんと何かを感じてくれるんです。
藤沼昇氏(栃木県)
ソーシャル発信はないので、こちらのインタビュー記事を掲載します。
竹一本が埋め込まれている、斬新な作品。太さや厚みの異なる竹ひご(と言っていいのでしょうか)を捻り、織り込み、掛け合わせてあります。

空に向かい真っ直ぐ立つ竹。地中では、縦横無尽に根が伸びしっかりと土を掴んでいます。竹の足元から枝葉までを表現したような「生命」の迫力を感じます。
油布昌伯氏(大分県)
ソーシャル発信はないので、こちらのインタビュー記事を掲載します。
竹という素材は、作り手によって、これほどまでに表情を変えるものなんですね。

竹は、太くも細くも割くことができる。その特徴を活かし、ミリ単位で極細にした竹ひごを、織物の縦糸・横糸のように編んでいます。編む技術はもちろんですが、ここまで細く竹を割く技術にも感嘆です。
森上仁氏(大分県)
竹の工芸家の方達はソーシャルをお持ちでない方が多いんですね。動画でお届けします。
竹の工芸家のうち藤沼氏以外は、全員が大分県出身です。大分県には竹の文化と伝統が受け継がれているようです。
作家はロンドン在住の日本人。タイトルは「A Small Michikusa and English Daisy Bowl」。

一重咲きの白いデイジーというよりは、丸いふわふわの雛菊のようなデイジーが、真っ白な陶器いっぱいに咲いています。無垢な白なのに、花の色が見えてくるようです。
ウェッジウッドのジャスパーウェアの技法がベースになっているそうです。ジャスパーウェアのイメージは、水色地に白色のレリーフで人物、鳥、植物などを装飾した陶磁器。作家は、レリーフに用いられる技法のみを取り入れ、花々を表現しています。
白を写すのはやっぱり難しい。ホモ・ファーベルの公式サイトより写真を参照すると、こんなに温もりのある白で、内側にも花々が咲いているのが分かります。

細野仁美氏(ロンドン)
不思議に重なった球体。いったいどのような技術をして、球体を作り出したのでしょう。

極細のガラス棒を1本1本挿しているそうです。気の遠くなるような作業。
タイトルの「rheuma」は、リウマチから取っているそうです。まさかの連想です。自分のなかで、美しいオブジェとリウマチが、なかなか結び付かなかったので、インスタを覗き見しました。少し長いですが引用します。
"Rheuma"はギリシャ語で「流れ」を意味します。この言葉は、血液や体液が体内を流れる様子、体の各部を巡る流れ、思考の循環、そして気の流れを表しています。それらは巡り、時に留まりながら、私たちを形作っていきます。
この言葉は「リウマチ」という言葉の語源でもあり、体の歪みや痛みを表しています。私が幼い頃、兄が関節の病気を患い、いつもギブスをしていました。その頃から、私は体の不完全さに対して憧れのような感情を抱くようになり、その感覚は今もなお私の作品に大きな影響を与えていると感じます。
私の作品の多くは、日常や人生における脆さや痛みをテーマとしていますが、それらは私にとって美しいものなのです。
広垣 彩子氏(アメリカ合衆国)
白と黒のまだらうさぎ。うさぎがリラックスする姿をよく捉えています。

柔らかそうな質感だけど、触ったら硬いだろうなあ。なぜって、すべて金属でできているからです。パーツを一つづつ打ち出して、この質感を出しています。
Childhood(幼少期)では、スラっとした犬を出展されていました。異なるお部屋で作品2点も参加できるなんて、すごいです。
吉田泰一郎氏(東京)
螺鈿技法で緻密に作り上げられた作品。漆作家の手によるもの。

極めて正確に貼られた貝殻が光を受け輝き、これが人の手により作られたものなのかと驚異と感嘆の眼差しでしばし見入りました。箱を作り、貝殻を薄く切り、漆を上から塗ったものと思われますが、自然と幾何学の対比が端麗で美しい。
山村 慎哉氏(金沢)
Dreams(夢)
水の張られた暗い空間に浮かび上がる仮面の数々。幻想的な演出のなかでさまざまな「夢」が語られます。
翁の能面。頭には亀と松が飾られています。右後ろの能面も同作家の作品です。

伝統的な能面に、自然を取り入れ、その自然は神社やお寺の古木や神秘的な自然の世界観を表現しているように感じました。
顔の表情のみがクローズアップされるのが能面のイメージでしたが、このような能面を生み出すこともできるんですね。
中村周子氏(東京)
Dialogues(対話)
対話のお部屋には、日本の工芸家はいませんでしたので、最後の部屋へと向かいます。
Afterlife(死後の世界)
あの世へ旅立った世界を表現しています。
波打つような海を連想する作品。この世とあの世を結ぶ水の世界のようです。

ムリーニ技法で制作されたと解説にはあります。調べてみると、この技法は、金太郎飴のように模様の入った棒状のガラスを細かく切ったもの、とありました。
どのように制作されたのか、全然想像がつきません。作家独自のアレンジで完成されたと思いますが、ベニスと日本が融合した逸品です。
AKIRA HARA氏(ベニス)
「死後の世界」という部屋にぴったりのモチーフ。筆で液体を垂らしたような、ならめかな曲線で表現されている骸骨。

曲線を好んでいた豪華な装飾はバロック的とも言えるし、「空間が怖い」と平面なく装飾されていた中世的とも言える。
死と直接に結びつく恐ろしい髑髏のはずなのに、磁器の滑らかな白い質感が柔和な雰囲気を醸し出していて、「死」と「美」が対比しているのか、融合しているのか、色々と考えてしまう作品でした。
青木克世氏(東京)
ランダムそうで調和の取れた脚の装飾は、ルネッサンス建築の扉や窓を装飾するコーニスを思い浮かべました。黒色が線を強調しています。
部屋に一脚置いただけで、たちまちアートなオブジェになりそう。

作家は福岡の宗像市にアトリエを構えているそうです。宗像といえば沖ノ島のある神聖な大地という印象があり、作品のタイトル「やおよろずの系譜」と連動しているように思えます。
作品を製作するための木材は廃材を使うそうです。人よりも遥かに年数を重ねて生きた樹木を伐採し、家や家具になる木々。そのなかには、使われず捨てられるものもあるようです。
やおよろずの神々の住まわる自然を尊び、樹木に敬意を払い、廃材が美しいオブジェとして生まれ変わりました。
中元亮之氏
*** END ***
日本の作家さんの作品をこんなにじっくり鑑賞したのは初めてです。時間はかかってしまいましたが、たくさんの作品と表現者の想いに触れることができて、とても幸せな時間でした。
たくさんの作品が展示されていても、日本の作品や自然と結びついた作品には自然と目が行きます。これは、わたしたちが生まれた風土や文化に根付いている、無意識のうちに感じ取る美なのかもしれません。このような文化と伝統のある国に生まれたことに感謝します。
次回はベニスの街並み写真も掲載しつつ、後書きを添えて、2024年ホモ・ファーベルを完結します。
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最後までお読みくださり、
ありがとうございます。
次回も今週中に投稿し、
2月からは別なテーマでお届けします。
またお越しいただけると嬉しいです。
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